表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

8.気分転換と朝食パーティ

Tips:【状態異常】毒は時間経過でライフゲージが減る。飢餓は時間経過でライフゲージが減る他、全ステータス項目にマイナス1のボーナスがつく。不眠は軽度で全ステータス項目にマイナス1、重度でマイナス2のボーナスがつく。盲目は命中率低下。

 新拠点を作った翌日。東姉妹を含めた全員で旅館の大食堂に集まった。


 自己紹介は昨日の内に終わっているので、現状の把握と今後についての話し合いだ。

 会議と食事を同時にする趣味はないので、食後に話し合いをすると伝えている。和室に黒い長机という旅館スタイルで、料理は和食。夜の内に稼いだポイントを使って秋刀魚や卵など食材を調達して、『料理』スキルを取得したリムに作ってもらった。

 NPCは『料理』スキルが上がると勝手にレシピを下準備込みで覚えるらしい。覚えてすぐに俺の料理を超えていた。俺は、ちょっとだけ心の中で泣いた。


 純和風の朝食を済ませた後、東姉妹に分かっている範囲の現状を説明した。


「この世界が、ゲーム?」


「ゲームかどうかは分からないが、ゲームと同じことが出来たり、ゲームに出てきた敵や仲間になるキャラクターが現れている。お前たちも、この3人に見覚えはないだろう?」


 リムと玲が見つけた双子(偽)を示すと、二人揃って頷いた。総人口100人未満の集落だ。ご近所さんがみんな顔馴染みなんだろう。


「私ね、リムっていうの!」


「私はレイティアって言いますの」


「僕はレイレイって言うんだ」


「あ、はい。改めて、よろしくお願いします」


 それにしても。玲たちが見つけたNPCの名前に二人とも「レイ」が入っているのはどういう事だろう。昨日聞いた話だと、玲が見つけた二人がそう名乗ったらしいんだが。

 どういうことだ?と尋ねる代わりに玲を見る。


「わ、わたしじゃないですよ? 本当ですよ?」


「NPCの名前は、自動で決まっているからなぁ」


「そうですよ! 私を疑うなんておかしいですよ!」


 憤慨した様子で大声を出す玲。剣呑そうな雰囲気に東姉妹が怯えている。おい。


「子供を怖がらせてどうするんだ」


「え? あ、ええっと。ごめんなさい」


「あ、だいじょうぶ、です」


「だいじょぶです」


 何だか東姉妹の方が大人の対応をしているように見える。


「なお、ゾンパニではNPCの名前は自由に変えられるんだ」


「あ、そうなんですね」


「ちょ! 私は違うって言っているでしょ!」


「反応が激しいなぁ」


 何かを察した守明と焦りだす玲。だがなぁ、俺はゾンパニを結構やり込んでいるから、わかっているんだよ。


「玲」


「な、なんですか?」


「ゾンパニは、アメリカのソフト会社が作ったゲームなんだ」


「そう言えば、そんなことを言っていましたね」


「それじゃあ、何でレイレイっていう中華っぽい名前が出てくるんだよ」


「それは差別ですよ! アジア系の人だってNPCに出てくるでしょ!」


「追加パッチで出てくるぞ」


「ほら! じゃあ、問題ないでしょ」


「レイレイがアジア系の人種だったらな」


 全員の視線がレイレイに向かう。レイレイは光沢のある銀の髪を後ろで括って流している。ポニーテールより括る位置が低いけど、あれってなんていう髪型なんだろう。


「いや、ほら。銀色の髪でレイレイって、いるでしょう?」


「ゲームの中ならな」


「じゃあ、問題ないじゃないですか!」


「玲」


 意図的に言葉を区切る。


「俺はゾンパニをやり込んでいたし、Wikiも結構読み込んでるんだ」


「それが、どうかしたんですか?」


「NPCのデフォルト名と初期スキルは、網羅されているんだ。Wikiに」


「まさか、全部覚えているとか、言わないですよね?」


「全部は無理だ」


 NPCは全部合わせると100を超えている。無理だ。


「ただし、追加パッチの中華系NPCは15名で、全員黒髪だ」


 自然と、その場の全員。いや、玲を除いた全員の視線がレイレイの髪に向けられる。やっぱり銀色をしている。透き通るように白い肌も、アジア系とは思えない。


「銀色の髪でレイレイって名前じゃ、おかしいんですか!?」


「落ち着けって。自分で名前を新たに付けても問題ないんだから」


「だから、私が付けたわけじゃなくって!」


 一向に落ち着きを取り戻さない玲。

 だが、その頭を冷やしたのは、彼女の隣に座っていたレイレイだった。


「僕の名前。玲様がつけてくれた、大事な名前。玲様がつけてくれた」


 一時停止ボタンが押されたように、室内から音が消えた。


 ついでにみんなの体の動きも停止した。


 俺は反射的にレイレイの【好感度】を見る。あ、やっぱり下がってる。声を出さずに玲を見る。

 俯いたレイレイをどうなだめようかとしていた玲が、ふいにこちらを向いた。


 こ・う・か・ん・ど。


 声を出さずに伝えると、奇跡的に伝わったようで玲がレイレイを見る。そして声を殺したまま焦りだす。慌てたまま周囲に助けを求める様に視線を向け始めたが、どうでもいい。


「玲」


「は、はい」


「レイレイって名前、良い名前だよな」


「そ、そうです。物腰が落ち着いた彼女に似合う、良い名前です!」


 俺の出した助け舟に玲が飛び乗って、レイレイに抱き着いた。


「にあい、ます?」


「ええ! 絶対に似合います!」


 茶番だなぁ、と思いつつレイレイの【好感度】が回復したのを確認する。玲も確認していたようで、安心したように体の力が抜けている。あの二人はあのままにしておいて、こそこそ東姉妹に近づく。


「細かい事情はあるけど、とりあえず話を合わせてもらっていいか?」


「はい」


「えっと。うん」


 まだ二人とも小学生だろうに、落ち着いているなぁ。半ば現実逃避しながら守明を見る。絵に描いたような苦笑いをしていた守明に、ちょっと表出ろを親指を向ける。


「ちょいと野郎二人で今後の簡単な打ち合わせしとくから、女性陣はデザート先に食べといて」


「冷蔵庫からプリンを持ってきますね」


「え、プリンあったんですか!?」


 カチュアが空気を読んでささっと厨房の方へ歩いて行く。ガタっと動揺する守明に、先に行ってろと伝えると、肩を落とした彼は重い足取りで出て行った。後で、アイツ用のプリンも用意しておくか。面倒だなぁ。


 それから、みっちりたっぷり、玲にNPC二人の事を面倒見とけと注意をしてから、俺も食堂を出て行った。



 俺と守明。二人は数m距離を置いて、互いに武器を構える。

 俺はナイフ、守明はハルバート。ただし木製で、刃に当たる部分は布を巻き付けている。


 今日の狩りに出かける前に、準備運動がてらに軽く模擬戦するのだ。一度でも攻撃が当たれば終了。リーチのある守明に有利なルールだ。俺が銃(モデルガンか実銃にゴム弾)を使えば2秒で片が付くから、ナイフを使うことにした。

 【敏捷】は同じ。『跳躍』レベルは俺の方が高いが、リーチは向こうの方が有利。

 近接戦闘の心得も格闘術も無いど素人同士なら、守明が圧倒的に有利。せめて俺の【敏捷】が1つでも多かったら勝機があったんだけどなぁ。


「じゃ、行くぞ」


「はい!」


 『跳躍』を使った短いステップで前後左右に動きつつ、守明の動きを伺う。攻撃を回避しながら勝ち筋を探す。

 あ、やべ。いま動きミスったら頭かち割られてた。


 余裕っぽい笑みでも浮かべていないとやってられない。格闘ゲームの要領で、小刻みに前後左右の移動をして間合いを図る。

 【体力】の高さに物を言わせた持久戦だ。攻撃するかも、というフェイントを織り交ぜながら守明の周囲を回る。


「このっ」


 焦れた守明が攻撃してきたので、軽く回避してから守明の頭の高さぐらいの『跳躍』でゆる~く跳んで、ナイフを叩きつける。

 高【筋力】に物を言わせて無理やり防御を間に合わせてきたが、それは想定済み。守明のハルバートを足場にして、がっしりと守明の頭を掴む。


「あ」


「はい、俺の勝ち」


 もう片方の手で持っていたナイフを守明の首に当てて勝利した。


 あ~、勝てて良かったぁ。『跳躍』で接近したところを力任せに撃ち落されたら、勝ち目はなかったなぁ。ゲームを含めた実践経験の差が勝敗を分けたかな。



 まだ時間があったので、その後も何戦かやった。

 一応は全部勝った。嬉しくない勝利だ。


 理由は簡単。守明の動きはぎこちなくて、本来の実力の半分も出ていなかった。

 守明は力が強すぎた。守明のパワーで殴られたら、歯を殺していても当たり方次第で死ぬかもしれない。そういう事故を恐れて、守明は動き辛そうにしていた。

 対してこちらは寸止めのしやすく小回りの利くナイフ。

 そりゃ勝つよね。初心者相手にハンデ負わせた状態で負けたら、二度とベテランって言えないわ。あ~、早く強くなりたい。それか、守明を強くして引き籠りたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ