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俺の反応があいまいだったからか、タタラ子爵は探るような目でこちらを見たまま、俺の返答を待ってる。待ってくれている。ふむ。その点を考えたら、貴族としては良い人なのかも。急かさないし、成り上がりの俺を見下したりもしない。まあ、ジーナが辺境伯家の血筋だからかもしれないけど。
今受けている印象だと、それなりに多弁であり、交渉も問題ない、偉そうな貴族貴族はしていないが付き合いやすい雰囲気のある貴族だ。北の貴族とは言え、彼自身の出身はここではないことを思い出した。だからか!
そんな人物判定は横に置いて、依頼の話だ。俺としては、特に何の問題もない依頼。なにせ、邪魔な雪をどかしたり、川の氷を割ったりするだけ。堀掃除と何も変わらない。雪をどかすのは土をどかすのと同じ感覚だし、氷に穴を掘ったことはないけれどいざとなったら畑を耕すのと同じように周りに放り投げれば自然と割れるだろう。ほぼ今までさんざんやってきたことだ。
そう考えてジーナを見ると、軽く頷いてくれた。彼女の方も問題ないみたい。当たり前か。今は迷宮に籠れることも少なく、自由な魔術の訓練もままならない。練魔はしているが、魔術の訓練も必要である。なので、専らジーナの魔術練習相手は雪と氷。つまり、依頼内容は俺達の日常をちょっと広げるだけ。リステンで世話になっている身としては、自主的にしても良い範囲。
ほかの冒険者についても、高ランク冒険者になら同様の依頼はしているらしい。冒険者は、低ランクでも迷宮に籠った方がよっぽど稼げるが、善意で除雪をしてくれている。だから、俺達も今までそうしていたし、それに疑問も不満もない。ただ、貴族としては高ランク者とつながりを作るため、そして、ギルドとしては目に見える形で彼らの貢献を残すためにも、この依頼は必要とのこと。まあ、そのために報酬金額は低く、一冬の成果を一度に貰っても、彼らからしたら小金なんだと。それでも文句が出ることもない。彼らはそれが生きていくのに必要だと認識しているから。それを理解できるだけの人間でないと、高ランクにはなれないってことだ。
へ~。色々あるんだな。
「こちらとしては、願ってもない依頼です。雪の処理などは昨年、今年とやっていますから、それを大規模にするだけですから問題ないかと。ただ、さすがに川の氷を掘り上げたことはございませんので、試してみないことにはなんとも。
作業自体は、今日からでも問題ありません」
「では、少々待ってほしい。今人を呼ぶ」
子爵の指示を受けた護衛の一人が、文官(?)をすぐに連れてきた。こっちの方が北の民っぽい。子爵よりも分厚い筋肉と大きな体躯。赤ら顔でひげもじゃ。西部では見かけたことがない姿だ。
こちらへの挨拶も深く頭を下げただけで、一言もしゃべらない。
「除雪用の川や水路を管理しているロースだ。無口だが仕事はできる。まずは……「川」……とのことだ。川の氷を割れるか、どれくらい可能かなどを見させてほしい」
「承知しました。ではロース殿「ん。どこ?」」
仕草は丁寧。今も、小脇に抱えていた筒を広げ、簡易なリステンの地図上で、どこの場所で試すかを示してくれている。ただ、言葉が少ない。小首をかしげているのは、どこから魔術を試すのかを質問したからだろう。これ、業務に支障出ないのかな?
うーん、一番近い物見塔も城壁上も、それなりに距離がある。最初はもっと近くで試したい。
「確か、川は人が数人載っても問題ないほど氷が分厚いとか。それならば、ついでに離れていても問題ないか調べるとして、川べりまで近づいて試したいと思います。やはり、距離が離れると魔術の制御が難しくなりますから」
「……」
「氷を割って水路から水が流れるようにすれば金貨10枚。長く続くように大規模に割れるなら20枚です。失敗しても金貨1枚。雪の処理は別?まあ、そちらはギルドの依頼と同額ですか。問題ないですね」
「逆に貰いすぎな気もするけど。除雪の依頼からすると」
「そこについては、依頼内容によるからだな。除雪は量で計るから魔術を前提とした依頼ではない。なので単価は安く済む。しかし、今回の依頼は君らの魔術が前提となる。魔術を必要とする依頼の最低料金がギルドの規定で決まっているのでなこうなっている。
なので、遠慮するな」
「承知しました。ありがたく頂戴します」
ある程度除雪された街中ではなく、門から出て川べりまで行くため、靴や防寒着など、今の装備じゃ困る状況だ。さすが貴族。そこも考えて、用意してくれていた。
子爵と別れ、ロースさんについて館内を移動する。今はいているもこもこの靴の上から履く外靴と、防寒着のさらに上に着る防寒着かぁ……ありすぎじゃね?そう思ったけれど口には出さない。まあ、寒いしね。
それにしても、明るいのにそんなに寒くないな。廊下にまで暖炉がある訳じゃないだろうに。
「あれはスライム板かい?ガラスとは違った透明感だけど」
「はい」
「ガラスよりも強度がある聞いているんだけど」
「はい」
「あれがあるとないじゃ、全然過ごしやすさが違うね。やはり日の光が入るのは嬉しいね」
「ええ」
「……ディグ」
「値段によるけれど、うちの領地でも導入しよう。それにしても、ガラスだってまともに見たことないのに、スライム板ってなんだよ」
「ここリステンの魔術ギルドの最新の研究成果ね。スライムの皮とスライムゼリーを加工して作るって話よ。
まだまだ量産は難しいらしいけれど、さすが領主館ね」
「すごい発明だな。魔物素材の活用ってこういうことか。実際に目で見るとそのすごさが理解できるよ」
「ゴブリン肥料の開発以来の高成果だとギルドが自慢していると聞いてるよ。なにせ、それまで安値で売りに来る人間も少なかったスライムのドロップ品だ。新人ですら倒せる魔物から価値あるものが生み出せたんだから、これはすごいことだよ」
「ここ」
「あ、こっち?はい行きます。
俺は運よく稼げたけれど、新人冒険者ってやっぱり生活が大変だもんな。っと、やっぱり外は寒いね」
「そうね。今日は風も雪もないからまだ過ごしやすいけれど、寒さだけは仕方ないわね」
砦から川へと雪用水路が続く脇、メンテナンスのためか、小さな扉がついていた。そのすぐ近くまで砦内を歩けるのでとても助かるが、こんなところに外へと出られる場所があるなんて思わなかったよ。ただ、常日頃は鍵もかかっていて、破られてもすぐにふさぐことができるような造りになっているので、防衛のための砦感が強い。
ここからちょっと歩けば川なんだけど……見渡す限り雪なのでわかりにくい。こいつは、先導するロースさんがいないとわかんないや。お願いします。




