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三題噺「いんげん豆 話す 貸家」

作者: 九八

 ピンポーン。

 大学の講義が午前中に終わり一人しかいない家の中でゴロゴロしながらスマホをいじっているとインターホンが鳴り響いた。

 扉を開けると実家の両親からの宅急便だった。意外と重くて大きい段ボールのガムテープをはがしていく野菜と一通の手紙が入っている。

「手紙……は別に要らねぇや」

 手紙をその辺の床に投げておいて空いた手で段ボールの中を漁る。

「そういや、一人暮らしするって言ったとき親が毎月仕送りしてくれるって言ってたんだよな。」

 これのことかと思いだしながら中の野菜を見てみる。

「うわ、インゲン豆入ってる。俺嫌いだって言ったじゃんか」

 なんでこんな変な匂いするもの食べるのか。

「というか、なんで仕送りが野菜なんだよ。現金でもくれればいいのに」

 料理なんてやんなくても外でいくらでも食えるんだから野菜なんていらねぇだろ。

 ほかの野菜は切ってサラダにでもすればいいがインゲンだけは食べる気にならないな。……捨てるか、誰も何も言わないだろ。

 こうしてインゲン豆を袋に入れて生ごみに入れた後、投げた手紙のことを忘れていた。


 ◆


 大学の講義も予定もなくて家でスマホをいじっているとインターホンの音が静かな部屋に鳴り響いた。両親からの仕送りはもらったし通販で頼んだ覚えもない。新聞の勧誘かなにかだろうか、面倒くさいからやめてほしいな。

 ……新聞の勧誘より面倒くさいのが来てた。ドアを開けて目の前にいたのはこのアパートの大家だった。

 「南波さん、家賃の集金に来ましたよ」

 「家賃、ですか?」

 「はい、先月は来たばっかりだったので受け取りませんでしたけど今月からは支払ってもらうという約束でしたよね。」

 ――まずい、完全に忘れてた。この前遊びに使い切ってそんな金ないぞ。どっかに使ってない金ないか?

 「す、少しだけ待っていてください」

 大家に言ってから奥の部屋に引っ込んで部屋の中を引っ掻き回す。まず通帳を確認してみると見事に何もなかった。これはまずいと何かないかと探してみるとなんと机の上に封筒が1つ。両親から送られてきてそのままにしていたものだった。実は手紙ではなく金なのではと期待して中身を見てみると、案の定手紙が一通入っていただけだった。試しに手紙を読んでみると。

 「月末には家賃の集金があるはずなので口座に家賃分のお金を振り込んでおきました。無駄遣いしないように」

 いつの間にか口座の金が増えてたのはそういうことか!ラッキーと思って遊びに使っちまったよ!

 「南波さーん、大丈夫ですかー?」

 時間をかけすぎたのか大家が声をかけてきた。このままじゃまずい、何かないか?打開策を探す俺の目に一つの段ボールが目に入った。その中には野菜が大量に入っていた。そうだこれで急をしのげば!

 「あー大家さん。ところで野菜いりませんか?両親から貰ったんですが量が多くて」

 「野菜ですか?いやいや大丈夫ですよ」

 「そんな遠慮しないで下さい余っていて大変なんですよ」

 そういった後に少し考え込んだ大家はふと思い出したように。

 「それならインゲン豆はないでしょうか。インゲン豆、好きなんですがスーパーに売っていなくて」

 イン……ゲン……豆?最初に捨てちまったよー!これなら捨てなきゃよかった!

 そんな動揺を隠しながら……隠せてたか?大家に返事する。

 「インゲン豆は入ってなくて……。すみません」

 「それならしょうがないですね。それでは今月中には家賃お支払いくださいね」

 「はい……」

 それから大家さんは隣の部屋にインターホンを押しに行った。それを見送った後、扉を閉じた俺は金の使い方を改めることと親の手紙は大事にしようと固く誓うのだった。

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