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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
5章

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5-10

 言われてみれば、川であった部分はわかりやすくはあった。雪が土手に比べると少ないのだ。それでも、気を付けてみてみないと初心者の俺には違いが判らない程度。城門の近くは橋があってわかりやすかったけれど、こっちの端っこはほとんど雪かきもされていないから大変だ。

 冬場、特に雪深い時期の魔物は種類が限定的で、高く積もった柔らかい雪の上を走るのは少ない。走れる奴だって、わざわざ雪の上に来ることは稀だし、防壁を超えるのは難しいのでこれで大丈夫みたい。まあ、スタンピードにでもなったらはじっこのこっちにも魔物が押し寄せて来るらしいけれど、その時は重みで雪がつぶれるから、どっちにせよ防壁が大活躍なんだと。


「穴は空けられそうかい?」

「まあ、水に穴開けられるから大丈夫でしょ『穴掘り』」

「おおっ。奇麗だな。キラキラと。

 土とは違って雪と氷は光を反射するから見栄えが良い」

「えっ、ああ、そうだね」

「ん?どうした?」

「あーうん。『穴掘り』」


 ちょっと感覚が微妙だったので、すぐに二回目の発動。雪のせいで見られないけれど、今川の氷には二つの穴が開いているはず。

 一度目と同じように、そこそこの量の雪と氷が宙を舞う。重い音を立てて川氷の上に落ちる。一個目はそこで終わったが、二回目はそのあとにミシミシと音がし始めた。ロースが身振りで下がるように言う。素直に後退すると、見る見るうちに雪が減っていく。

 いったい何が起こったんだ?……あ、そうか。さっきの音は氷が割れる音か。


「川面の割れたんだな。それで雪が川に流されたと。

 結構高く上がったからそのせいかもな。勢いよくおちだし」

「陥没した範囲はかなり広いね。

 ありがとうロース。気になって近づいていたら危なかったよ。冬の川は冷たい。落ちたら死にかねないから」

「え?そうなの?怖いなぁ……それにしても」

「それにしてもどうしたんだい?さっきから何か気になるみたいだけど」

「いやさぁ……なんか、氷は取り出せたけど、土や水と穴を掘った感が違うんだよね。失敗したのかも。

 ほら、さっきも雪と氷だけが宙を舞ったでしょ?水面まで掘れたんなら水も一緒じゃなきゃおかしいのに」

「ほら、たまたまじゃないかな。いくら氷の塊が落ちたとはいえ、川面の部厚い氷が割れるほどだ。どう見ても、あれは簡単に割れるものではない。

 ちょうどピッタリに掘れたんだ」

「違う」

「2回やったよ?どっちも同じだった。氷だけ。水が全然飛んでない。……川の氷は分厚いけれど、簡単に掘れると思ってたんだよね。ここのところ調子良く色々できてたから慢心していたみたい。もっと訓練も工夫しないとだね」

「私にとって、領にとっても今でも十分だけど君は満足しないんだね」

「違う」

「それを言ったら、ジーナだって、ダグだって、常に訓練してるじゃんか」

「そりゃそうさ。私は魔術師として幅広く魔術が使える分、一つの魔術に対する練度は低い。君みたいに工夫することはまだまだ難しいんだ。『穴掘り』

 ほら、今だって、まったく氷は掘れていない。雪と氷の違いで止まっちゃったんだ。まだまだ土以外の場所に上手に穴が掘れない。他の呪文も同じさ。応用が利かない」

「だから、それは俺だって同じだって」

「違う。掘れてる」

「さっきからそう言ってるだろ?え?」


 ……?

 思わずジーナと顔を見合わせた。今の会話を思い返すと、ちょっとだけ違和感が……あ、ロース?

 無駄口をたたかない彼の方を見ると、まっすぐにこちらを見つめていた。そして、ゆっくりと首を左右に振る。


「違う。掘れてる」

「……でも」

「水の音。聞こえた。掘れてる」

「でも、水は」

「水面と氷の間。距離ある」

「距離?」

「氷。水面」


 そう言いながら、前に出した右手を上に、左手を下へと動かす。両手の間は自分の顔が入るくらいの間隔がある。……本当に、そんなに空いてるのか?

 ジーナの方を見ると、肩をすくめられた。知らないらしい。


「毎年、春になると氷が割れる」

「そりゃそうだ」

「氷と川。かなり距離ある。隙間広い」

「……ああ、だから知ってるんだね」


 ロースの実体験からか。じゃあ、本当に氷と川面の間が空いてるんだ。まあ、それが即俺の『穴掘り』が成功だった証拠にはならないけれど、幾分気分が回復してきた。

 なんだかんだ言って『穴掘り』くらいしか取り柄がないから、さっきはかなり凹んだんだ。ほんと、調子に乗ってたんだな。できることを精いっぱいやっていく。それを改めて心に決めた。


『火壁』


「きゅ、急には止めてくれ。心臓に悪い」

「ああ、ごめんごめん。水路もこれで問題ないね。どんどん溶けてく」

「でも、夜には凍るでしょ。どうするの?」

「それは子爵が考え……はいはい。今回は試しだからこれで十分。普通の『火壁』で問題ないってことがわかれば十分なの。街中じゃ難しいけれど、もっと火丈が低い魔術を使えば問題なく溶かせる。だから、雪の処理ができる。

 それと併せて、川の氷が割れるなら、雪の一時的な処理ができるってこと。後は日程さえ考えれば街中の雪を大分処理できるめどが立つわ」

「……もしかして、うちの領でも」

「そうよ。お金を貰えて実験できるなんて助かるわね。大丈夫、それを理解したうえでの依頼だから」


 貴族としても、魔術使いとしても報酬がかなり低かったのは、こんな裏もあったのね。水路の太さとかはここと同じようになっているので、ここよりも南の領地だから余裕はあると思うけれど、念のための確認ができるこの依頼は渡りに船。それを理解したうえで子爵は依頼してくれたらしい。できる人だね。

 川の氷にきちんと穴を開けられるか。それを確かめるために、まだ氷が分厚い、別の場所へ。おっかなびっくり乗ったけれど、地面と変わらないくらいには固い。雪があるから、つるつる滑る感もないし。

 近くだと怖いので、ちょっと遠くに穴を掘る。今回は、まずは氷をどかすタイプで。『穴掘り』……いつもよりも細い穴だ。感覚的に、氷がある側面へと氷を除けていくのが、土と比べると厳しい。さすがに岩ほどじゃないけど。

 その代わり、下方向は楽。近くによって見てみると……落とした氷は流されて既に見えない。光の加減で良く見えないが、確かに、氷と川面には隙間がありそうだ。氷を飛ばして、氷を割るか、そうでなくてもバラバラに砕けるのであれば、川の流れでどうにでもなる。

 この依頼、問題なく遂行できそうだ。

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