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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
5章

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閑話

 北の冒険者には、パーティー名に春や夏を取り入れるグループが多い。他の地域と同様、強力な魔物や神話、武器などももちろんモチーフに使われるが、やはり冬が厳しい北部だけあって、温かな季節が焦がれるようだ。もちろん、それだけではない。独自性を出そうと試行錯誤したパーティー名はどこの地方でも笑い話に彩を加えている。

 北部でも、変わった名前は散見される。その中で、最も有名なのが『雪兎』。その名を持つのは、もふもふの白毛とのったりとした動きが特徴の冬を代表する草食獣だ。一般的には弱く、狩りの獲物として知られている雪兎をクラン名として戴くのは、女性のみで構成され、設立50年を超え、代表が四代目となる北部を代表する大規模クランである。10を超えるパーティーで構成され、各パーティーの独立性が高いことも良く知られている。

 冒険者の都リステンでも一等地に立つシックなクランハウスが彼女たちの住処だ。一階にある食堂兼大広間に各パーティーのリーダーが集まっていた。てんでバラバラにテーブルについているが、誰もが顔を奥へと向けている。そこには、腕を組んだままで涼しげな表情をしている少女と、筋肉質でいかにも歴戦の戦士の風格がある女丈夫が座っていた。全員が落ち着いたところを見計らって、戦士が立ち上がり辺りを見回しながら口を開く。


「良く集まってくれた。それでは、クラン『雪兎』の全体集会を始める。いつもは集まりの悪いこの集会だが、今回は珍しく全員参加だ」

「「「「えっ!」」」」

「ひゃっひゃっひゃっ。可愛い孫に頼まれたら断れないからねぇ」

「……いつも頼んでるのに」

「ひゃっひゃっひゃっ。最近は耳が遠くてねえ」

「いつの間に」「どうしてあそこに」「あれが、あの」「私、初めて見たわ」


 大広間にざわざわと小声の会話が揺蕩う。

 大柄な戦士が口を尖らすと歴戦の雰囲気が崩れ、室内の空気が砕けた。しかし、集まったメンバーには別のことに意識を持って行かれていた。常に行われる会議には、全パーティーリーダーが参加するのは稀だ。長期の依頼や迷宮探索があり、中には忙しいの一言で参加しない者もいる。だからこそ、皆が驚いている。今回は不参加の代表格、クラン雪兎の相談役にして、創立期からのメンバーであり、生産メインのパーティーでありながらも長らくBランクを維持している『雪兎の落とし物』リーダー、ゼラム師が参加しているからだ。

 キョロキョロと他の者が見まわしていると、入り口にほど近く、誰も座っていなかったはずのテーブルにローブ姿が浮かび上がる。さっきまでいなかったのに。全員の視線が集中するが、彼女は意に介さなかった。自らに視線が集中させたまま、奥に向かって話を促す。


「さ、ソフィア様。このような老婆にもわかるように説明してくだされ」

「……まったく、相変わらずねゼラム師。まあ良いわゾフィー。私が説明するわ。このクランの行く末の話だもの、私が口火を切るべきよ」

「はっ」

「ここリステンの先、未開の地であったリロルの開拓が始まります。ギルドでの依頼を見た者もいるでしょう。それを受けて、我ら雪兎の拠点を移すか否か。そこを相談したいの」

「ソフィア様の意向はどうじゃね?」

「私の意向が決定になってはこの会議の意味がありません。どんな意見でも構いませんから、思うところを言い合いましょう」

「ひゃっひゃっひゃっ。それでこそ、クラン『雪兎』のリーダーですな」


 ゼラム師のからかいに軽く肩をすくめた可憐な少女が座ると、一気に雑談の時間となった。今回の議題を予想していた者は案が出せるが、今初めて知った者もいる。前提条件がそれぞれ違うのだ。気軽に意見を言い合う時間を作ることで、最良の結果を得ようとする。クラン『雪兎』の会議は常にこの形だ。

 冬になる直前、これまで何もなかった山と森を貫き、西部地域へとつながる道ができた。確かめた者はいない……少なくとも、果てまで行って戻ってきた者は今のところいない。ただまっすぐに引かれた新しい道があるだけだ。遥か西部辺境とつながっているらしい。魔物が棲む森と山を抜け、荒野を抜けないと人が住む場所までたどり着けないらしく、そこまでの準備をして交易の旅に出たとの話も聞いていない。が、いくつかの商会が計画を立てているようだ。ネックは食料よりも水。途中に人家はなし。道ができているので未踏ではないが、生命線である水の有無など、必要な情報が全く流れてこない。なので、水魔術が豊富に使える魔術師を探していると聞く。

 道が確かにつながっているのであれば、この先、村、いや砦ができて人間の生存圏が広がるのは確定的。西部辺境への途中途中にそれなりな規模で人が住み着くはず。

 北部で最も辺境の一つであり、比較的温暖な気候と豊富な森林、大量の魔物と迷宮が揃うここリステンが今までは冒険者の都としての地位をほしいままにしてきた。しかし、噂が本当であれば西部との交通の要であり、未開の森林と迷宮と、そして山が近い場所に新しい都市ができるのだ。そちらの方が魔物の領域へと入りやすく守りやすいかもしれない。もしかしたら、数年後には冒険者の都と呼ばれるのはここではないかもしれない。

 しかし、噂をもとに行動するには、『雪兎』は大きくなりすぎた。パーティーメンバーだけで50を超え、関係者とするならその倍はいく。自分の選ぶ道はそれだけの人間の行く末に関わるのだ。そう考えると、ソフィアは独断で決めることはできなかった。

 新たなる冒険、一からできるであろう都に心躍るのも確か。初期から開拓に参加すれば、それなりの恩恵が受けられる。根無し草の代名詞である冒険者にとって、兵士や専属などの硬い身分が魅力的に映る者も多い。そもそも女冒険者の成長と保護を理念としたクラン設立方針を考えると、開拓に協力する一手しかない。

 だがしかし、賭けの天秤に乗せられるのは皆の生活。開拓初期はどう考えても良い生活ではない。ここリステンどころか、近くの村とすら比べ物にならない野営中心の生活に違いない。娯楽もなく、戦いと作業の日々。ここにいる面々は強い。さきほどは気配を殺していたゼラム師を見つけられなかった者が多数だったが、そこらにいる斥候役よりもクランメンバーの方が気配も探れるし、罠も見分けられる。低ランクの者でもソロでオークと戦ったとしても危なげなく勝てる。

 冒険者は荒っぽい。紳士的でまともな冒険者の巣窟と言われる北部ですら、戦いの後の興奮状態や望外の宝などは、男女ともに危険性を高める。女で冒険者であるだけで自然と鍛えられるのだが、その中でもここのメンツは上澄みと言える。戦いだけでなく、情報収集や判断力、それなりの特技など特筆すべきことがある。『雪兎』のメンバーであるとはそういうことなのだ。生産に特化している者も、日常の支援をしてくれている者も、只者ではない。そして、それを抜きにしても大事な家族である。

 それを先行きのわからない冒険に、大切な仲間と一世一代の賭けに出ても良いものか。四代目リーダーとして数々の判断を下してきた彼女にとっても、とても悩ましい議題だった。しかし、時間は限られている。どうするにせよ、早く手を打つべきなのだ。



 彼女らの会議は一昼夜では終わることなかった。その決定が何を生み出すのか。それが判明するのには、今少しばかりの時間が必要であった。

今回はここまでとなります。

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