絨毯沼【1000文字未満】
俺は今、王族の私邸に招かれた。王女を救った礼をしたいらしい。金でもくれるのだろうか。それとも地位? 面倒だからさっさと帰りたい。
メイドに案内されて廊下を行く。絨毯が川のように伸びている。靴から伝わるふかふかのそれが足裏を撫でる。
いや、ふかふかすぎて足が沈み始めた。しまったこれは沼だ。絨毯の感触をした沼だ。
「どうです? ふかふかでしょう」
「ふかふかだ。沈んでしまうよ」
「ご安心ください。これは底なし沼です」
結局飲み込まれた。絨毯の暖かさで心までポカポカだ。泳いでみる。布団の中で動いているかのような心地良さ。
泳ぎ着いた場所は、王女の部屋だった。見渡すと絨毯の模様がたくさん。つまり調度品は全て絨毯でできているのだろう。
「よくおいでくださいましたわ。さぁ横になって。たっぷりお礼を致します」
天蓋付きのベッドに横たわる。体が沈没していく。なんて素晴らしいベッドだ。体の力が抜けていく。
「それも底なし沼ですわ」
しまったこれもか。羽毛の中に沈み、くすぐったくて笑う。泳いでいく。
地上を手で掴む。登り上がると、そこは絨毯だった。正確には、絨毯が積もっていた。空から雪のように降っているのだ。
いつの間にやら足が沈むふかふか世界になってしまった。バランス取るのが面倒だし、何より質量はそのままの絨毯が落ちてくるからいつも死にかけている。