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「距離があるとはいえ、領地としては隣。最も近くで栄えている都であるリステンよ。それに、向こうに居住できるようになるまでお世話になるのだから、もちろん折を見て挨拶はしてあるわ。最初の冬でもそうだったでしょう?末永く関係が続くのだから、それくらいはしているわ。元々顔見知りだもの。
あちらにはある程度の進捗状況も別途お伝えしているので、わざわざ呼ばれる理由に心当たりはないわね」
「単純に顔合わせ?俺は会ってないもんな」
「ああ、ディグとの顔合わせの可能性はあるわね。どこからか、貴方が領主になる予定との話を耳にしたのかも」
「……それって広まってるの?。挨拶行っておいた方が良かった?」
「まだ正式に決まったわけじゃないから別に必要ないわ。開拓の成功がほぼ確実になってからよ。それでも私達から外部に話をするのは差し控えた方が良いわね。公表されてからじゃないと。
貴方の存在自体は別に秘密にはしていないけど、広げてもないわね。お祖母様や私の身内から話が広がる線はほぼないわね。領主になることが決定的になる前なのに、決まっていないことを広めたら影響が強すぎるもの。
村人や兵士との話し合いの様子が漏れたのかも。領主としては紹介していないけれど、雇い主としては貴方でしょ?顔も合わせているし、別に秘密にしていないから。そこから推測したのじゃないかしら」
雑談を色々な角度から集めると、かなりなことが推測できるらしい。そういった情報収集と分析も貴族としての嗜み……ぜいたくな暮らしをしているだけじゃないんだなって改めて思う。昔は知らなかったからそんな印象だったけど、実態は全然違うのな。
冒険者から直接とはなかなかいかないけれど、迷宮の情報につながる魔物の討伐状況や街道での遭遇、被害等については冒険者ギルドのみならず、護衛などを依頼する方の商業ギルドからも集めているのだとか。まあ、異常がなければ部下止まりの報告だろうけど。
何はともあれ、この地を治める領主からの呼び出しだ。木っ端貴族としては否応もない。まあ、こちらの都合を聞いてくれるような心配りができる領主みたいだからありがたいけど。
俺達にこの先ずらせない予定はない。早速、ミルトンにいつでも問題ないとの回答を認めてもらう。もちろん、ちゃんとカールのチェックありで。執事として身を立てるなら字を書くことに慣れないとね。え?俺?学院時代に苦労したので、上手くはないが下手でもないよ。頑張ったもの。
ちょっと時間がかかったけれどミルトンはそこそこ奇麗な字でお返事を書いてくれた。カール曰く、明日日程を決める返信があり、明後日にお邪魔することになると思われる。ちょっと行ってみるわけにはいかないので結構面倒だと思ったけれど、王都などではもっと大変らしい。数日後に会えるのであれば早い方なんだと。やりとりももっと多く、文面も複雑になるとのこと。……うん、俺王都には行かない。
「学院の誘致……は難しいにしても、研究所は早めに設置したいわね。迷宮の活用を考えるにしても、一々こちらに来てなんてやりたくないし」
「研究所?なんの研究所?迷宮?そんなの聞いたことないけれど」
「あ、あれも3年目に習うのだっけ。じゃあ知らないかもね。
冒険者ギルド、商業ギルドはちょっと大きめの町にすらあるくらい大規模だけど、街レベルだと魔術ギルドがあるのは知ってるわよね?」
「ああ、あれね。ここにもあるよね。魔術が必須の依頼なんかがあるあそこでしょ?冒険者ギルドにないような変な依頼なんかもあって、結構良い利益になるんだよね、あれ」
「まあ、魔術が使えることやそれ相応の知識が求められる依頼しかないもの。寄るのを後回しにされやすいから高ランクの冒険者には冒険者ギルドでも同じ依頼を見せるようにしているみたいだけど」
「へー。縁がないから知らなかった。
で、今の話の流れだと、そこが研究所なの?」
「そうよ。正式には魔術研究所ね。対外的にはわかりやすく魔術ギルドって名乗っているの。構成員のほとんどが魔術が使える。そこで色んな研究をしているわ。ちなみに、魔術ってついているけれど、魔物の研究などもしているわ」
「え?冒険者ギルドじゃなくて?」
「あちらは弱点や生態。つまり、倒すための研究ね。魔術研究所では活用方法なんかを研究しているの。鋭い爪や牙、丈夫な毛皮はもちろん、普通の動物にはない火袋や燃える鱗なども使い道がないか日々研究しているの。特に、近くにある迷宮産のドロップアイテムを研究していることが多いわね。
魔物の素材は鍛冶や薬剤などへの応用が基本だから、街にあるのとないのじゃ、近場の迷宮から得られる利益が倍は違うわ」
「そりゃすごい。まあ、今は使い道がない素材だって研究すれば何かに役立つ物ができるかもしれないしね」
「そうよ!昔は価値のなかった素材でも今じゃ欠かせない物とかたくさんあるわ。
有名なのは、ゴブリンの胃液。あれが堆肥薬の元なの。まあ、活きの良いゴブリンの死体からじゃないと加工できないから難しいんだけど、あれのおかげで厄介者でしかなかったゴブリンが、畑の肥料になるんだから。
薬になる素材だけじゃなくて、加工するととても暖かくなる毛皮とか、鉄とかと混ぜて武器にすると効果が出る素材なんてのも見つかってるのよ」
「迷宮だとほとんど素材が手に入らないから関係ないけど、魔物が多い北部には必須だね」
「あれ?迷宮でもドロップはあるわよ?ほら、ゴブリン倒すとナイフとかあったじゃない」
「……え?あれ、ドロップ?まあ、確かに落とし物だけどさ」
「オークから肉とか、ウルフ系から毛皮や牙とか。もちろん、確率は低いからあまりたくさんではないけれど。ほら、冬場の食料確保に迷宮って話もしたでしょ」
「確かに。
聞いたときはそういうものかと流してたけど、言われてみれば、ドロップしないと手に入らないし、手に入れたのは素材だよね」
「植物とか鉱石とかもある程度手に入るから助かるわ。なので、将来的に砦を広げる場合は、迷宮産の石や煉瓦を使うことが望ましいわ。
そうじゃないと、山なんかすぐになくなるもの」
「……返す言葉もないな」
山を切り拓いて防壁用の石材や煉瓦を用意している身としては、そう言われると厳しい。確かに、砦一つ来るだけで、滅茶苦茶大量の素材が必要になってる。その確保で困っているわけだ。それが、将来的には迷宮からも補填できるならありがたいな。
さて。そろそろお仕事再開しますか。領主館に伺う日は仕事にならないからね。




