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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
5章

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5-8

 目の前にそびえるのは、冒険者の都リステンの誇る防壁。ここ五十年の間に何度も魔物の襲来にさらされながらも、一度足りとて突破を許したことのない、鉄壁とまでたたえられたその存在は、高さ以上に圧迫感がある。大幅に拡張された外の防壁にも劣らない力強さがある。内壁となったここ十数年は活躍していないが、現役の防壁であり、当初の、迷宮攻略砦だった頃から残る歴史的遺産でもある。

 高級住宅地でもあるこの区域に足を運ぶことがなかったので初めて見るが、かなり立派だ。その防壁に巻き込まれる形で建てられている武骨な建物が領主館。民間人用の施設などは内壁から移転しており、ある程度はそこも取り込む形で大きく立て直されているので当初の姿ではないらしいが、今でも緊急時にはまさに最後の砦として活躍できるように整備されている実戦的な建物だ。

 うーん。俺の家もこうなるんだろうか?さすがに、このサイズはないだろうけど。


「建物は大きいけれど、半分くらいは騎士団が使ってるのよ、あれ。文官の仕事部屋も多いし、領主の空間は思ったよりも広くないわよ」

「……それでも、砦が家なのは大きいと思うよ」

「あら、そう?貴族の館としては大きいけれど、城としてみれば小さなものよ。元々が砦だもの」


 貴女、生粋のお嬢様でしたね。そりゃ、辺境伯家から見たら小さかろうよ。

 そんな俺の視線に気付かず、ジーナは門番役の兵士に通行証を見せていた。話がきちんと来ていたらしく、人がついて案内してくれることに。


「さ、ディグ。行きましょう。リステン子爵がお待ちよ」

「……緊張するよ」

「何言ってるのよ。お祖母様との対面でもそんなに緊張していなかったあなたが」

「あれはジーナのお供だったし、思いっきり他人事のような気がしていたんだよね。貴族になるなんて現実感なかったし。

 ああ、今はちゃんと自覚してる。君と結婚するってことも、領地を運営していくってことも、日々実感しつつあるよ」

「何言ってるんだか」

「だってほら、まだ開拓の成功が確実じゃないから公表もされてないだろ?だから、時々、目が覚めたら全部夢だったんじゃないかって……」

「ディグ……」

「大丈夫。

 ちゃんと、俺の努力が、『穴掘り』しかできなくても腐らずに訓練し続けたことが実を結んだってわかってるから」


 なら良いわ。そうジーナは笑った。

 案内された客間へと続く廊下で会話は一区切り。案内人が扉をノックしているので、この中に子爵がいるらしい。大きく開かれた扉をくぐり、中へと入る。

 ソファーに座り、優雅な仕草で紅茶を飲むのは……熊?いあ、人か。まじでこれが子爵?

 びっくりしている俺をジーナが小突き、なんとか我に返れたのでぎこちないながらも対面のソファーへ。初対面の挨拶も何とかこなせた。

 すまし顔だった子爵は、挨拶に続く雑談が済むと、ニヤリと笑った。


「フフッ驚かせたようだな」

「そうですね。あまりにルバン殿と似てらっしゃるから」

「……」


 いや、そこじゃないから。つーか、毛深くて似てるかどうかわからんし。まあ、筋肉度合いは似たようなものだが。


「弟とはあまり似ていないと思うんだがな。あんな不自然に筋肉をつける輩はどうかと思うのだ。必要以上の筋肉は、動きを阻害する。どのような物事でも、適した形と言うものがあると私は考えている。

 優れた武器とは、斧などの重量物ではなく、槍のようにスマートでなくてはいけない」

「……相変わらずですね」


 ルバンギルド長との仲は、本人達曰くとても悪いらしい。力こそパワーな見た目と外見に似合わない常識が売りの弟ルバンと、スマートな肉体と鋭い考察、さらにはふさふさな毛が特徴の兄タタラ。……そう本人たちはのたまうけれど、二人ともよく似ている。そして、仲良いようにしか見えない。どっちも筋肉だるまで見た感じ同じくらい分厚い肉体で違いなどない。片方は斧、もう一方は槍の名手で、冒険者上がり。一緒にパーティーを組んで冒険を繰り返し、ここリステンの発展に寄与してきた有名人だ。目の前の子爵は、子爵家令嬢に見初められて紆余曲折の上で結婚したらしいが、聞けばルバンさんも劇になるほどの恋愛と冒険の末に今の奥さんと結ばれたとか。

 元々は王都にほど近い村の出身だとか聞いたことがあるけれど、平民から弟は大都市の冒険者ギルド長、兄は子爵に婿入りってすごいな。どちらも、只者じゃない感がすごい。見た目だけじゃなくてね。

 立志伝中の人物の片方が目の前にいる。これって、すごいことだよな。

 ……え?俺の方がすごいって?わかっちゃいるけど、自分的には好き勝手『穴掘り』を改良して、魔術の訓練がてら道作ったりしてただけだから。さすがに、今は開拓を頑張っているので、徐々に今の立場を理解して納得しているよ。


「本日は、依頼とのことですが」

「ええ。貴族としてのあなた達ではなく、冒険者としてのディグ殿とジーナ殿に。

 なので、口調もそれなりにさせてもらおうか。簡単に言えば、依頼内容は氷と雪の片付けだ」

「普通に皆さん片付けてますよね?溶かしたり、捨てる場所もありますし」

「ああ。毎年のことだから、住民は自分達に関係あるところの雪については作業している。それをしないと買い物もできないからな。しかし、こちらも毎年なんだが、雪を流す水路も川も凍る時分は横に避けておくしか無くてな。

 それだと色々と困るんだ。溶けるまでに時間もかかるし、そもそも邪魔で仕方がない」

「それをなんとかしろと?今まで、山ほどの冒険者が居てもなんともならなかったことなのに?」

「まあ、そう言わんでくれ。

 ディグ殿の『穴掘り』は規格外と聞く。普通は土しか掘れないのに、それ以外の物も掘ることができるとか。ならば、川の分厚い氷も細かく割ることができるのではないか?そうすれば、川に雪が流せる。川に流せるようになれば、水路の雪をジーナ殿の魔術で溶かしてほしい。他にも、積んである雪を水路に落としたり、凍っているところを割ったりしてほしいのだ。

 この辺りは冒険者への冬季の常設依頼としてあるんだが、手間に比べて報酬が安いのであまり積極的には受けてもらえん。まあ、自分達に必要な分は自分達でやってくれているから文句も言えんが。今回は作業量が作業量だから別料金を支払う。ただし、どこまでできるか、その後の除雪作業についてもその場で決めたいので、こちらの人員を付ける。もちろん、できるかどうかは試さねばならん。試すのにも手付は払う。

 どうだ?」

「はあ……」


 ジーナ。前情報と違くない?

 北の貴族は無口なんじゃないの?かなり流暢なんだけど。

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