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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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6-11

「柵ができる欠点はあるけれど、そこはほら、私は辺境伯家の一族だからね。仕返しが怖くて下手に利用しようなんて貴族はいないよ」

「そもそもこの地域で対立するような貴族はほぼないってことか。それに、街ができれば後は交易で借りはいくらでも返せると」

「そうだ。既に貴族の息がかかった商家から交易隊の通行に関して、いくつか話が来てる。道の奇麗さ、通りやすさも魅力的だとさ。まったく、その情報収集能力には驚かされるよ。まだ始めたばかりなのに、どこから知ったのやら。

 利益については、実際目端の利く小さな商隊が来て、毛皮や素材、干し肉なんかをかなり買ってくれたから倉庫に空きが目立ってきたくらいだ。通行料など取らなくても、泊ってくれるだけでかなりのお金が手に入る。

 これなら、街の防壁を倍くらいの長さにした方が良いかもと思っているくらいさ。交易が始まったら、にぎわいそうだ」

「ば、倍?

 ……リステンよりも広くないか?」

「君たちが住んでいたロンドリアは、リステンとは比べ物にならないくらいに広かっただろ?商都ロンドリアとは比べるべくもないが、ここも将来必ず交易の中心地になる。可能ならあれくらいの広さは必要だろう。

 幸いなことに、早々に交易隊が行きかうことになったから資金計画には余裕がある。君の出稼ぎと、報酬もあてにしてるがね」

「……ふぅ。わかった。

 それが必要なら、そうしよう。俺も、ここリロルに愛着が湧いてる。名実ともに俺の領地だし。ここが発展するのは願ったり叶ったりだ」

「中途半場に広げてを繰り返すと、かなり無理が出てくるからね。

 最初から大規模になることを前提とした街にしよう。食事が終わったらいくつかある計画図を見てもらいたいんだ」

「りょーかい」

「……仕事の話ばかりで済まないね」

「それを言ったら、色々と押し付けているのは俺の方だろ?いくらジーナの方が位が高いと言ったって、ここの領主は俺なんだし、本当なら、もっと俺が采配を振るわなきゃいけないんだ」

「他人に任せるのも立派な采配さ。君は十分にやってる。新興貴族で新興領主。しかも、別の地方出身で北部には来たばかり。その状況でここまでスムーズに開拓が進んでいることは、奇跡以外の何物でもないよ」

「いやいやいやいや。どう考えても、辺境伯家の手柄だろ」


 確かに、整地はした。道も通したし、伐採なんかもこっちがやった。石材の準備も大変だった。でもさ、人、それも計画できたり図面書けたりする専門家がどれだけ貴重で、どんだけ忙しいか。それを、砦やら街やら作れるレベルで用意するのが、下級貴族にできるはずもない。建築資材だって、外から持ってきているやつは、辺境伯家の名前がなければ金額も手間も跳ね上がっていたはず。

 そもそも、地域内の、川よりこちら側の迷宮を潰して回ったのは、手ごわい魔物を倒して回ったのは辺境伯家の騎士団。それがなければ、俺らが最初に馬車で西部からやってきた時にもっともっと苦労している。迷宮が少なかった西部と違って、北部は森も、魔物も濃い。今回、リステンで村の人間と話したからそれくらいは理解できる。

 迷宮に潜ったから、迷宮攻略の大変さもよくわかる。魔物との戦いも、外でも中でも経験した。かなりの下準備がしてあったからこその、今順調な開拓なのは、言われなくても理解しているんだ。……詰め込みだけど、かなり勉強したんだぜ、俺。

 危険すぎない未踏の地。危険を冒さなくてもある程度の利益が見込める依頼。さらには、真面目に頑張れば兵士や騎士……は厳しいかもしれんが、上級兵士になれる可能性がある状況。冒険者が、それも、リステンでかなり成功している冒険者がこぞって来てくれたのは理解できる。迷宮踏破が楽しくてって奴らはこっちの依頼に見向きもしなかったし。今は良くても将来を考えてとか、そろそろ落ち着いてもってベテラン。自由な冒険者を目指したけれど、結婚するには不安定だしとか、そこまで向いていなかったって新人。どっちにしても悪くない儲け話だと判断した中堅。それぞれがそれぞれの理由で参加してくれている。おかげで、力仕事から地域内の探索、川向こうの確認と安全確保まで幅広く事態が進んでいる。

 しかし、彼ら冒険者は、自分で危険性を判断しなければいけない分、危ない空気には敏感だし、状況に対する判断も堅実な者が多い。まったく聞いたことも見たこともない若き新人貴族にではなく、辺境伯家――とはわかっていないだろうけどなんらかの強大な有力者――がバックについていることを察知し、安心して、いやむしろ積極的に参加してくれたわけだ。

 あっちにもこっちにも、陰に日向に、辺境伯家の影響ってのが満ちている。特に、ここは北部だから。彼らの影響力ってのは強い。と言うか、いくら俺が西部地域の出身だって、あっちの貴族に伝手はない。目をかけてもらったり、配慮してもらえるようなことも、融通を利かせてくれることもあるわけないだろ。精々、出身村からの見る目が優しいくらいさ。

 それを理解しているだろうに、ジーナは何も主張しない。逆に、俺の手柄だと言う。辺境伯家の方々もだ。孫娘の時儀先がきちんとしていないとってのがあるのかな?それ以外にも何か思惑があるのかもしれないけれど、まあ、こっちもやりやすいので異存はない。精々、感謝を忘れないくらいだ。


「この地は発展するよ。今までは西から北へのルートは中央を通る必要があった。どうしても距離が増え、コストが嵩んでいた。穀物庫である東との競争もあるしね。でも、これからは違う。直接北へと渡すことができる。東と争わなくても十分に利益になるんだ。

 行商人や商隊が動けば、人が動く。こちらだけでなく、西部辺境にも人が増えるだろう。人の手が増えれば、西部の荒野も開拓されるはずさ。そうなれば、もっと北へ動く食糧なども増えるだろう。その中心地が、ここリロル。

 下手に商売の邪魔をしなければ、何もしなくても繁栄するさ」

「それはわかってるよ。ジーナの先見の明のおかげだな」

「ディグ。やはり君の自己評価は低すぎる。私が選んだ夫なんだ。もっと自信を持て!

 君の土魔術がなければ、ここまでスムーズな開拓はできていない。この十倍の人数でもってしても、精々三割の森を切り拓き、一割の石を切り出し、道と砦の位置を考えている程度さ。

 木の根の掘り起こしや土を固めるのにどれだけの人と時間が必要か。道が整備されているだけでどれだけ移動が楽か。石を整えるのにどれだけの技術がいるか。わかっているのだろう?」

「……あまりおだてないでくれ。調子に乗ってしまうよ」


 子爵領から引っ張ってきた部下たちはとても優秀で、通常の開拓と今とを簡単な数値で比較した書類などもある。だから、自分が役立っていることはわかるんだけど、褒められるのには慣れてないんだ。

 新興貴族がおだてられて舞い上がっても良い事ないだろ?ちょっとは手加減してよ、奥さん。

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