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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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6-9

「東の領地がきな臭くなりまして。わしらにも殺しの依頼が舞い込むようになりました。それも、偉そうな方々からです」

「それは……」

「使い捨て。トカゲのしっぽだな」

「はい。わしらなんてそんなもんです。それくらいはわかっとります。

 ですが、わかり切った危険からは逃げますです。これでも命は惜しいもんで」

「こんな遠い所にまで伝手をたどって来るとは、と思っていたが」

「利益になるもん一切合切捨てて、命のためにここまで逃げてきました。受け入れていただけるなら助かります」

「ふむ……依頼人は」

「わかりません。いや、わかってしまったら逃げられないと思ったんで、調べることすらしてません」


 東がきな臭い、か。既に情報を手に入れているだろうけど、ジーナを通じて辺境伯にも連絡しておこう。

 それにしても、命がかかっているからか、常に切り捨てられる立場だからか、危険には敏感なんだな。こっちの魔物達よりも、冬の寒さよりも、危険って……戦でも起こるのかよ。冗談じゃないぞ。東部はこの国の食糧庫。収穫量が激減すれば、余波で割を食うのは北部だ。冬を超えたことで値段が下がった食料も、麦の収穫が近づく夏までに少しずつ値が上がる。大量に購入でいるだけの余裕はない。それでも、買い集めるしかないか。

 冬のさなかに迷宮で食料集めができるリステンですら、それだけで街の胃袋を賄えるほどには獲れない。あれだけの冒険者が潜っていて、だ。迷宮探索向けの整備すらまともにされていない我が領地では話になるまい。それでも、今年の夏は砦などの建設や畑の拡張などの将来を見据えた作業よりも、短期的な食料の確保に力を入れる必要がありそうだ。

 思わずため息が出る。


「……推測はできま「不要だ」はぁ」

「お前達がここまで来るのに二ヵ月ほどか?あちらが動くつもりならすでに動いている。辺境伯には報告するが、具体的な依頼主については不要だ。どうせ、あちらも黒幕は別だろう。証拠もあるまい。追うだけ時間の無駄だ。

 それよりも、お前達の望みはこちらで生活することで良いのか?」

「はい。商売する頭もなけりゃ、我慢する強さもありゃしませんが、丈夫な体と負けん気なら有り余っている奴らがいます。身体が弱くとも、生き残る意思が強い奴らもおります。

 馬鹿ですからスラムから抜け出せるようなのじゃありませんでしたが、良い機会なので、まともな生活ってのをさせてあげてください」

「お前は?」

「……」

「その口ぶりだと、お前はどうするのだ?」

「はい。この首を取らにゃ安心できない馬鹿もいるでしょうから、あちらに戻ろうかと」

「無意味だな」

「ですね。

 あんたの首を取ったら、今度は生き残った部下の首が欲しくなるだけだ。不安ってのにはキリがない」

「ですが……ここにいたら、迷惑をかけてしまいます」

「辺境伯に目をかけられている新進気鋭の新領主。それも孫婿だ。それに喧嘩を売れる奴がどれだけいると思ってる」

「開拓中の辺境に新しい顔など来ない。周りに知らない顔があればすぐにわかる」

「人手はいくらあっても足りない。まだ使えそうなお前を切り捨てる必要性はないな。

 馬鹿どもと一緒にここのルールは叩き込むがな」

「あ、ありがとうございます」


 後ろにいた奴らも一緒に頭を下げていた。疲れ切った顔をしていても元スラムの一派の長。慕われてはいるらしい。

 連れてきた人間の人数構成や特徴などを改めて聞き取り、簡単な方針を立てたら詳細は後日へと回す。北部での常識を叩き込みながら、得手不得手、どこに回すかを考えるのは部下たちだ。俺の仕事は、辺境伯への報告についてジーナに連絡すること。これは明日早くに送れるように手配しておこう。

 それよりも早く領地に帰りたい。明日の土起こしが終わったら、いや、後始末があるから明後日にはここを出発できるようにしておこう。それまでに、ざっとした人員振り分けを整理させて、東部の騒乱を含めて今年の計画を変更させないと。

 ほかの落ち着いた領地ならともかく、開拓真っ最中なんだから、うちに影響があるようなことは止めてくれないかな、ほんと。まあ、それでも昨日の話し合いでこの事態は予想できていた。そして、対応についても。


「お前達には特に役職などは与えん。ごく普通の村人候補、兵士候補として振り分ける。冒険者になりたい者がいればそれも考慮するが、最初はこちらの指示に従うこと。

 後のことは、外にいる第二軍軍団長のチルトンに任せてある。当面はここの常識を叩き込まれつつ、軽作業だ。では下がれ」


 そう宣言すると、ヘタン達は速やかに下がっていった。

 ドアが静かに閉まり、遠ざかる足音が響かなくなっても誰も動かない。十分な時間をおいて、ため息を一つ。

 そうすると、室内の空気が緩んだ。


「どうかな?貴族らしかった?」

「俺の知ってる貴族よりは親しみやすかったが……まあ、貴族なんじゃないか?偉そうだったし」

「偉そうとは何だよ、偉そうとは。偉いんだって」


 ダグとじゃれていると、咳払いが聞こえた。でも小言は続かなかったので特に問題になるような対応じゃなかったみたいだ。まあ、貴族を貴族たらしめているのはその心根であり、領地のため決断することこそ必要なのだと陞爵の時に言われたから、そこから外れなければ大丈夫なんだろうけどね。

 話があった内容は、皆が予想していた範囲に収まった。こっちは人員が欲しい。あっちは保護してほしい。向こうの貴族は情報が洩れると困るだろうけど、こっちは別にそんな情報欲しくもない。

 我が領首脳部の判断は、特に気にする必要はないとのこと。


「そもそも、ああいった小物に情報を漏らしているような貴族家は、没落や不祥事で早晩取り潰されます。北部の、それも辺境伯様肝入りの新興貴族に下手な手出しをするような勇気もありますまい。

 私どもが迎え入れたことを調べ上げる手段すらあるかどうか」

「こちらからちょっかいを出さない限り問題ないってことだね」

「はい。領地としては、これから先、職人頭として村づくりの中心人物の一人となるトビーとやらの処遇をどうするか。ただそれだけでしたので」

「……それなら別に自分じゃなくても「ご領主様!」はーい」


 小さなこととは言え、領地の重要な人物に関すること。それを決定するのは領主としての重要な仕事だってさ。わかっているけど、面倒だ。でもこれで今回の件は終わり。

 さて、依頼をこなしたら帰ろう。我が領地へ!

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