9.生存者の追加は未定
Tips:【精神異常】恐怖は全ステータスマイナス1、混乱はランダムで行動に失敗、不満はランダムで勝手な行動を取る。
新キャラ2名の東姉妹を引き連れて、集落にもう一度やって来た。
思った以上に大人数になったので、結局マイクロバスで移動することになった。
俺はNPCだけで良かったのに、何で序盤で計9名の大所帯になっているんだ。しかも半分はNPCじゃない人間だし。
予定外が当たり前の現実世界と言っても、予定外ばかりでは胃もたれを起こすぞ。
ゾンビがPOPしていたので、いったん止まる。サイドブレーキをかけて、パーキングにして。
「適当に狩りながら行くから後はよろしく」
「え、ちょっと!?」
玲の文句を無視してバントタッチ、運転交代。ドアを開けて外に出る。
外に出て、近くにいるゾンビを撃って、撃って、撃ちまくる。あっと言う間に5体のゾンビが倒れる。うん、今日も命中精度抜群だ。
さぁ、どんどん行くぞぉと走ろうとして、窓から顔を出した玲に呼び止められる。
「いきなり丸投げされても困ります! これからどうしたらいいんですか!」
「生存者がいるんだから、生存者に道案内してもらいながら移動すればいい。マイクロバスは車内に人が不在なら、壊されない。鍵だけかけて探索すればいい。人数が多いんだからカバーしながら移動できるだろ」
「戦いの素人なんですけど、私たち。この二人に至っては、戦闘未経験ですよ?」
「俺たちが銃を鳴らして村中を駆け回る。お前たちは近接武器で倒していけ。あいつらのステータスなら武器持たせて戦わせるだけで勝手に強くなる」
ちなみに追加されたNPC2体のステータスはこうだった。
---ステータス表示
ポイント:0
筋力:8
耐久:5
体力:3
精神:5
敏捷:9
器用:9
---
---ステータス表示
ポイント:0
筋力:8
耐久:5
体力:5
精神:3
敏捷:9
器用:9
---
ピーキーオブザイヤーかよ。
貧弱なのは共通している。あとはスタミナが雑魚なのか、心が雑魚なのかの違いだ。
とんでもなく速く動いて、とんでもなく正確に急所を抉る。ミサイルみたいに扱えばいい。必要な時だけ突撃させて、それ以外は待機。
一応は昨日の時点で、二人の運用方法は伝えている。二人揃って筋力も高いから、持たせている武器も共通している。
ウィンチェスターM70。装弾数3のボルトアクションライフルだ。ボルトアクションライフルの名品で、精度も良い。難点であるボルトアクションも高【筋力】でやすやすと扱える。遠くに居る敵をサクッと撃ち殺すにはちょうどいい。
ただ狙撃中だけでは問題があるので、拳銃も持たせている。
コルト・キングコブラ6インチモデル。コルトパイソンと同じ、.357マグナム弾使用の銃で、装弾数は6発。ハンティングに使えるか微妙なライン、という破壊力を持つ拳銃だ。8インチならハンティング可能という事から威力はお察し、というやつ。コンセプトはやっぱり、単発高火力。火力でぶんなぐれ、だ。
「ゾンビの総数はたかが知れている。まだ7日も経っていない。存分にゾンビを狩り、強化していけ」
「子供二人はどうするんですか?」
「武器を与えて戦わせろ。ポイントの有無が生死を分けるぞ」
現実に、紛争地帯では少年兵が当たり前に居るんだ。世界中で紛争状態になっているなら、当然子供も戦闘要員に組み込む。それが俺の方針だ。
「……ほかに選択肢はないんですか」
「遠回りの自殺って言う選択肢なら、あるぞ」
「それを選択肢と呼ぶ辺り、本当にえげつない性格をしていますよね」
ひらひら手を振って応えると、移動を開始する。さぁて、狩って狩って狩りまくろうじゃないか。
MP5が今日も火を吹く。視界に入ったゾンビを5発のヘッドショットでご挨拶。鼻歌交じりにあっちを撃って、こっちを撃つ。
右から来たゾンビはM1911で撃ち殺し、左から来たゾンビはMP5でオーバーキル。硝煙が一瞬で消えるゲーム銃を使って撃ちまくる。打てば打つほど現実感が無くなる謎。でもゾンビは湧いてくるし、噛まれたらそのうち死ぬ。
笑えるほど非現実的な現実だ。だから笑おう。笑いながらゾンビを撃ち殺そう。楽しい楽しいハッピートリガーのお時間だ。
角から現れたゾンビを纏めて撃ち殺そう。家から出てきたゾンビをヘッドショット。通りすがりにゾンビの首をすぱっと切り捨て。
じゃんじゃん狩ろう。虱潰しに潰していこう。出来損ないな俺が、二度と経験できない大貢献だ。出来損ないになった世界に向ける楽しい遊びだ。射的だ、ガンシューティングだ。じゃんじゃん狩ろう。
俺は【敏捷】6で走る速さ自体は大したことが無い。だけど【体力】8は高い方だし、【小柄】だから実質【敏捷】7だ。だから走り回って銃を撃ち続けても問題なく狩れる。
うっかり間違って怪我をした人間が出てきたら撃ち殺してしまいそうだ。
まぁ、笑いながら銃を乱射している奴の前にひょっこり出てくる頭がおかしいやつは、この世界には不要だ。脱落してしまえ。仲間には絶対したくない。
危険思想だと自覚している。頭のねじは元々抜け落ちていたが、こんな世界になってドンドン頭のねじが溶けていった。もう元の世界での生活には戻れないなぁ。銃を撃つときの反動が体に馴染んでしまった。
圧倒的な力でねじ伏せる快楽に酔い痴れてしまった。漫画に登場するなら、崩壊した社会に馴染み過ぎた狂人の悪役間違いなしだ。
身軽で素早い身体能力を活かし、パルクールな動きで屋根に上がる。瓦の屋根を走るのが楽しくて、意味なく笑う。
【敏捷】7は高校生の陸上部ぐらいの足の速さかな。走り幅跳びなら7mは確実に跳べる。何でも出来そうな万能感が危ういと、自分で思う。屋根から飛び降り様に見かけたゾンビをヘッドショット。着地した衝撃を殺すため前転して、走り出す。
集落の端まで来たので、また走って戻る。今度は建物の中にも入っていく。ドアも窓も壊さない。丁寧に土足でお邪魔します。住民はどうせ死んでる、どうせゾンビになっている。だから見かけ次第撃てばいい。
人間を誤射しちゃったらごめんなさいな。運が悪かったんだ、来世からは徳を積んでくれ。
閉所ではナイフの方が早い。それは高【器用】の俺でも同じだ。ゲーム仕様なら跳弾はしないが、金属製品に当たっても跳弾しないとは限らない。ゲームで起きない現象が現実で発生する。その前提で基本を守ろう。
ふすまを開けたら、ゾンビがコンニチハ。近づいてくるゾンビに対し、半歩引いてからナイフですばり。殺害確認もせず切ったゾンビを蹴り飛ばして室内へ入る。すぐ横に居たゾンビが噛みついてきたので、足を撃つ。動きが一瞬止まったゾンビの顎下に銃口を添えて、脳天向けて撃ち抜く。ついでに蹴り飛ばして、室内の探索を再開。
次の家ではゾンビもいなかった。その次の家でもゾンビが居なかった。その次では小さな子供と大人二人のゾンビを殺害した。その次では子供三人と大人二人のゾンビを殺害した。
その次では。その次では。
淡々と殺していくと、別行動をしていたカティアとリムに出くわした。向こうも丁度、家から出てきた所の様だ。
「怪我はしていないな」
「はい」
「だいじょーぶ!」
【敏捷】は走る速さの他にも、反応速度やハンドスピードなど肉体を動かす速度全般に関係がある。【敏捷】【器用】が両方とも高いリムは、ナイフを持たせれば誰よりも早く正確にキルを取れる。
【精神】も平均以上だから安定している。カティアと同じで【体力】に難があるから、休憩を挟む必要がある。
「座布団かクッションを人数分用意して、どこかの屋上で休むか」
「はい」
「さんせー」
田舎の集落でも瓦屋根じゃない家がある。屋上に一定のスペースがある四角い建物だ。洗濯物を干したり、花火を見上げたり、ちょっとしたバーベキューをする屋上付き住宅は、一時期流行っていたんだろう。そういう家を見つけ再探索した後、戸締りをしっかりとする。
台所で軽く食事を作り、スマホを確認する。拠点を出た時間が少し遅かったか、もう昼の12時だった。
そんなに長時間暴れていたとは思っていないが、もしかしたら4時間撃ちっぱなしにしていたかもしれない。楽しい時間はあっという間に過ぎるもんだし。
冷蔵庫に牛肉が残っていたので、焼き肉のたれに付け込んでたっぷり焼いた。元々がタレ付きだったからマシだったようなもんだけど、タレ無しだったらさすがに消費期限切れがやばかったな。
「そういや、今日は何週目だ?」
スマホを確認するが、やっぱりわからなかった。はて、ゾンビ発生から何日目だっけ。
ゾンパニは7日間で一区切りとなる。2週目だと新キャラが出てくるし、5週目でもやっぱり新キャラは出る。主に敵キャラが増える。まれに強いNPCも出る。ランダム要素だからあてに出来ないが、やばいくらい強い。まぁその強いNPC、俗称ヒーローあるいはヒーローNPCを当てにしているようじゃゾンパニはクリアできない。
ヒーローNPCは普通に強いので、中盤以降でも平気で生き残っている。下手すりゃ終盤になっても生きているんじゃないだろうか。それぐらいバカみたいな能力を持っている。まぁ、見かけたらすごく運が良かったってだけだ。
肉を食べて、たっぷり食休みもとる。その途中で電話が鳴った。誰だと思って見ると、守明だった。
「あーはいはい、もしもし」
『休憩中でしたか?』
「ああ。そっちも休憩してるだろ?」
『はい。拠点化しているマイクロバスのお陰でかなり楽をさせてもらっています。そちらはどうですか?』
「無人の民家で休んでる」
『はは。この世界に順応している、という事ですね。僕はまだ、そこまで割り切れないです』
「割り切らなくていい。元々壊れてた俺がもっと壊れただけだ。真似するな」
どう答えていいかわからなかったんだろう。会話が途切れた。
「こっちも同じだが、NPCの方が俺たちより体力がないんだ。スタミナ切れには気をつけろ。あとレイレイの精神は本当に気をつけろ。あいつの精神力は最低値だ。ほんと気をつけてくれよ。ほんと」
『ま、まぁ、気を付けています。色々と』
電話で話している声が聞こえたらまた不安定になりそうだから話を変えるか。
「東姉妹はどうだ?」
『この場合は良い、と言ってしまっていいんでしょうか。とてもよく働いてくれています』
「二人とも精神力つよつよだったからなぁ」
ステータスを確認した時は、笑えた。なんでこいつら、こんなやばいんだって。
---ステータス表示(東春香)
外見:小柄
状態:普通
ポイント:0
筋力:4
耐久:4
体力:5
精神:8
敏捷:10
器用:7
EXスキル:『韋駄天Lv1』
スキル:『料理Lv2』
---
---ステータス表示(東夏美)
外見:小柄
状態:普通
ポイント:0
筋力:6
耐久:5
体力:5
精神:8
敏捷:8
器用:8
EXスキル:『鼓舞Lv1』
スキル:『料理Lv1』『跳躍Lv1』
---
ゾンパニを百を超える回数、プレイをしてきた。それでもついに出会わなかった、超スピード特化型な東春香。【韋駄天】って実質【敏捷】+2まで上がる壊れEXスキルだぞ。それで、【敏捷】10の【小柄】で敏捷ボーナス付。えぐいわ。えぐすぎだわこいつ。
白兵能力がかなり死んでるがそれ以外は平均的だし、最高クラスの【敏捷】に物を言わせた戦術を組み立てるだけでエースに躍り出る。やばいわ、ほんとこいつ。
夏美の方は【耐久】と【体力】が少ないだけで、それ以外は平均以上。生産も出来るし支援も出来る。EXスキルも支援系だし、春美と違ってあまり戦闘には出さない方が良いだろう。戦闘も可能だけど、それ以外の能力が高過ぎて余分なことをさせたくない。拠点で延々と生産させるもよし、移動拠点で生産と支援を行うもよし。やばいわ。
この東姉妹を見た時はどうやって捨てようかと考えたぐらいだったが、ステータスを見ると捨てるに捨てられない。
捨てられるのに、捨てたら確実に後悔する超高性能なアイテムをゲットした気分だ。
この二人をどう育てるかで、確実に今後の生活に影響が出る。幸いなのは、【精神】が平均以上あるのできちんと精神面のケアをすれば安定する事だ。拠点に戻ったらその辺の話もしっかりしておこうか。
「そういえば、守明」
『なんでしょうか』
「今日ってさ、ゾンビが現れてから何日目だっけ」
『僕が最初にゾンビを見た日を基準にしますけど。今日で7日目ですね』
「おー。7日目かー、そっかー」
疑問そうな声が聞こえたので、補足説明するか。生死を分けるかもしれんし。
「ぎり、1週目か。いやー、びびったびびった。2週目に入ってたらちょっと面倒だった」
『どういうことですか?』
「這いずりゾンビが追加されるんだよ。2週目からは」
這いずりゾンビ。下半身が千切れた状態で、手だけを使って這って接近してくるゾンビだ。ゾンパニは射撃がかなり強いゲームだが、這いずりゾンビは一度しゃがんでからじゃないと射撃が当たらない。
白兵戦ならしゃがんで攻撃するとか、ジャンプ攻撃をタイミングよく当てる、あるいはゼロ距離で攻撃するだけでもいい。だけど銃とかボウガンとか射撃武器だけは、しゃがみ動作が必要になる。
現実で這いずりゾンビを見かけたら下向きに撃てばいいから問題ない代わりに、ドアを開けていないなぁと思ったら足を噛まれていたという事がありそうだ。差し引きしたら厄介レベルが上がってるじゃねえか。
という話を電話で伝えたら、守明も嫌そうな声を出していた。
「室内ゾンビを駆逐して建物を施錠すれば問題ない。夜間に出歩いて噛まれたら面倒だから、明日以降は夜の出歩きは気をつけろ」
『わかりました。ゾンビが徘徊する夜を散歩する機会は今後無いと思いますけど』
俺も、さすがに夜ゾンビは面倒だ。特に明かりの少ない田舎だと、マジ見えない。
「だから2周目が夜0時から始まるか分からないなら、その辺りの事は気を付けていこう。メンバーのメンタルに気を付けて、日が沈む少し前に引き上げるぞ」
『了解です』
**************************
休憩後にまた狩りを再開して、日が暮れる前にマイクロバスに全員集合。そして今は帰還中だ。
風景が夕暮れに染まる中、運転席に座ってくつろぐ。高【器用】だと運転も楽なもんだ。のんびり道中のゾンビを轢き殺す。ポイントに余裕が出てきたから突撃装甲を追加してある。お陰で、ジャンジャン体当たりでゾンビを駆逐できる。
乗り物で倒してもスキル的においしくないのは問題だけど、道中のゾンビくらいは誤差だ。
「怪我とか大丈夫か?」
「見ての通りですね」
ルームミラーに目をやる。玲がぐったりと、車両後部に用意した畳エリアで寝転んでいる。寝転びながらNPCを抱きかかえている。あるいは抱き着かれているという方が正解か。
抱き着いているNPCはもちろんレイレイ。絶対に離さないとばかりにきつく抱き着いている。
「レイレイ案件か」
「戦闘力は高いんですけどね」
レイレイに聞こえたらまた不安定になるので、直接的な言い方を避けて小声で会話。
「玲に懐いているんだ。好感度マックスまで上げれば大分ましになる」
「そうなんですか?」
「好感度マックスになるとマスクデータで精神にボーナスがつく。あとキャラと行動している時は精神異常が起きにくい」
「えっと。マスクデータというのは」
「表示されないデータだ。だが確実に精神ボーナスはつくんだよ」
ステータスは5だと許容範囲内、4だと扱いに要注意。そして3は実質の最低値であり、最大限のフォローをしないと勝手に自滅する場合がある。【精神】は好感度によりフォロー出来る項目だから普段は気にしないが、あらゆる行動に影響を与える。
玲にはNPC2人の好感度を今日中にMAXまで上げてもらうか。
「早い内に仲良くなってくれ。後、手作りアイテムを手渡すと好感度が上がりやすいし、複数渡すと【精神】がわずかに上がるらしい。【精神】が上がるアイテムと合わせて装備すれば【精神】5までは上がると思うぞ」
「手作りアイテム、ですか」
「ゲーム準拠のアイテムじゃなくても上がるかもしれないし。そこは試していこうか」
「は、はぁ」
「もちろん、レイティアを放置するんじゃないぞ」
ちらりとレイティアに目を向けると、ぴくっとレイティアの肩が震えた。玲に添い寝していたレイティアは、狸寝入りをしていたようだった。いや、目を閉じて休んでいただけかもしれない。
「もちろんですよ」
「忘れていたとかじゃ無い事を祈ろう」
下手に突っ込むと藪蛇になりそうだ。カティアに命じて、運転の片手間に作ったココアにメンバー全員に配ってもらう。疲れているようなので甘みマシマシココアだ。
「序盤にしては人数がそこそこ居るんだ。慌てずキルスコアを稼いでいこう」
「序盤って、本当にゲーム脳ですよね」
「ゲーム脳のお陰で、この地獄みたいな状況なのに露天風呂の付いた旅館で休めるんだ。別にいいだろう」
「悪いとは言っていないですよ」
玲はポンコツな部分があったりゲーム脳に順応する辺り、腐女子じゃないにしても十分こちら側の人間だと思うんだが。
守明? あいつは見た目も中身も健康なスポーツ男子だよ。