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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
5章

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5-5

 大まかに書かれた領地の大地図を、ジーナは空いた机に広げた。書かれていることは多いけれど情報としては少ない。川、森、山が大半で、リステンと砦、道と村の予定地くらいだ。

 その中でも下端の方、山を貫く道を指さす。


「ここに、北からの魔物を防ぐための砦を建設しないといけないの。山の向こう側には西部で砦を作るけれど、こっちはこっちで、向こうに魔物が出ないように、そして管理範囲を決めるためにも砦がないとね。

 これは北部全体での話でもあるから、辺境伯家がある程度協力してくれるけれど、今回は断った方が良いと思う」

「うわー忘れてた。そっちもあったね。

 うん。今の順調さからすると、こっちだけでやった方が良いかもね。下手にやっかまれても困るし」

「まあ、やっかむような質の者は珍しいけれど、北部全体としてみればその分を他に回してもらった方が助かるから。寒さと魔物が厳しい場所は多い。ここは恵まれてる。

 領地経営では、周りとの付き合いもかなり重要になって来るわ。もう少し広い視点で見る癖をつけられると良いわね」

「こっちは、北部の中でもかなり南の方だし、雪が融け次第西部との交易ができる。現状でも、この先もそんなに困らない。金も、食料も。

 それなら、もっと北の方に回してもらった方が良いね」

「貴方がいれば、春に畑を起こすのも、堀や川の整備も、費用も人でも軽減できる。砦の石材だって、私たち二人なら用意できるし、当面は兵士を丸々作業に当てられるもの。これ以上、外部の支援はなくてもなんとかなると思うわ。

 それに、恩に着るって程ではないでしょうけれど、周りからの印象は良くなるわね」


 印象って侮れないのよ。そうジーナは言う。

 滅多に会うことがない他の貴族。こっちもそうだけど、あちらも、手に入れられるのは噂話や実績などのあやふやな情報。時には人柄までそれで判断されてしまう。そう考えると、支援を断り、それを北部の迷宮対策や魔物対策に回してほしいと回答することは、もらえない金額以上の利益をもたらしそうだ。

 ただ、気を付けなくてはと思う。ここまでは地域に生息していた魔物を間引くことで大きな利益を確保できたけれど、この先はどれだけ素材が手に入るか不明。なにせ、近隣の迷宮は開拓するにあたって潰されたから。ジーナの家族に。

 しかし不安はそんなにない。迷宮ができる過程は解明されていないらしいけど、放置された迷宮の近くには迷宮ができやすいことは知られている。リロルでは、川のこちら側は潰して回ったみたいだけど、川向こうは近隣だけ。砦を建設している間に、近くにできてもおかしくない。

 交易の中継地は必ず繁栄するし、楽観しすぎはいけないけれど、リロル地方の未来は明るいってのが、俺らの共通認識だ。


「この計画だと、次の冬は向こうで過ごせそうだね。村人は……まだ村での生活はちょっと難しいか」

「砦の防壁を優先したいから仕方ないわね。本当なら、少しずつでも村を作っていってほしい気持ちもあるけれど……」

「畑の整備は俺がやったし、区割りと堀もすでにできてるからね。また春に畑を起こす予定だし。今急ぐ必要はないかな。

 家を建てる用の木材もかなり置いたから、手が空けば柵の整備から始めても良いかもね」

「村として機能させるには、それなりの柵にしないといざという時に困るから、そこは手間暇かけてでも良い物にしたいわね。教育も施したし、そもそも急いで人を使い潰す必要はないし」

「こっちの砦の防壁を春に、あっちは夏になったら手を付けようか。それまでに、あの山をさらに切り出して、石材とかを用意しておけば材料も問題ないかな」

「こちらの砦ほどではないけれど、それなり……そうね、百人が常駐、千人が継戦できるだけの砦にしましょう」

「そこそこ大きい?こっちは常駐千人、継戦は万単位だよね?それに比べると小さくないか?」

「そもそも、こちらは領都機能もあるから、最初から万単位の人間が生活することを考えているわ。だから、こちらと比べれば大きさは十分の一以下よ。機能としても、訓練場、各種倉庫に生活空間。防壁を多重にしておくことくらいかしら」

「……商業機能とかは要らないのか?ちょっとここから距離があるし、あった方が便利だろ?」

「防壁が広くなりすぎるけれど……ありね」

「まあ、最初は費用も時間もないから中心となる必要部分を作って、他の都市みたいに後で広げるのでも良いかもな。あ、でも、そんなに広くできるんだっけ?」

「大丈夫よ。もっと西に行くと山の麓の湖、東に行くと起伏が激しくなるけれど、どちらもそれなりに離れているから。計画の大きさの数倍程度なら許容範囲」


 それはすごいな。

 北部って人の手が入っていなくて、森と山しかないけれど、広さだけはたくさんあるんだな。

 あ、忘れてた。


「そうだ、ジーナ。料理長のボンズから伝言。ココリスが手に入ったって」

「そうかっ!よし、そうと知れば、さっさと仕事を終わりにしよう。時間が空いたら、訓練しても良い。身体を動かさないと。夕食までにはきちんとお腹を空かせておきたい」

「……そんな喜ぶことか?。

 確かに、汗をかいたらココリス水は美味いけれど」

「ん?ココリスはいつ食べても美味しいじゃないか。私は大好きなんだ」

「……食べるのか?あの酸っぱい干した奴を?

 水につけた奴なんて何の味もしないだろ?一度食べたことがあるけど、味が水に全部出て食感もぐにゃぐにゃで食えたもんじゃなかったぞ。

 無理して食べてもそんなに大きくないから腹も膨れないし」

「ディグの故郷では水につけるのか?」

「……普通そうだろ?ココリス水はダグだって懐かしいって言ってたし。他の使い方なんて聞いたこともない」

「さてはココリスを良く知らないな?もったいない。

 ココリスの木は季節によって様変わりするんだ。春には緑の葉に白い花。小ぶりだけど、葉の緑が濃いから良く目立つ。花が散ると葉の色も濃くなって夏の到来を告げる。秋には鮮やかな赤。実はまだ小さく目立たないので一面真っ赤に染まって見える。すっかり葉の落ちて、枝が小ぶりの黄色い実だけになったら収穫だ。時期は収穫祭の後だな。私達が戻って来るより少し前あたり」

「へー知らなかった。見たことないな、そんな木。そもそも、干してあるやつしか見たことがないかも……うん、そうだ」

「そのままでは酸味が強くて食べられないが、干した物に熱を加えると……」

「加えると?」

「とても甘くなるんだ。北部では甘いスープにする。温かくて甘い。冬の数少ない楽しみの一つだ」

「へー。それはすごいな。

 甘い物なんて普通だと高くて買えないけれど、ココリスならそこまで高くない。その食べ方が広まると良いな」

「それで手に入りづらくなったら困るよ。あれは北部の冬にこそ必要な食べ物なんだから。多分、他の地方に送られるのは冬に消費しきれなかった物だろう」

「だから出回る季節が違うのか。いくら甘くても夏に温かいスープは遠慮したいし、冷たいさっぱりとした飲み物になったのは苦肉の策かもな」

「そうかもね。まあ、そんなことはどうでも良いから、すぐに仕事を終わらせて、訓練に行くよ!」

「はいはい」


 ここまで喜んでくれるなら、領地でココリスを育ててみても良いかも。うん。忘れないようにしないと。

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