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第0話 主人公は陰キャ

Tips:キャラメイク時に指定できる【外見】は能力に影響がある。【大柄】の場合は【筋力】と【耐久】にボーナスがつき、【小柄】の場合は【敏捷】と回避率と満腹ゲージ上昇率にボーナスがつき、普通だとスキルレベルの上昇量にボーナスがつく。

 21世紀も半ばを過ぎた頃。世界は、22世紀を待たずして滅びるかもしれない状態になった。

 端的に言うと、ゾンビパニックがやってきた。



 ある日突然、世界中にゾンビが現れた。

 まるで映画みたいな話だが、ゾンビに噛まれて死ぬとゾンビになる。

 ネットニュースやSNSで確認して、ああ、世界は終わるんだなぁと他人事の様に思った。


**************************


 世界にゾンビが溢れてから二日が経った。スマホの日付を見ると、4月3日。

 そう言えば、ゾンビパニックが発生した人は、エイプリルフールの日でもあったらしい。これからは、ゾンビパニックの日と呼ばれるだろう。

 人類が生存していたらの話だけど。



「俺は佐道弘道さどう ひろみち。25歳独身。製薬会社の派遣SEとして働いている。就職3年目の新人卒業社員。現在地は職員寮の自室。状況は最悪。

 社会はたぶん崩壊。ネットは動いている。警察はまだ動いている。サイレンは昨日から聞こえていない。

 状況は最悪。テレビのニュース報道も2局しか残っていないし、終末感が半端ない。状況は最悪」


 スマホの録画を停止する。1日1回、録画するようにした。

 今までも部屋から出ない事はよくあったが、出てはいけないという事実が加わるだけで閉塞感が半端ない。

 連絡を取り合う知人もいないし、お先真っ暗だ。ダイイングメッセージ代わりの映像を撮らないとソワソワするくらい、お先真っ暗だ。


「食糧確保しないと死ぬなぁ」


 わかっている事を口にして、気が滅入る。外出はしない。初日に野太く汚い誰かの絶叫、ゾンビに食べられるどこかのおじさんを見た時に、断念していた。

 警察や自衛隊が事態を解決してくれるのを待っていれば、一か月あればある程度落ち着くはずだ。そう自分に言い聞かせたこの2日間だった。


 結果は散々。自衛隊は「あのゾンビ症状の出た人たちを殺すのは非常識だ」の声を上げた多くの国民のせいで壊滅的な被害を受けたらしい。

 自衛隊が壊滅する原因を作った人たちは「自衛隊は無能だ。税金の無駄遣いだった」と論調を変えているようだ。

 自衛隊が全滅した後でも同じセリフを言うのならある意味尊敬に値する。どうやって生き残る気なのか知らないけど。



 どうしようもない状況になると、変なことをしたがるものだ。

 学生時代はよく、テスト期間中に漫画を読んだものだった。そうして大人になった今、俺は現実逃避をするべくゲームを起動した。


『ゾンビパニックサバイバル』


 通称ゾンパニと呼ばれるこのゲームは近年海外で大流行のゾンビサバイバル系ゲーム。


 ゾンビサバイバル系とは、ゾンビまみれの世界を生き残るゲームで、ゾンビとのリアルタイム戦闘を軸に道具を作成し、食料を補給し、拠点の確保を行い、出来る限り生存し続けることを目的としている。

 ゾンパニは、畑や罠を含めた拠点改造などに加え、ランダムな初期ステータスと経験によるスキルのレベルアップというRPG要素を持ち、一般的なゾンビサバイバル系にやり込み要素を増やした仕様になっている。


 後半になると異形の化け物も現れるようになり、いったいゾンビとは何なのだろうかと思う有り様になる。洋ゲーにはよくあることだ。

 そしてゾンパニは順調に異形の化け物たちを撃退していき、最終的に討伐不能な敵勢力に蹂躙される。ゲームのクリア条件はなく、実質この蹂躙までの間にやりたいことをやり尽くすゲームと言える。


 世界がゾンビゲーみたいな状態になっているのに、こうしてゾンビゲーで遊ぶ。

 俺はもう狂ったのかもしれない。あるいは正常性バイアスかもしれない。画面の中のゾンビを倒しながら、こんな風に戦えたらいいのに。もっと言うなら、スキルで無双したい。

 俺は、心底本気で現実逃避をしていた。


 累計何度目かの蹂躙でゲームオーバーになり、はぁとため息をつく。


「プレイヤー作成でレアスキル出たらいいなー。というかさ、現実にこの仕様で戦えたら、たぶん無双できるよなぁ」


 今ちょうど拠点内だし、と呟く。ステータスでないかなー。出て来いよー。



---ステータス表示

外見:小柄

状態:普通


ポイント:0

筋力:4

耐久:4

体力:8

精神:6

敏捷:6

器用:10


EXスキル:『弾数節約Lv1』

スキル:『料理Lv2』『道具作成Lv2』

---




「……」


 二度見した。三度見した。


 俺の視界に、プロジェクションマッピング?と思うほど明確に、ゲーム画面に似たステータスが現れた。


 何度見ても、ゲーム画面で見慣れたステータスが表示されている。どういう事だろう。少し考えて、漫画や小説の様な展開が起きているのだと仮定する。ゾンパニとの共通点が幾つあるか確かめよう。もしかすると、生き残れるかもしれない。



**************************



 ステータスを確認してから数時間が経過した。

 確認した結果、幾つか分かった事がある。


 スキルの取得方法、スキル項目はゾンパニと同じ。使っていれば習熟し、スキルレベルが上がるのも同じ。どうやらステータスを見るに、俺は後方支援系の生産タイプらしい。

 平均的に素早くスタミナが高いが、前衛やるには貧弱。それが俺のステータスの概要だ。

 素手で戦うのに向いていない。このままでは外出もままならない。

 だからステータス内容を確認して現状把握をした後、出来る限り戦闘力を上げていた。


---ステータス表示

外見:小柄

状態:普通


ポイント:0

筋力:4

耐久:4

体力:8

精神:6

敏捷:6

器用:10


EXスキル:『弾数節約Lv1』

スキル:『料理Lv2』『道具作成Lv2』new!『短剣技Lv1』new!『跳躍Lv1』

---


 ゾンパニではスキル取得方法は二つ。

 色々な行動していたら勝手に生える方法と、ポイントで取得する方法だ。

 敵を倒さないとポイントは手に入らないので、勝手に生えるほうを実践した。


 方法は簡単。包丁を振りながらその場で飛び跳ねていれば、『短剣技』と『跳躍』が手に入る。ポイントが無いと買い物も出来ないので、家にある物を使わないと戦えない。レベル1では不安だけど仕方ない。早く銃を手に入れないといけない。

 銃は命中精度とクリティカルに関係する【器用】が高いキャラに有用な武器だ。

 『弾数節約』は初めて見るスキルだけど、名前からすると銃関係のスキルだろう。あからさまに銃キャラのステータスだから、早く銃を手に入れたい。


 ドアを少しだけ開けて音を聞く。呻き声も何も音が聞こえない。鳥の声が聞こえるかどうか、あとは近くの木々が風で揺れる音ぐらいか。慎重にクリアリングを進める。早い段階で安全圏を広く持っておきたい。

 恐怖で乱れ始めた呼吸を深呼吸で無理やり整える。さぁ、始めようか。



 俺が住んでいたのは職場から徒歩20分ほどの職員寮だ。3階建てで各階4部屋、1LKの物件だ。


 ゾンビ騒動が起きた日はたまたま仕事を休んでいた。前日の時点で風邪気味だったので、職場に連絡して休みを取っていた。

 今はゾンビ騒動が起きてから3日目。ゾンビ騒動で生き延びて帰宅してきた人は恐らく、もういない。

 2階に住んでいる俺が音に気付かなかったんだ、少なくとも3階には誰も居ないだろう。


 そうと分かっていても、万一がある。だからまず2階が無人であることを確認することにした。


 姿勢を低くして移動し、ドアを開ける。地方都市で防犯意識が少ない事と、職員寮には珍しい玄関オートロック式のためか、施錠する人は少ない。


 最初の部屋は小さく謝罪しながら室内を確認する。いつでも逃げられるように土足で。201号室、異常なし。続いて203号室の確認に移る。


 今度は謝罪もなく上がり込む。押し入れもベランダも全部確認する。

 順調に探索を進めていく。他人の部屋に勝手に上がり込むのはどきどきする。おっさんの部屋だってどきどきする。主にゾンビがコンニチハって顔を出してくるか怖くてどきどきする。


 2階の確認が終わったら3階を確認する。どっきどきのばっくばくだ。いつでも使える様に手にした包丁が震えっぱなしだ。


 3階の確認が終わり、そして1階も確認し終わった。この時点でやっと、大きく深呼吸をして、自分の部屋に帰った。

 包丁を安全な場所において、冷えた麦茶を飲んで、へとへとのままベッドに倒れ込んだ。寝転んでから、手汗がすごかったことに気づいた。

 コップを手に取ろうとして、手が震えている事に気づいた。俺は、いま自分が生きていることを実感した。


「あ~。しばらくうごきたくねぇ」


 ぼやく。非生産的な愚痴をこぼす。怠け者の癖だ。生きている、怠け者の癖だ。生きている喜びと消極的思考の螺旋の中で考えを巡らせる。


 現時点で、この職員寮は俺以外誰も居なかった。


 ゾンビ騒動が起きてから、誰一人として帰宅できなかったのだろう。誰も居なかった。女子高生っぽい部屋も、おっさんな部屋も、無人だった。

 3階はともかく1階は鍵をかけている部屋が殆どだったけど、ベランダ側から窓を割って侵入した。ガムテープを張って割る方法はネットで調べた。ゾンビがベランダ側に居ない事を確認していたが、窓の割れる音は心臓に悪かった。

 そして結局、アパートの生存者が俺一人だと判明したのだった。


 だから、俺は決意した。安全なエリアを確保するために、そして強くなるために。あるいは部屋で見かけたGを駆除をするの様に。

 アパート周辺にいるゾンビを討伐する事に決めた。



 大きく深呼吸する。手の中に納まっている包丁を確認する。震えながらアパートの玄関に辿り着いた。


 幸い、寮の玄関近くにゾンビはいなかった。そして、職員寮の周囲にゾンビが2体いる事も、3階から見下ろして確認している。

 ダッシュゾンビが居ない限り、職員寮の周囲20mはゾンビ2体しかいない。


 ドアを開けた。


 乱れる呼吸を無理やり整えながら、オートロックがかかるのを待つ。普段は気にしない施錠音が妙にうるさく聞こえて苛立つ。


 何度も考えたが、いざというときに逃げ込めるようにドアを開けておくのと、確実にアパート内にゾンビがいない状況を維持するのを比較して、拠点の安全確保のために鍵をかけることに決めた。

 逃げる時は周りにゾンビがいない状態で鍵を開けないといけないので、今の俺は猛獣が入る予定の闘技場に放り出された様なものだ。


 デッドorアライブ。一時撤退する時の事は、その時になってから考えよう。


 一歩、足を動かす。


 かすかな音さえ気にして、地面にゆっくりと足を下ろす。


 ゲームと現実は違う。

 ボタンを押せば攻撃が当たるわけじゃない。ステータスやスキルで自動回避できないし、掴みかかったゾンビを確定で押し飛ばせもしない。不幸中の幸いは、ゾンパニでは、ゾンビに噛まれて死亡したときのみ、ゾンビとして蘇生する。


 ゾンビ映画の様にかすり傷がついたら時間経過でゾンビになる凶悪設定じゃない。ゾンビが直接の死因でないなら、ゾンビにならない。


 やる事は単純。1体を蹴り飛ばして、起き上がってくる前にもう1体を殺す。上手くいかなかったら、起きている方を蹴り飛ばして、もう片方を相手にする。

 それをゾンビ2体が死ぬまで繰り返す。それだけだ。


 もう一度確認する。1体を蹴り飛ばして、残りのゾンビと1対1で相手をする。死ぬまで攻撃する。血液が付着してもゾンビ化はしない。死ぬまで攻撃する。1対1を維持する。


「よし、やるか」


 心の中の楽観主義が囁く。最初の数回だけは緊張するけど後は楽に倒せるようになる。だからしんどいのは最初だけだ、と。

 たぶんそうなんだろう。緊張するのは最初だけだ、慣れれば問題が無くなる。それは理解はしている。最初の1回目がしんどいだけだ。

 職員寮近くにいるゾンビたちは2体だけ。獲物を探しているのか、徘徊しているだけなのか、徹夜明けの同僚みたいな足取りで建物と雑木林の間をうろついている。

 ゾンパニのゾンビは視覚と聴覚で反応する。走ったり銃声を鳴らすと気付かれやすい。静かに足を上げ、静かに足を下ろす。抜き足差し足。ゾンビのいる方へ歩く。ゾンビは呻く。唸り声に似た鳴き声がもう聞こえている。ゾンビの足音は近い。音だけでは、ゾンビが近づいているのか遠ざかっているのかもわからない。姿勢を低くして角からゾンビの位置を確認する。ゾンビまで大体10歩ほどの位置。ゾンビは2体とも雑木林を向いている。不意打ちで即死できるなら攻撃すればいい、そうじゃないなら一体を蹴り飛ばしてもう一体を倒せばいい、でも即死出来るのか出来ないならどうすればいい、攻撃すべきかどうするか、ゲームの仕様を信じるか現実の厳しさを信じるか、大きく息を吸って、吐く、よしいくか。


 悩んで最高の機会を逃すくらいなら、試して失敗しよう。最悪、走って逃げよう。噛み殺されなかったらセーフだ。


 なお余談だが。

 後日、『最初の戦闘はグダグダだったなぁ』と、思い出すたびに苦笑する事になるが。何度思い出そうとしていても、何に悩んでどう決意したのか。戦闘中に何を考えていたか。それらは、全く思い出せなかった。

 ただ、必死になって敵を倒そうとした。それだけは、はっきりと記憶に刻まれていた。


 走って、ゾンビの背中へ飛び掛かり、心臓目掛けで包丁を突き刺した。上から振り下ろす様にして、全体重をかけた。スーパーで買った鶏肉のブロックを切った時の感触をより分厚くしたような手ごたえ。直感で、理由も知らない確信を持って、急所に当たったことが分かった。


 もう1体のゾンビがこちらを向いた時には、刺したゾンビの背中を蹴り飛ばす様にして包丁を引き抜いていた。両腕を伸ばしてくる動きを、殺したゾンビの陰に隠れて避ける。腕を伸ばしたままこちらに生き残りゾンビが向き直る。腕を伸ばしてくるのが見えた。俺を掴もうとするゾンビの腕をかいくぐって正面から心臓に包丁を突き立てる。ゾンビは伸ばした腕をそのままに、脱力してその場に倒れ込んだ。


「たお、せた?」


 ゾンビからいったん離れる。

 ゾンパニのシステム上、死んだふり状態はなかった。地面を這うゾンビは、最初から地面を這っていた。それ以外のゾンビは歩くなり走るなりしていて、常に立っていた。ゾンパニの仕様通りなら、倒れたゾンビはもう動かない。つまり、ゾンビを倒したという事だ。


「たお、せた」


 実感が沸いていないが、倒せた。頭を冷やしたい。休憩したい。俺は生き残った。それだけ確認して、部屋に戻った。

「ん? 後書きか。えっと、何を言ったらいいんだっけ。こういうとき」


「えっと、そうだなぁ」


「高評価、いいね、感想など、お待ちしています」


「これでいいか?」

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