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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
6章

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6-3

 練習になるし、開発費用の足しにはなるけど、わざわざ来るほどか?

 そう思っていた時期がありました。そうだよね、ここは冒険者の都リステンだよね。北部でも有数の大都市。食料庫として周りに存在する村も、西部では町と言っても良いくらいに広かった。まあ、主に畑なんだけどさ。人間はあんまりいない。防衛も困難なので、冬場は食料と共にリステンに避難しているとのこと。

 ちなみに、冬に怖いのが雪狼。魔物ではあるが、ほとんどは迷宮ではなく外に根付いた種だとか。好物の雪兎を追って雪と共に山から森へと降りてくる。群れで動くため、防壁があるリステンならまだしも、村や街道なんかではかなり脅威となる魔物だ。

 ただ、雪狼にも利点がある。それは、冬場の迷宮崩壊や迷宮暴走対策だ。迷宮からあふれ出た魔物は、自らの魔力がなくなるまで外の生命を奪い続ける。通常ならある程度の時間が経つと魔力を失い死亡するが、多くの命を奪い、一定以上の魔力を得たモノだけが外の世界に適応する。世界各地に生息する魔物はそうやってできたと言われている。

 冬場、雪に埋もれた迷宮は攻略がされず、中の魔物も増え続ける。そのため、どうしても暴走が起こりやすくなる。しかし、リステンをはじめ、北部の各地での被害は少ない。ゴブリンなどの低級な魔物は身の丈よりも積もっている雪に行く手を遮られ、時間切れでその命を落とす。寒さに弱い植物系や虫系、鳥系、爬虫類系も気温によって殺される。ゴブリンソルジャー、いや、ゴブリンナイトレベルなら問題なく砦を目指してくるだろうけど、そこで活躍するのが群れで生き、縄張りを持つ雪狼などの在来の魔物達だ。迷宮産魔物の本能として生ける存在を狙ってくるため、自らが生き残るために、森の奥深くで殺し合ってくれる。

 雪狼は群れを作るくらいには頭が良いので、弱めのゴブリンなどを乱獲し、存在を高めたうえでゴブリンソルジャーやハイオークなどの強敵と戦う。噂によると、白狼や氷狼どころか、伝説級のフェンリルにまで駆け上がった個体がいるとか。でもまあ、雪深い山の奥には悪名高い竜の谷などがあり、そちらとつぶし合うので、人間の領域にはほとんど影響がない。ま、一番影響がない理由は、辺境伯が竜王と盟約を取り交わしているからってのが、信じられないけれど本当の話。

 

 閑話休題


 防衛力が低い村は、冬季だけ放棄し、生産のための場所と割り切る地域が北部には多い。作業できるは雪のない期間だけなのに加え、移動するにも雪は問題なので、必然的に耕作期間が減り、生産量も高まらない。まあ、生産する側の人間が魔物に殺されて居なくなることに比べればマシとの判断なわけだ。

 しかし、ここで俺登場。道上の雪は横型『穴掘り』でどけ、雪の下で冬を越す作物を除いた区間を一気に『穴掘り』で掘り起こす人間。多くの村人が移動し、作業する時間や消耗品などの経費を考えれば、いくら割高な報酬を支払ったとしても、俺一人に跳び回って最初の作業をさせることに天秤が傾くってのは冷静に考えればわかる。

 ついでに、それで一番苦労するのが俺だってことも。


「……もうやだ。周りには何にもないし、道はぬかるんでるし、寒いし、人が居ないし」

「まあ、温かくなってきたとはいえ、まだ雪が残る冬だしな。村人はまだリステンにいるし、畑に何もないから獲物となる獣も魔物もいない。いるのは護衛の俺と指示役の人だけだもんな。

 経費は掛からないし、移動の手間も最小限。やってる方は大変だけど、やらせる方にとっては良い内容だ」

「依頼料はたんまり貰っているから文句も言えない。本当にリステンの領主様はやり手だよ。

 それにしてもあの指示役ってそれぞれの村の人だろ?すごいよな。植えてある場所を的確に避けて掘り返しの指示出してるぞ」

「そうだな。家の屋根が見えるからかろうじて村だってわかるけど、それだけだからな。道だって、広めに雪をどかして探しつつ来たし」

「そりゃあ、あっしらも生活かかってますんで。いつもなら、雪が足首まで融けたら掘り返すんで。こんな胸まである状態で掘り返したこたぁないですが、まわりの様子で、ここがどこで誰の畑で何が植わってるかくらいはわかりやすよ」

「戦士が戦いに長けるように、農民は畑仕事に長けているわけか」

「何事も専門家は強いな」


 今年は冬に固まった畑の掘り起こしがなくなるので、どの村の人々も好意的で協力的だ。雪を一部混ぜ込むから土の隅々にまで水が行きわたり、日差しが直接当たるため、最初に掘り返した村の畑では一足早い雪割草などが芽吹いているとの話もあり、街道での休憩すら不要と言わんばかりに積極的だ。

 雪をどかしながらで片道半日、作業半日で村の空き家で一泊。半日ちょっと作業して、帰りは雪をどかす必要もないため半日かからずリステンに戻ってこられる。簡単な依頼ではあるものの、思ったよりも村の数が多い。普通なら3~4村あるくらいなのに、リステン周りだけは倍の8村。どれも農業生産に力を入れているが、それ以外にも冒険者が迷宮や森などで調達する食料もかなりな量なはず。しかし、それで賄いきれないくらいに冒険者や商人などがリステンに住んでいるのだ。ま、余ればもっと北のより厳しい土地に持って行くだけらしいけど。共助共助。


「さ、そろそろ次の畑です。これで最後なんで、ぼちぼち帰りましょうや。道の雪もすっかりきれいにしてくださったんで、これなら明るいうちにリステンまで戻れますよ」

「歩くには難がある道だけど、馬なら半日はかからないから近いよな。やっぱり収穫物の運搬のためにここまで近くに作ったのか?」

「ははっ。違いやすよ。

 いつ何時、迷宮から魔物があふれ出るかわからんじゃないですか。予兆があったら、いつでもリステンに逃げ込める位置にあるんですよ」

「普通の魔物が出たら冒険者が狩れるし、迷宮からあふれ出た奴らは作物じゃなくて生物に引き寄せられるから問題ないわけだ。近いから結果的に足の速い収穫物も悪くなる前に持ってこられるし、冬場の避難も楽。開拓する範囲もそこまで広くなくて良い。

 迷宮から守る位置に砦を作るって話は教わったけど、実際に見るとその意味が良くわかるな」

「……なんかあんたら、もしかしたら高位な冒険者様かい?難しい話してるし」

「まだまだ迷宮に潜れるようになったばかりさ。ただ、こっちのは魔術が使えることでわかるだろうけど、学院の出だ。あそこは魔術以外にもたくさん勉強するのさ」

「はーそういうもんかね。うちの村から学院なんぞ行った人間はいないんでな。あんたは学があるんだな。すごいもんだ」


 純朴そうな村人代表に、わざわざ俺の身分を言う必要はないとのダグの判断は正しいと思う。ただちょっと、自分の中がもやっとした。なんか悪いことをしている気分。

 丁度良いので、そのもやもやを畑に突っ込むとしよう。『穴掘り』

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