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5.頑張れがんばれやればできる

Tips:敏捷は動きの早さ、速度に影響がある。攻撃速度、移動速度、反応速度にボーナスがつく。速く行動するとその分スタミナゲージの減少が早くなる。

 2回目の食料補給は生鮮食品を中心にごっそり持っていくことにした。どうせすぐ傷むんだから大人数で消費してくれ。


 スーパーに向かう途中、職場とスーパーの間にある障害物は全部丁寧にどけていく。車を二人で移動させるってどんな無茶だよって思ったけど、二人で飛び蹴りし続けたら道路から退けることが出来た。ある程度は道路を片付けてしていたので思ったより障害物が少ない。

 途中からスキル上げになっていたから楽しくなった。ゾンビも飛び蹴りで吹っ飛ばすからスキルが上がる上がる。


 障害物は排除する。道路は綺麗に使いましょう。

 道路の邪魔ものはゾンビだけで十分だ。地道に確実に障害物を排除しよう。

 幸い、都会とは違う。車社会とはいえ、高齢者の比率が多い特徴の田舎町だ。車で逃げる前にゾンビに食い散らかされている。


 ゾンパニで出てくるゾンビは基本成人だ。爺さん婆さんのゾンビは元住民で確定している。ゾンパニとどこまで一致しているのか、にもよるけど。ゾンパニゾンビの特徴は欧米系のゾンビってことだ。だってゾンパニ作ったの海外の人だし。


 たぶん職場の人たちは今頃、大量の料理を食べているんだろう。食糧補給がもう一度行われるか不安に思っているかもしれない。でも晩御飯には間に合うから、待っててほしい。気長に待っていて欲しい。俺も気長にスキル上げをしながら頑張るから。


**************************


 やっとスーパーに辿り着いた頃には昼の12時になっていた。

 さぁて、頑張るか。主に工作を。

 DIYっていうんだっけ。日曜大工って言うんだっけ。細かいことは気にしない。

 片道切符の荷馬車を作ろう。軽自動車に紐だけでつないで引きずって運ぶと確実に摩擦やらで壊れるから、最も手軽で雑なけん引をしよう。


「ショッピングカートに生鮮食品を載せるぞ」


「はい、りょうかいです!」


 段ボールの中に保冷剤代わりに清涼飲料のペットボトルを敷いて、肉を詰め込もう。1時間もあれば到着するからこれで十分。

 缶ビールも保冷に使おう。チューハイも持って行こう。高価なワインとかウィスキーは冷えていないし、気が向いたら持って行こう。瓶が割れたらしょうもないしね。

 下の段も上の段もしっかり詰んだら、雑貨コーナーにある紐で段ボールを固定する。そのヒモの反対側を軽自動車に括り付ける。2列編成だ。少しだけ車を発進させてけん引できたのを確認。

 さぁ、繋いでいこうじゃないか、もっとたくさん。


 スーパー内部にいるゾンビは出合い頭に切り殺す。銃で殺すのは簡単だ。ただ、今後の事を考えたら今の内に白兵系をスキル上げしないといけない。銃は時間短縮の時にやるだけだ。

 どんどん殺して、どんどん運ぼう。

 鶏肉豚肉牛肉に、ソーセージにミンチ。魚類もジャンジャン持って行こう。消費期限が多少過ぎているだろうけど、そこはお酢とか加熱調理で頑張ってくれ。

 どうせあと数日で生鮮食品は全滅するんだ。多少腹を壊してでも食ってくれ。俺はポイント消費でなんか美味いもの食べるけどね。



 さぁさぁみんな。安っぽくて不細工なパレードが始めよう。

 車の後部に、紐で繋いだショッピングカートが沢山。2列各5台ずつ、つまり合計10の台カートを引きずっての荷運び行列だ。

 そいつを引っ張りながら低速で、じわじわ進む。これが一番荷運びしやすいんだ。たぶん。


 なお、こんなことをするくらいなら3往復したらいいんじゃないかってことは、途中で気づいた。

 仕方ないだろう。俺の頭脳は何時まで経っても低レベル帯で彷徨っているんだ。


 ゾンビが居たら、毎回道路の外へ退ける。車はギリギリ踏み越えていけるけど、カートは無理だからだ。

 蹴り飛ばしても蹴り飛ばしてやってくるから、ブチ切れて乱射しちゃった。カチュアも銃を使えるようにしたいけど、今はまだいい。というか蹴り飛ばしたり投げ飛ばして排除する方が手っ取り早いってのがある。


**************************


 かれこれ30分は経ったか、それとも1時間は経ったか。スーパーを出発した出来の悪い列車は、職場に到着した。思ったよりも時間がかかったけど、これっきりだし良い経験が出来たという事にしよう。

 失敗もまた経験。プラス思考大事だ。


 俺が職場の敷地内に入ってくると、建物から歓声が沸き起こった。まぁ、俺が居なくなったのには気づいただろうし、窓から見れば変な車が来るのは見えるからなぁ。

 過積載って何それってぐらいの重量を牽いてきたのでエンジン音がちょっとやばかった。きつめの上り坂を走る時は、全開でアクセルを踏みながらエンジンの悲鳴を聞いていた。

 ちょっと欲張りすぎたなぁ。低速ギアで走ってもやばいって、もう軽自動車じゃなくて適当な乗用車で引っ張ったほうが良かったよな、これ。


「この車もあと数日で使わなくなる予定だし、これも一つの仕事納めか」


「使わなくなるんですか?」


「ポイントで買うからな」


 内緒だぞ、と一応付け足す。カチュアはあからさまに外国人だから誰も話しかけてこないだろうけど、カチュアには職場の人には口を利かないように言い含めてある。

 正確には職場内でしゃべらない、だ。NPCが他の人と会話出来るのかどうか疑問はあるけど、面倒ごとは少ないに越したことが無い。


「さ、運ぶか」


 カチュアに一言かけて、ショッピングカート計算で十数台分の荷運びを開始した。


**************************


 なんだかんだで荷運びが完了したのは午後3時ごろ。運びながら事情を話した。具体的には、傷みやすい生鮮食品を優先して運んだ事と、保存が効くよう塩を塗り込むなり対処する必要があることは伝えてある。

 ついでに宴会用につまみ類をごっそり後部座席に袋詰めで放り込んでおいたので、酒のアテもある。


 昼ご飯を食べてすぐという事もあり宴会は午後5時に開始するらしい。時間だけは有り余っているからと、料理をする人以外は総出で飾り付けをしている。暇人だなぁ。暇を持て増しているぐらいならスキル上げすればいいんだけど、たぶん何も知らないな、こいつら。

 情弱、とは言わない。ゾンパニって、かなりマイナーなゲームだし。


 最大の功労者である俺は、皆が動いている様を眺めるだけ。

 と言うのも良かったけど、気分的に嫌だったので、暇つぶしに1号棟に入り込んだゾンビの始末をしていた。階段の封鎖をする前にそこそこの数が侵入していたようで、階段が使えなくなっていたらしい。

 また、逃げ遅れた人を見捨てて戸締りをしたケースもあったりして、中々に殺伐とした経緯が見て取れた。

 見覚えある人物がゾンビになってました、という事も職場に来てから何度もあった。さっくり殺したけどね。俺の経験値になって消えていけ。

 ゾンパニでは死体は腐らない。現実世界になってもゾンビは腐らないけど、食べ物は腐りそうだから、タダの人間の死体は腐りそうだ。


**************************


 「さてはて。生存者発見、で良いのか、これ」


 目の前の光景にため息をついて、数分前の記憶を思い返す。



 屋上へのドアは鍵が閉まっていた。でも窓経由で屋上には移れるみたいだったので、【器用】10を信じて屋上に屋外から入り込んだ。


 屋上には男一人女一人。

 自棄になったのか二人とも裸だ。何をしていたんだ。きっと、ナニかをしていたんだ。


 ただ、飲まず食わずでやることやっていたんだろう。二人とも虫の息だ。馬鹿か。

 いや、馬鹿になるしかなかったんだろう。屋上まで逃げてしまった。階段はゾンビで溢れている。命がけで壁伝いに降りても、どこもかしこもゾンビだらけ。そりゃまぁ生存本能まっしぐらで最後くらいは楽しみたい、と思っても仕方ない。



 そうして現状把握と過去回想を終えると、俺はリュックに入れていたスポーツドリンクを取り出して、二人の口に少量ずつ流し込む。

 最初はほとんど反応が無かったが、何度かスポドリを飲ませるとむせ込む頻度も減り、自発的に飲むくらいには回復していた。


「目、覚めたか」


 二人の顔は見た事がある、程度。丁寧語で取り繕う気も起きないから普通にタメ口でしゃべっていく。

 二人とも年下だし。何より、こんだけ曝け出しておいて、今までと同じ関係で話は出来ないだろう。


 二人が目をうっすら開けたのを確認すると、声をかけながら少量ずつスポーツドリンクを飲ませていく。雑学程度の知識だが、生存に一番必要なのは空気。二番目は水分だ。

 水中にいるんじゃないなら、とりあえず脱水症状を回復させないとあっさり死ぬ。地道に水分補給を促していく。


**************************


 二人が体を起こせるぐらいに回復したのは、30分ほど経過した後だ。ちょくちょくスマホで現在時間を確認したから間違いない。

 二人はまだ頭がぼやけているようで、ゾンビの様な顔をしてこちらを見ている。


「せい、ぞんしゃ?」


「ああ。とりあえず服着たらどうだ。風邪ひいて死ぬぞ」


 この二人がいつから裸で過ごしていたのか知らないが、4月でも夜はかなり冷える。何をどうしたら真っ裸で生き延びられたのか知らんが、まぁ細かい事は暇があったら聞こう。


 二人にそれぞれスポーツドリンクを1本ずつ渡した後、スティク型の携行食を渡す。1本で1食分の栄養がある系の栄養食スティックだ。

 二人は服を着る気力もないままスティックを受け取ってかじりつくので、ため息交じりに落ちていた服を肩からかけてやる。宴会までまだ2時間以上ある。

 さぁて。こいつら、どうするかな。


**************************


 それからさらに数十分が経過した。

 二人は水分と栄養を補給して頭がはっきりしたようで、今は服を着ている。

 合計1時間で復活する辺り、若さって強さだなって思う。


 二人の様子を見る。照れ恥ずかしさよりも現状の色々な問題や事情を思い出して絶望しているように見える。何があったかと聞くと、ボソボソと男の方が喋り出した。



 二人が屋上に取り残されたのは、昨日の事らしい。

 ゾンビが現れた初日は1号棟の向かいにある2号棟で薬品の実験をしていたが、ゾンビ発生に気づいて引き籠っていた。食べ物も無くて水だけで飢えをしのいで、2日目になって救出される見込みがないと知り、2号棟に備え付けのカップ麺自販機を破壊して食料を確保。

 ライターで紙類を焼いて無理やりお湯を沸かしてラーメンを食べていたが、このままの調子だと後二日ほどで食料が尽きる。だから体力があるうちに食糧の多い1号棟に逃げようと、社内内線を通じて助けを求めたという。一応連絡はずっと取り合っていたが、ゾンビが怖くて危険だったので警察や自衛隊の救助を待っていたのだ。


 そしてゾンビ3日目。

 俺が行動を開始したのと同じ日に、1号棟の人たちと協力して2号棟から移動を開始した。

 問題は、1号棟の1階部分にゾンビがうろついていてエレベーターを使えなかったこと。そして極めつけは、階段を経由して上がっても合流できないことだった。

 IDカードは持っていたが、ドアはバリケードで内側から塞がれていた。バリケードを取り除くまで待てるはずもなく、上へ上へと逃げて、最終的に屋上に逃げ込んだようだ。


 土産代わりに持って行っていたカップ麺をかじりながら寒い夜を抱き合いながら過ごして、絶望的な4日目を迎えて。どうせ死ぬならと自暴自棄になったようだ。

 女性の方はまだ恥ずかしそうにしていたが、男性の方は色々諦めきっている。助けに来たのが女性だったら立場は逆だったかもしれない。


「一応確認するけど。皆と合流するか?」


「無理です」


「それもそうか」


 一度刻まれた不信感はそう簡単には埋まらない。特に全国規模の異常事態が起きているんだ。恨みが元で殺しにかかってもおかしくない。それなら、と提案する。


「俺と行動するか? 職員寮はまだ部屋が余っている。なんせ、俺以外の住民はもう居ないし」


「良いんですか?」


「俺は2階に住んでいるから、1階か3階に住んでくれるって言うなら」


 男性は多少悩むように黙り込む。


「1階が危険かどうかは知らないが。3階が良いならそれでいい。住んでいる階が違うほうがお互い良いだろう?」


「それで、良いのなら」


「俺もちょっと、色々事情があってね。ここの連中とは行動を共にしないと決めている。ああ、裏切られたってわけじゃない。単に、付き合いきれないってだけだ。個人的な事情で」


 含みのある言い方をした自覚はある。だが、嘘偽りはない。一度裏切られた人間が、命の恩人を頼りにするのは物語でもよくある。

 それに、2人程度ならいつでも始末(・・)できる。人数が増えると面倒だが、実力差を十分につけた上で程よく管理すれば問題ない。


「私たちを、上手く利用する、つもりですか」


 女性が初めて喋った。肉体的にも精神的にも限界ギリギリで、かすれた覇気のない声だ。


「もちろん利用する。ギブアンドテイク。或いは取引だ。利害が一致している間は仲良くやろう」


「利用する価値が無くなったら、捨てるんですか」


「敵対したら排除する。そうじゃないなら、よほど、そうだな、拠点をうっかりミスで全損したり、うっかりミスで俺を殺しそうにならない限りは捨てる気はない。どこをどう利用できるのか分からないのに捨てる気はないし、費やした時間に見合った価値を身につけさせる予定だからな。捨てられたくないなら、そうだな。裏切るなとは言わない。俺に損をさせるな、利益以上の不利益を与えようとするな、と言ったところか。まぁ、言い方は悪いが、捨て猫を二匹拾った気分で連れて帰る。お前たちの体調が戻るまで、捨て猫みたいに世話されていろ」


 説得とか面倒くさいから、オブラートは無しで話を進める。捨て猫扱い、の部分で二人とも顔が引きつった。そりゃそうだ。

 でもしょうがないだろう。生存本能が元の発情期でやらかした二人は、風呂も全然入っていないからえらいことになっている。こいつら車に乗せたら、酷い匂い付きそうだ。ポイントで車買うにしても、あの軽自動車はこの二人にプレゼントするか。


「そうと決まったら、とっとと移動するぞ。ここの連中にはお前たちの事は話さない。偶然お前たちを連れている所を見かけるかもしれないが、言われない限りは話題に出さないし、ここの連中には渡さない。方針は決まった。じゃあ行くぞ、捨て猫ども」


「せめて捨て猫はやめて欲しいんですけど」


「だったら人間に戻れるまで、今日はゆっくり休め。風呂に入って、水分を取って、飯を食え。明日になったら今後の事を話すぞ、この発情期ども」


「それも止めてほしいんですけど」


「セクハラが、ひどいですね」


 女性の方も文句を言ってきた。良い傾向だ。軽口が叩けるくらいの元気は出てきたようだ。


「何なら明日に備えてケーキでも用意しておこうか? この糞みたいにぶっこわれた世界に生まれた直した記念日ってことで」


「記念日、ですか」


「ああ。記念日だ」



 それきり二人はろくにしゃべりもしないでついてきた。

 屋上のドアをM1911で壊して蹴り開けた時は驚いたようだったが、それだけだ。合流したカチュアを見た時も何も言わなかった。


 ゾンビを片付けた時も。

 車に乗った時も。

 会社の敷地外に出た時も。

 拠点のアパートに戻った時も。

 二人は沈黙し続けていた。


**************************

 

 「3階で鍵が開いていたのは303以外だ。元の住民は、あの日以来帰ってこないし、二度と帰らないだろう。帰ってきても、もうここの住民じゃないと俺が判断して、邪魔なら排除する。今日からここがお前たちの家だ」


 他人の匂いがする家に案内されて、二人は玄関で立ち尽くしていた。


「なんだ? 捨て猫みたいに、体を洗ってもらわないといけないか?」


 冗談交じりに笑ってやると、二人は嫌そうに笑った。

 この二人はもう大丈夫だ。笑えるなら、この世界で生きていける。


「カラオケみたいに歌うぐらいの音なら問題ないが、それ以上の音を立てたらさすがにゾンビが寄ってくるだろう。室外には俺が帰ってくるまで出るな。風呂で溺れるな。注意することはそれぐらいか? 今日くらいはぐっすり寝ろ」


 盛るなよ?と言外に忠告すると、俺は職場に戻っていった。


**************************


「あー、テステス。ども、派遣SEの佐道弘道です。あ、今日まで体調を崩していたので有給休暇ってことでお願いします」


 宴会にはなんとか間に合った。

 見慣れた食堂はきっちりしっかりと、即席パーティ会場になっていた。どこで用意してきたのか、折り紙の輪っかを繋いだ飾りまでつけている。

 それから幾らかのやり取りの後、何故か俺はマイクを手渡されてみんなの前に立っている。色々説明しろってさ。鬱陶しい。

 仕方ないので俺はこうしてさらし者にされながらしゃべっているわけだ。あぁもう今すぐ帰りたい。この空気で買えるのもそれはそれで嫌だから話すけどさ。

 糞でかいため息を飲み込んで、それぞれの顔を見てから続きを話す。


「俺の装備とかこの金髪少女とか気になることはあるでしょうが、結論を言います。俺は伝える予定の話以外、何も話しません」


 ざわ、と全員が騒ぐ。うざい。黙れ黙れ。


「現在、俺の方では余裕がありません。生き抜くための食料と方法は伝えますので、生き延びてください。具体的な方法はこの宴会が終わった後に。俺は方法を提示しますが、生きるための行動は皆さんで行ってください。それが、あと何年続くか分からないゾンビ災害で生き抜く唯一の方法です。では、乾杯」


 それっぽい事を言って締めくくる。俺はお前たちを抱える気はないぞ、と伝えることも出来たし。後は壁の花になってのんびりするか。カチュアも酒は飲むか? 飲める? NPCは全員酒が好きだったし、お前も飲めるよな。


「佐道さん」


 誰も寄るなとばかりにカチュアと酒を飲んでいたら、大手前さんがやって来た。おいおい、二人の世界、みたいなのを作ってるのに来るのかよ。さすが、若くて有能な人は違うなぁ。


「なんですか?」


「助けて欲しい、という願いは叶いました。その上で聞きます。私たちは努力すれば助かりますか?」


「助かる、の定義によりますね」


「では。何日生き残れますか?」


「全員が協力して、ゾンビへの対処方法を習得したのなら。1週間は生き残れるでしょうね」


「たったの、一週間?」


 大手前さんは露骨に眉を顰めるが、先を促すように口を閉ざした。

 ほんと、ここまで異常な状況で追い詰められているって言うのに、ここまで自分を保てているのってすごいもんだ。

 俺には不可能だったよ。異常な(ゾンパニの)力を身に着けるまでは。


「適切に対処して、その方法を皆さんも実行出来るなら。食糧の確保も武器の確保も可能です。ただ、20人全員を賄うのは難しい。半径1km内に5名だけいる様に住み分けをして、20人それぞれで互いに協力し合えば2週間でも3週間でも。それ以上の人数となると、逆に生存率が落ちるんです。状況が変われば、20人全員揃った方が良い事もありますけどね」


「状況? これ以上何かあるというんですか?」


「はは。資料を作っていないのでプレゼンできませんけど」


「茶化すのは止めてください」


 いつも資料資料とうるさかったので皮肉を言うと、普通に怒られた。軽口が通じない嫌な上司というべきか、真面目な話をしない俺が悪いと言うべきか。


「茶化さないと話せないですよ、こんな状況じゃ。最悪のケースを言いましょうか? 何をどうやっても人類は全滅します、はいおしまい」


「茶化しているわけじゃ、ないみたいですね」


「ええ。俺も、その最悪が来ないことを毎日祈っているくらいですから」


 正確には、ゾンパニ設定が反映されていると知った時から。俺は、その最悪を知っている。


「理論上、町一つをその最悪に備えて改造して、人類最高峰の火力で押しつぶせば生き残れるかもしれません。俺は預言者じゃないですからね。その最悪が来るかどうかもわかりませんけど」


 コップをテーブルに置く。手が震えていることに気づいたからだ。


 あのゾンパニ史上最悪の、終わり。ジ・エンド。滅亡フラグ。問答無用のゲームオーバー。

 かつて、色々な人が挑戦した。有名動画配信者、プロゲーマー、廃人プレイヤー。人間離れした馬鹿野郎どもが、あの最悪を乗り越えようとした。

 そして一人の例外もなく、敗れた。即死は免れて、けど結局はたったの数手で敗北した、製作者によるタイムリミット。


「今すぐ自殺するのも、最悪に備えて生き続けるも、お好きなように。もしかすると、俺の想定外の方法で生き残れるかもしれませんしね」


「貴方は、その最悪と言う物の正体を知っているのですね」


「知ってるけど言いませんよ。生存感謝祭がお通夜になりますから」


 話は終わり。そう示すように手を小さく鳴らす。

 強引な会話の終了を大手前さんは受け入れて。静かに去っていく。カチュアが心配そうにこちらを見ている。俺はお道化るように肩をすくめる。


「しょうがないだろう。勝てるビジョンが見当たらないんだからさ」


 ゾンパニ設定を世界に反映させたのが神様なら、人類の悪あがきを見て楽しんでいるようにしか思えない。

 また震え始めた手を強く噛んで、痛みで恐怖を紛らわせる。カチュアが心配そうに、俺の肩に手を置いてきた。

 周りの視線が集まるのを感じるが、もういい。やることやって、帰ろう。


**************************

 

 宴会が進み、宴もたけなわ。しめくくりも俺がすることになった。

 俺は用意してきた二つのサックを手に、またみんなの前に立つ。


「あー、テステス。さて、生きててよかったパーティももう終わりという事で、一つ確認です。みなさん、ステータスは見れますか?」


 なんだそれ、というざわめきが発生する。気にせず話を進める。


「ステータス。RPGでよくある、自分の能力ですよ。自分のステータスを見る、そう念じてみてください。どうですか? 見えましたか?」


 ざわめきがひときわ強くなった。畜生(・・)。ああ、やっぱりそうなのか(・・・・・・・・・)。全員、見れるんだな。

 ああ、まったく。くそったれが。ステータス、やっぱりみんな見れるのか。くそったれ。人類仲良く全滅ルートじゃなくなったが、結局は地獄じゃないかよ。


「端的に話します。ステータス。拠点。ポイント交換。この三つが生命線です。ステータスに見合ったスキルを取得し、鍛え上げて強くなります。敵を倒してポイントを稼ぎ、武器や食料などを購入します。拠点を守り、拡張して生存圏を広げます。これが生存方法です。メモは取りましたね。では、私からは以上です。餞別代りに、これらを置いていきます」


 俺は一度捨て猫もどきを連れ帰った時に、ポイントで武器を購入していた。それなりに無難な武器を。

 俺がサックから取り出したのは、ブローニング・ハイパワー。

 イギリス軍で正式採用された自動拳銃で、装弾数は13発。威力よりも弾数により安心感と安定を重視してこれを持ってきた。


「13発入りのマガジンを採用したこの銃を4つ。あとは近接戦闘用に軍用ナイフを5本。もう片方には弾が込められた予備マガジンを10個入れてます。これだけあればゾンビ狩りは成功して欲しいです。俺は、包丁だけで開始しました。銃を持っていて出来ない、というのは無しにしてください。このゾンビ災害では、ただのお荷物になりますので」


 強気で解説して、拳銃を床に置くとざわめく人たちを無視してエレベーターに向かう。


「ちょっと待て! それで終わりか!? もっと、なんかないのか!?」


 誰かに肩を掴まれた。カチュアが警戒して刀に手をかけているのが見えたが、目で制する。


「ないです。食糧と武器を提供しました。これでゾンビ狩り出来ないなら、この世界では足手まといです。順応出来ないなら出来ないで、他の人に相談してください。それでは」


 言いたいことを言って立ち去ろうとするが、まだ肩を掴んだままだった。仕方ないので左胸のホルスターからM1911を引き抜いてセーフティを外す。何かわめいているが、気にしない。現状を理解していない誰かさんの額に銃口を押し付ける。


「この世からサヨナラしたいなら手伝いますよ。返事はいかがです?」


 ひっ、と声を出してそいつは後ずさりをした。律儀に両手を挙げている辺り、映画やドラマで得る知識もあながち無駄じゃないなあと実感する。

 他に動く人間はいないかと見ると、手を上げたり伏せたりテーブルの下に隠れたりと、思いのほか危機的状況に順応している姿が見えた。これは喜ぶべきか、警戒するべきか。実に悩ましい。


「俺は生き残るために行動します。さようなら」


 完全決別を告げて、エレベーターに向かった。


 俺を引き留めようとする人は、誰も居なかった。

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