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「いったい何をした!

 彼の者を癒せ『ヒール』」

「んあ?なんだ!?手があったけぇ」

「……馬鹿か君は。いったい何をした?掌が破裂したぞ。痛みは?指の動きに支障はあるか?これは?わかるか?」

「あったけぇ手ぇしてんな。

 大丈夫だ。動くしわかる」


 俺の言葉を聞いて、むにむにと揉んでいた手が離れる。改めてさっきまで揉まれていた掌を見ると、つるんとしたキレイな自分の掌があった……畑仕事と冒険者稼業で使い込んだ手がこんなにきれいなわきゃねぇ。夢か?

 それを見ていたジーナが、長い、長い溜息をついた。

 地面を手で指し示し、首を左右に振りながらつぶやく。


「破裂したと言っただろ?弾けたのが表面だけで良かった。君の皮膚はそこらに散らばっているよ。

 皮膚を再生したんだ。汚れはもちろん、軽い傷などは消えてしまうさ。……きれいになったと思うなら、もう少し丁寧に手を洗うべきだね」

「あーあ。汚れちまった。怒られっかな?掃除した方が良いか?」

「……君はよく、ずれてると言われないかい?この状況で地面の心配?自分の手が爆発してその感想とは」

「すぐにあんたが治してくれたから、ちーとばっかし驚いて、クラクラして、温かかったってだけだからなぁ。まあ、感謝してらぁ」

「もしや、魔力を集めて留めようとしたのか?できないと言っただろう。無茶をするな!」

「悪かったよぉ」


 そんなに怒んなくてもと思うが、まあ、心配してくれてんだと思えば腹も立たねぇ。俺が悪いんだし。それにしても、『ヒール』まで使えんのか。すげぇな。

 素直に感心したら、ふふんと鼻を鳴らして上機嫌になった。おいおい。お貴族様にしては感情が分かりやすすぎねぇか?まあ、その方が付き合いやすいが。

 そっからは、ダグが来るまで最新の魔術論の授業を受ける羽目になった。俺の学院時代から何年も経ってないのに、新しい発見が相次いているみてぇだ。それに、2年次以降じゃないと教われない内容もたくさんある。ありがたいんだが、本当に良いんかねぇ?


「それにしても、ダグは遅ぇな。腹減ってきたぞ」

「……遅いのは確かだな。だが、君は学院で何を学んでいたんだ?勉強熱心との話だったが、あまりに魔法論を知らなすぎるぞ!」

「そっちの勉強してる暇なんかなかったなぁ」

「……そうか。すまなかったな」

「まあ良いわ。終わったことだ」

「終わったのか?用があったのではないのか?

 まあ、良い。それなら、付き合え。もう少し体を動かしたい」

「……急に出てくるなよ、ダグ。用は終わっちゃいない。こいつの話を少し聞いてくれ」

「……誰だ?」


 ジーナと反対側からやってきていたダグが、訳の分からない合いの手を入れる。早合点するなよ。話をすべきジーナを示すと、誰だかわからない様子。そりゃわかんねぇよな。なので、自己紹介を促した。

 それにしても、何をそんなに警戒してるんだ?知らないやつに対してだけじゃなく、いつでも動けるようにしてる。まるで訓練中、いや、それよりも神経を張り詰めてやがる。


「ジーナ。俺らに依頼したいことがあんだと。怪しいが強ぇぞ」

「……その紹介内容は違うな。怪しいのは否定しないが、強くはないぞ」

「ダグだ。剣士」

「それは見ればわかるが……ふむ。まあ良いか。

 私はジーナ。北のドリアーナ辺境伯領から来た。君らに依頼したいことがあってね。詳しい話は、夕食の席でどうかな?」

「……奢りか?」

「もちろん!」


 ……ダグよ。気にするのはそこか?まあ、お金は大事だがなぁ。ま、依頼を聞いて断るのもかまわんってことだから良いか。グダグダ考えててもしゃあねぇ。

 つーかさ、話をさっさと終わらせてダグは剣を振り始めやがった。止めようとしたって聞きゃあしねえ。確かに、身体動かしたいって言っちゃあいたが、その態度はどうよ。ジーナが気にしてねぇから良いが、普通はダメだろ。よくこれで依頼がこなせてたな。

 ダグの剣が、空気を唸らせながら縦横無尽に振り回される。それも、ただ手で振ってるわけじゃねぇ。細かく動いて、全身の力を使って振ってる。動きが滑らかで、踊っているみてぇだ。


「ディグの出身村はこの近くなんだろう?時には帰っているのかい?」

「けっ。無理だ無理。こっからだと3つ先だが距離が距離だしな。片道十日はかかるんだ、気軽にゃ帰れねぇよ。学院をおんだされてすぐに堀作りに行ったっきりだな」

「それはいかん!故郷が遠いならともかく、近くにあるのであればこまめに顔を出すべきだ!人はいつ死ぬかわからないのだからな!

 依頼を受けてくれるなら立ち寄れるように取り計らおう」

「それはどうでも良いだろ?あんたにゃ関係ねぇ。

 つーか、すげぇな」

「何がだ?」


 軽々と、俺と会話をしながら、ジーナはダグの剣を躱している。構えることもせず、一度たりとも受け止めず。打ち下ろしかと思えば薙ぎ払い、突いては蹴りを出しても、掠りもしない。しっかりとダグを見つめて、縦横無尽に避けまくってる。

 俺と会話できるくらいにゃ余裕があるらしい。一方、躱され続けてるダグもイライラとしたところはなく、淡々と振り続けている。……怖いねぇ。

 すげぇのは魔術だけじゃねぇのか。ダグは躱されて当然って顔してっから、最初っからジーナの力量をわかってたんかねぇ。こんな奴が俺らに依頼ってのが怪しい。が、聞くだけならタダだ。飯も食えるし、俺もダグも、そこまでこの街にこだわりはない。いざとなったら旅に出りゃ良い。いつかは行くつもりだったんだ。それに、故郷にゃきちんと礼をしたからな。

 おっ。ダグが本気になったな。動きの速度が一段上がりやがったし、足さばきが見てて気持ち悪い動きをしだした。ほぼ正面からの攻撃だったのが、右に左に、上に下に、浅く深くと、なんつーか攻撃と動きが広くなった。外から見てりゃわかるが、動きの差ってのは、ほんの半歩だけだ。正面で振り上げられていた剣が、半歩右から振り下ろされる。振り上げるときに半歩遠ざかり、振り下ろしながら半歩近づく。

 訓練場に誰もいねぇとき、ダグは時たま俺相手にこれを使う。やられてみると、いやぁ大変。当たると思った攻撃は当たらんし、避けたと思ってもそうはいかない。防御は大きく避けて、攻撃は動きを予測するかダグ以上の速さで攻撃するかしかない。

 袈裟切りにした剣が、跳ね上がる。滑らかに踏み込む、避けた先への追撃。初見の技なのに、軽々とジーナが避ける。振り上げた姿勢で止まっていたダグが、剣を下げて大きく後ろへ跳んだ。ある程度満足したのか、良い笑顔をしてやがる。


「頂は遠いな」

「いやいや。受けに徹していたからなんとかなったが、それでも何度かひやひやしたよ。攻撃に移る余裕もなかったし。

 特に、最後の歩法が洗練されたら防御に徹していても受けきれないね。王都の剣術家どころか、有名な冒険者からだって一本取れそうだね。

 剣に生きるとは本当にすごいね。その若さでこれだから、この先楽しみだね」

「……ふむ」

「ダグ、惜しかったな。もうちっとで当てられたろ?あっちも攻撃できてなかったし」

「いや……あやつの本質は魔術師だ。強さの質が違う」

「そういうもんかねぇ。俺にゃどっちも強いってことしか理解できねぇよ」

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