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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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6-5

 明日の用意、というかリロルへ帰る用意を手配し、報告書を片付けている間に、緊急の報告をと言ってきたトビーが客間へと到着した。その連絡を受けて、ダグと一緒に部屋へと向かう。夕食も終わっている時間なのに、きちんとお茶が提供されているところに、座ったとたんに自分の分が用意されることに、この館の人間の能力の高さが覗える。

 おどおどとした雰囲気で周りを見回し、何度か口を湿らせた後、職人頭のトビーが口を開く。


「こんな時間に申し訳ございません。職人頭をしているトビーでございます」

「ああ。何やら緊急の報告があるとのことだが」

「はっ。実は、ご存知かもしれませんが私は貧民街から村人となることを希望し、過分にも職人頭として任命いただきました。しかし、自分の産まれは貧民街ではございません」

「貧民街に生きる者のうち、生まれも育ちも貧民街の者は半数程度だと聞いてる。トビーもそうなのか」


 ついつい砕けそうになる口調を頑張って偉そうにしていると、トビーの生い立ちから話が始まった。村はほとんどがそこで生まれ育った者ばかりだけど、街どころか、町ですらよそからの移住者は多いと聞く。リステンほどの大都市であれば、半数は別の場所で生まれててもおかしくはない。

 貧民街にいたのに、若くして今は職人頭として職人予定者を取りまとめているのは純粋にすごいと思うが、元々貧民街の生まれじゃなかったのか。そういえば、大半の村人候補はリステン以外から来てたんだっけ。そう思って話を続けさせると、思っていたのとまたちょっと違った方向に流れ始めた。


「いえ。自分は、リステンで生まれたと思います。母もこちらにいましたし、記憶にあるのはリステンの中だけですから。

 生まれたのは貧民街ではなく、その奥。スラムです」

「……スラムとはあのスラムか?」

「はい。

 貧民街にいるのは貧しき者が大半。多くの者が街中へと働きに出ております。貧しくも慎ましく生きている者が大半です」

「だから新しき村の村人として募集をしたのだ」

「はい。しかし、貧民街のすべてに外の光が届くわけではありません。貧民街の奥、街の表側と最も遠い場所に集うのは犯罪者が主となります。暴力行為程度から、強盗、殺人、暗殺。それ以外にも違法薬物や人身売買など、多くの人が集う街には必ず犯罪者の影があります。

 私は、そこの生まれです。申し訳ございません」

「ふむ……それがどうしたのだ?」

「え?

 いえ。貧民街出身と偽って……」

「生まれは別にどうでもよい。それを言えば、私の生まれも農民だ。今どうしているかが重要だと考えている。それよりも、話とはそのことなのか?」

「いえ。違います」


 なぜかスラム出身であることを気にしているトビーに聞いてみれば、首を左右に振る。よかった。緊急の報告がスラム出身でしたなんてもんだったら……いや、それの方が良いのか?それなら明日の作業が終われば問題なく帰れたのに。まあ良いや。せっかくの就寝前の休憩を潰したんだ。もっとまともな緊急の話じゃないと割に合わない。


「私は10にスラムから逃げました。色々とありまして義父に世話になり、妻と結婚して貧民街に居を構えてました。実は、母の言が確かなら、私の父は東部スラムの三頭の一人です。たぶん、それは本当だったのでしょう。そこから今回話がありました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「いや。謝る必要はない。こちらに対する伝手がたまたまトビーだっただけだ。それで、何の話だったんだ?」


 話を持っているために部下なんかを嵌められるよりも、よっぽど穏やかな手法だ。犯罪者の巣窟と言う表現からしたら驚くほど穏当。スラムって聞き覚えがないけど、貧民街の奥の危ない所だろ?西部のロンドリアにいたころに先輩冒険者から危ないので近づくなって言われていた場所がそんな感じの場所だった。今思えば、そこがスラムだったんだろう。それが、この北の地、冒険者の都リステンにもあるし、トビーはそんな場所の生まれだってことだ。でも、東部ってことは遠いぞ。俺は足を踏み入れたことがない。街の名前を言われたって、どこがどこやら。

 ま、どこ出身だろうと、ジーナ達が人品を見ているわけで、教育を施しても、集団生活させても問題を起こしていないわけで。職人頭ってことは、作る予定の村ではなく、リロル砦での生活となるはずなので、トビーに対する査定はかなり厳しくされたはず。それでも問題なしとされているんだから、問題を起こしたのでもなければ今更とやかく言うつもりはない。……生まれを問題にしたら、俺はどうなんだって話だし。

 でも、トビーの心配もわかる。貴族様へ自分のことで迷惑をかけたなんてなったら、村人や町人は戦々恐々とするのが当たり前。貧民街の人間なら恐怖で震えてもおかしくない。俺だって、ジーナが貴族様だって知ったときにはちょっとビビったし、それまでのことを思い出して青くなった。ダグも貴族の一族だって知ったときにはくらっとしたし。まあ、本人を良く知っているから持ち直せたけど。

 とにかく、貴族への平民のイメージはあまりよくない。自分達の常識が通じないことがある権力者だから怖いに決まってる。お互いを良く知れば特に問題ないのにね。だって、貴族の家で働いている人も、付き合いがあるお店だって基本は平民だもの。


「……実は、領地開発のおかげで、貧民街から人が減っております。それは、ここリステンだけではありません。まだ村などはできておりませぬが、こちらで教育を施していただくために、住み込みでお世話になっておりますので」

「未来の村人に兵士だな。まあ、見習いばかりだが……それでも、ここの貧民街出身は百程度だったはずだが。中央などからが二百を超え、北の各地から募集した平民が百ほどか。どこでもそれなりの人数だが、そこまで多くは……」

「はあ。確かに人数だけですとそこまで多くは感じません。ですが、手伝いの依頼に出ている若手冒険者の中にも貧民街の者がおりますし、リステンの冒険者が一割ほどは減ってますので人手が足りないところも出ておりまして。そこに上手く入れた者が順次貧民街から抜け出ております。

 そのため、意欲のある、活きの良い人間が貧民街から減っておりますのです」

「それは良い事だろう?」

「はい。

 ですが、冬が越せずに死ぬ者が貧民街には多いので、そもそもそこまで広くない貧民街ですが、ほぼ人が居ない状況になっていると聞いております」

「貧民街ともまだ付き合いがあるのか?」

「いえ。知り合いは皆開拓組に入ってますんで。ですが、職人組にも何人かここの貧民街出身の者がいますし、村にも何人かは必要になるので、そちらと話をしますんで。はい。

 で、ですね。リロル様がこちらで何やらやっていることは、王都や東部でも目端の利く者には知られております。奥様が人を集めましたんで」

「集団で移動すればどうしても目立つから、リステンにいることもわかるし、リロル地方の開拓は周知の事実か」

「はい。辺境伯様から爵位を賜る若き英雄がいると、お屋敷にいても聞こえてくるほど噂が流れておりますので。開拓の話も、孫娘との結婚も人の口に上らない日はないほどです」

「……改めて言われると恥ずかしいな」


 自分の噂なんて聞きたくないよね。

 まあ、仕方ないんだけど。

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