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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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閑話

「あーそりゃ迷宮はあるぞ。最近、魔物の襲来頻度が増えたから。そこにいるのが夜間に盛んになる魔物か、昼間が危険な魔物かはわからないが。

 その辺りが判明したら教えてくれ」

「自分で潜らないのかいダグラス。自慢の斧がさびしそうじゃないか」

「からかわないでくれよ、ソフィアさんよぅ。もう、俺は冒険者じゃない。これでも兵士長になったんだぜ。『早春の誓い』全員がだけどな。迷宮攻略は他に任せるさ、俺は守るのが仕事だ。

 それに、この斧はまだまだ長い付き合いになるさ。あの河の向こうは魔物の領域だからな。この時期なら、毎日のように襲撃がある。

 で、『雪兎』は潜るんだろ?」

「雪兎からも10人ばかり領主様に雇われて抜けてしまってさ、迷宮に潜れはしても、攻略しようって雰囲気じゃないんだよね。高ランクはそれなりに残っているけど、若いのを放っておけないからさ。だから、訓練代わりには入るけど、攻略はしないね。

 薬草でもなんでも、河向こうに行かないと訓練にならないから、どっちにしろ橋渡るし、まあ丁度良いのかね」

「気を付けろよ。『雪兎』にわざわざ忠告するような内容じゃないが。

 近場は兵士が見回りしているとはいえ、迷宮と魔物の住処だからな。こっちに若手向けの森がありゃよかったんだが」

「尻に殻付けたペーペーだけだからね、こっちの森に入れるのは。若手以上は河を超えなきゃいけない。ちょっと面倒だよね。

 あんたのとこも、門の開け閉めがあって面倒だろ?冒険者の棲み分けをしようなんて、変わった領主様だよ」


 俺の目の前で肩をすくめるのは、かの有名なクラン『雪兎』のリーダーで、Aランクパーティー『雪兎の足跡』を率いるソフィア。舐められないように外だと乱暴な言葉遣いだが、上品な雰囲気があるアンタッチャブルな一人。どっかの貴族の系列じゃないかなんて言われてるな。古い付き合いではあるが、愚痴を言い合うような中ではない。一緒に飯を食うなんて、ギルドでのバカ騒ぎの時でもなけりゃ記憶にないな。

 それでも俺のところに話に来たのは、顔なじみの冒険者で防壁付近の警護についているからだろう。普通ならこんな情報収集をするような奴じゃない。冒険者の多くが領地の兵士になってしまっているのでギルドや酒場とかでの情報交換に障りができているって話は本当なんだな。情報をギルドに流すよう意見具申してみるか。

 『雪兎』に限らず、引退する女性冒険者も増えている。安定的な職業を得た元冒険者がここ数カ月でどんどん結婚し始めたからだ。まあ、それまで根無し草だった奴らが安定するとそうなりやすいって聞くが、本当にそうだった。うちの元メンバーも半分結婚しやがった。羨ましい限りだ。

 反面、目の前のソフィアのように、より冒険者としての活動に力を入れる奴らも出てきた。ここリロルでの有力な冒険者はコロコロ変わる。リステンは良くも悪くも安定してたんだと今になって思う。


「おかげで引退したり、突然いなくなる若手が減ったんだろ?良い事さ。今のリロルは人手が足らん。

 身体強化すら満足にできない若手だって選べるほどの仕事があるんだ。人手なんていくらあったって足りやしない。こっちからしたら怪我すら止めてほしいもんだ」

「好きで怪我する奴はいないさ。でも、それくらい頑張んないと低ランクは生きていけないからねぇ」

「武器も装備も高いからなぁ」

「宿や食事も馬鹿にはできないさ。それなりのところじゃないと、気力も体力も回復できないし」

「……俺らも最初の頃は思い出したくないなぁ」


 俺の生まれは西部の寒村。領主様の生まれ故郷とは逆に、西部でも南の方向にあった。不作と飢えた魔物の襲撃によって、ただでさえ小さかった村は誰も住むことができなくなった。近くの街の貧民街で暮らすのが嫌で家と飛び出て、年をごまかして冒険者になったのが10にも満たなかった頃。

 スラム出身や貧民街、流民なんて似たような境遇の奴らとつるんで食うや食わずの冒険暮らし。屋根のある馬小屋の隅を借りられた時がまだまし。最初はそんな生活だった。そこらの野草や魔物の肉ですら旨い旨いと食った記憶がある。今思えば、オークなら旨いが、動物系の魔物の肉はそんなに美味しいもんじゃなかったなぁ。

 強くなって迷宮と冒険者の街リステンまで来て、パーティーの仲間とBランクにまで駆け上がって……。


「なに遠い目をしてるのさ。話している時に失礼な奴だね」

「ああ。冒険者になった頃のことを思い出しただけさ。あの頃なら、新しい迷宮なんて聞けば命を顧みずにどうやって入ろうか考えただろうにってね。

 今は取り締まる側だからなぁ」

「……でも、取り締まりはしてないんだろ?」


 ソフィアも聞いては悪いと思っているのか、とても小さな声だった。隣にいても微かに聞こえるくらい。

 そんな気遣いはありがたい。ある程度の人間には知られているけれど、おおっぴらにしたい内容じゃないんだ。


「河の向こう側だ。柵でも砦でも作ればまだしも、管理する方が危険すぎる。それに、あっちにわたる方法は橋だけだから」

「そこを見張っていれば問題ないか。

 それに、ギルドとかで換金した内容を確認すればわかるか」

「そうだな。ギルドの方がその辺りは厳しいぞ。リステンどころか北部で入場制限してるのはギルドだからな。魔物と戦うにはそれなりの戦力に鍛え上げないとってのが辺境伯の、北部貴族の判断って訳だ。それはもちろん、ここリロルでも変わらない。

 人を育てるのにかかる労力を考えると、おいそれと使い潰せないんだろう。金も時間も限られてるからな」

「人を育てる、ねぇ……理解できるし、良い考えだけど……」

「冒険者としては、迷宮を攻略したいよな。

 でも、無理はするんじゃないぞ。『雪兎』は女性を育てる貴重なクランだからな。

 それに……」

「それに?」

「北部じゃ冒険者は迷宮に潜ってこそだけど、他の地域じゃちがう。そこまで迷宮に拘っていない。そもそも迷宮が近くにないからな」

「ははっ。想像もできないね」


 軽く肩をすくめたソフィアが小さく笑った。

 その後も食べながらいろんな話を聞かれた。こちらとしても、ある程度の情報を流すことは上も承知している。ギルドの有力冒険者をかなり引き抜いた弊害を理解してくれているのだ。自分の古巣だし、顔見知りだって多い。ほとんどの元冒険者が、情報源としての協力に二つ返事で頷いた。

 とは言っても、教えられるのは与えられている情報だけ。新しい迷宮について知ってるのは大体話した。他に何かあったっけ?

今回はここまでとなります。

まだまだ、ゆったりとした時間が流れております。まあ、街は急速に発展していますが。

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