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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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6-4

 冬場に固まった畑の掘り起こしは順調に進んでいる。ついに、次の村が最後だ。かれこれ半月はリロルを離れ、リステンで依頼を受けて作業しているけれど、そろそろ帰りたい。開拓や建設の予定は冬の間に立ててあり、追加となる材料や食料も手配した。まあ、食料に関して言えば、西部との交易路の雪をどかしてきたので、あっちからも運搬が開始されているはずだ。

 何も問題はない。

 が、やっぱり帰りたい。食料以外にも、ジーナが教育に手間暇かけた元貧民なんかもかなり送り、軽作業から日常の裏方業務も滞りないと思う。防衛に関しては川は整備してあるし、居住地や建設地には堀と土壁があるので防衛力は高いと思う。それに働いてくれることになった冒険者も多く、万が一魔物が襲ってきても対処はできるとは思う。ジーナがいるから何か問題があっても瞬く間に解決するとは思う。

 ……でも、思う、思う、思うなんだよな。やっぱり心配になるので早く帰りたい。

 リロルでは食べられない、手の込んだ夕食を食べ、ソファーでくつろいでいると、現場で頑張っているみんなを思い出し、ちょっと居心地が悪い。いや、ソファーの座り具合はめちゃくちゃ良いよ?たぶん、実家の年収よりも高い、高級品――なお、男爵レベルの商品――だもの。ちなみに、家具全般が男爵レベルで揃えてある。開拓が済めば陞爵予定なのもあるが、なにせ妻(予定)のジーナは元々子爵位を持った辺境伯家のお嬢様。それに見合った家具とまではいかなくても、それなりなものを揃えないと対外的に後ろ指をさされるのだ。

 本人は、冒険者を問題なくやっていたことからもわかるように、まったく気にしてないけどね。本人が良くても、周りの人間がこだわっている。


「早く帰りたい。明日の村が終わったらそのままリロルに行けないかな?」

「リステン挟んだ反対側だから直接は無理だろ。う回路の雪をどかして通るくらいなら、街中を突っ切った方が早い。

 それに、土産やら運ぶものがあるだろ?」

「飼葉だけで良くね?どうせ別便でも送るんだし。寒さも落ち着いてきたから、これから運搬の馬車は何度も通るじゃないか」

「だからと言って、無駄に1回空荷で動く必要はない。それに、あっちは資材以外は足りない物だらけ。運べる機会があるなら運ぶべきだ。酒や砂糖なんかの嗜好品などは、持って行かないと冒険者がへそを曲げるぞ。護衛も付けるんだし、馬車を2台増やすのは当たり前だ」

「ダグが居れば余計な護衛なんて……あーあわかったよ、わかりました。大人しく馬車に乗るよ」

「従者やメイドがいないから3台だけで済んでるんだぞ?」

「俺で1台、食料とかで1台、運搬物で1台か」

「一日二日で着く距離じゃないからな。護衛を含めて食料はそれなりに用意しておく必要がある。何せ、まだまだ雪が残っているんだから」

「現地調達は難しいよな。食べれる獲物が来れば別だけど……もっと温かくなってからだろ」

「そういうことだ。

 あちらも日持ちする食料ならいくらあったって悪くない。一緒に運ぶ道具類もあればあっただけ喜ばれる。現地で修理はするものの、本職が作った新しい物には敵わないからな。作業効率が全然違う」


 そりゃわかっているけどさ。

 これまでは、ほとんど自らの手の届く範囲のことだけが自分の世界だった。故郷でも、学院でも、冒険者としても。開拓をするにあたって他人に指示することは増えたけど、それだってほぼ単純作業。石を運んだり、壁を作ったり。魔物の討伐や解体を含め、冒険者に依頼している程度の認識だった。

 でも、作業が進んで、じっくりと考える冬を超えて、改めて開拓が進んだ領地と作りかけの防壁を見たら、なんかすごい大切な気がしてきたんだ。なんて言うの?自分の領地――まだだけど――って実感?愛着?将来的には愛郷心になるのかな。良い地域にしよう、良い街にしようって思いが強くなったんだよね。それに合わせてか、部下や家族に対しても大切にしたいって気持ちが、より湧いてきた。やっぱり、貴族になったってやっと実感できたってことだと思う。ま、考え方とかは貴族っぽくは無理だけど。何よ、貴族っぽくって。

 うだうだとダグに愚痴りながらも、サインすべき書類に目を通すことを再開した。こればっかりは俺がやらないと誰も代わってくれない。簡単な物なら判断を任されている執事で問題ないけれど、大きな計画変更については俺が承知してから。責任者は誰かって話なんだ。

 もちろん、ここにある書類のほとんどは報告書でしかないから見るのは後でも良いんだけど……。本当にこっちの決断が必要な事項であれば、早馬でもなんでも使って連絡が来るし。ま、村人育成についてある程度の予算と権限を渡してあるからそんな事態はほぼないんだけどさ。今回みたいな貴族からの依頼でもない限り。

 預けた予算が豊富にあり、領地も食料や資材の面で余裕があるので、追加で村人や兵士の候補が増えていたり、教師役が増えていても問題ない。と言うか、作業要員として人間を領地に送る計画は前倒しされていて、領地開発が加速しそうなので願ったり叶ったり。ほんと、優秀な人材がジーナのもとには揃ってるね。

 実際、俺達がリステンに来たのと入れ替えで、追加資材と30人が作業しに砦へと移っている。おかげで、防壁の建築が予定の三割増しで進んでいるとか。……三割増しって、進みすぎな気も。30人の追加があったからって、そこまで速くならないだろうに。戻ったら、ジーナに詳しく聞かないと。

 それにしても領地開発は順調だな。想定よりも雪の影響が少なく、村や砦に修理すべきところはわずかだった。村人等の教育も順調すぎるほどに順調で、春からの依頼に応募してくれた冒険者の数も、想定よりも多かった。そのため、処理すべき書類は多いけれど、どれもこれも読んでいるだけでニマニマしてしまうほどに嬉しい。これで、畑の掘り起こしが終わったらリロルへと帰れる。種蒔から収穫、冬支度までの期間は北では思ったよりも短い。作業できる時間の確保は必須だ。リステンへの往復にかかる時間は、雪の影響を想定して余裕を見なくてはならない分、一カ月は必要なのだ。今の調子だと、もしかしたら今年の冬は試験的にあちらで越せるかどうか試せるかも。そうしたら、さらに開発が進むぞ。

 

「御当主。村の職人頭トビーから緊急の話があるとのことですが」


 ……あー、帰るのが遅くなるよぅ。絶対に問題発生じゃん。明日作業したら帰りたいんだけど。

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