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今日も朝からちらほらと雪が降っている。外を見れば、ある程度雪かきがされて歩きづらくはないだろうが、馬車はほぼなし。事故の危険性があるからだろう。寒い風が吹き付け、思わず体を震わせる。急いで窓を閉めたが、その分暗くなるので困ったもんだ。
夜のうちにどうしても体が冷えるから、朝食の前に軽く運動。がっつり汗かくほどやると余計に冷えるので、冷え固まった体をほぐすくらいにとどめておく。
食堂の付近は早朝から騒がしい。まだ準備が終わっていないのかもしれない。結構な人数がここに住んでるからな。いつもなら食べ始めるのはもう少し先だ。基本的に、準備ができたと呼びに来るし。
なので、隣の執務室で書類作業。夜のうちに運び込まれた書類を読み進める。緊急性がある物は起こしてでも決裁させられるので、ここにあるのはまだまだ時間がある物。でも、当主予定の俺のサインがないといけないやつだ。面倒だけど、一通り目を通してからサイン。数が多くて困る。
上級兵士ならともかく、下級兵士が休み一つ取るのにも俺のサインって早く止めたい。こいつは、まだ組織がきちんとできていないから起こる現象。どこまでを誰が采配する権限があるかが確定していないから。来月には原案ができて動き出せるってことだけど、それまでは俺がするしかないのだ。ま、急ぎの場合は事後承認になるんだけど。
収入の報告を見ながら、以前提出された予想額の紙がつづられた本を机に広げ、大きな変化がないか……あれ?めちゃくちゃ収入多くね?支出は給料と日々の食料と薪などの備蓄が大半。残りは、順次そろえる装備や手配した資材の前金、消耗品なんだけど……持ち出しなしで解決してるぞ?
聞いていた話と違う気がして色々と本を引っ張り出していたら、ドアが軽くノックされた。
「そろそろ朝ごはんにしよう。食べないと作業効率が落ちる。それに、皆が困るぞ」
「了解。今行く。
もうそんな時間か。腹が減ったよ」
扉横にいたドアを守る兵士に軽く挨拶して、ドア横にいた護衛を引き連れ、ジーナと共に食堂へ向かう。ちなみに、食堂の横は台所。その奥に使用人用の食堂が纏まっている。砦ならまた別なんだろうけど、大きいとはいえ家だから、似た施設はまとめた方が効率的だと、そう建てられているらしい。……家に効率的ってと最初は思ったけれど、慣れた。よくよく考えれば、使いやすい方が良いに決まってる。
家自体はかなり広い。なぜなら、冬の間に消費する薪を廊下の壁際などに設置する設計になっているからだ。豪雪の中で外に取りに行きたくないのはもちろん、ある種の断熱材的に使われるらしい。なので、冬の間中廊下も部屋も狭い。そもそもが広いんだから問題ないはずだけど、狭く感じる。雪に埋もれないように屋根を付けた薪置き場も家に接していて、万が一を考えてそちらを先に使うから寒さが和らぐまではずっとそんな感じ。ジーナなんかは気にしてないけれど、未だ慣れない。
石造りの家も西部だと珍しいけれどこちらだとかなり多いし、同じ木の家でも柱から壁から、厚みが違う。井戸だって、屋根が石なのは初めて見たし。去年は慌ただしく過ぎたから見過ごしていたけれど、思ったよりもこっちの生活は見た目からして違う。
「……そろそろ、新鮮な野菜は難しくなるね」
「え?使ってるだろ?このスープとか。贅沢だよな」
「ほとんどが乾燥野菜だね。色がくすんでるだろ?芋類は保存も効くし腹にも貯まるから良いんだけど、どうしても色合いが寂しいからね」
「……違いがわからんなぁ。まあ美味しいから良いんだが」
「褒めていたことは料理人に伝えておくよ」
食事中の何気ない会話で、今日もまた新事実が発覚した。領主(仮)だから冬でも贅沢に新鮮な野菜を使った料理がでてるのだと思ったら、乾燥させた野菜を上手に使っていたらしい。なにげに、料理人の技術が高い。ちなみに、この料理人もジーナが小さいころからの付き合いで、彼女の独立に伴ってついてきた来た一人。鍋を振る手がぶっといボンズさん。新人を鍛える怒鳴り声がここまで聞こえることもある。
食事の時はあまり仕事の話をしないようにしている。メリハリが必要だからね。なので、会話内容はどうしてもこっちの生活や食事などの話になる。前に魔術の話になったときには食事そっちのけで話し込んでしまって、皆に怒られたからね。
冬の北部は寒い。特に外は。しかし、生活と考えるとそこまで寒くないと最近思う。部屋を暖めるための暖炉など、常に火が側にある生活のため、温かい飲み物やスープは常備されている。室内で着る服も生地が厚かったり、毛皮などが使われているので少々動きづらいが、暖かい。外に行くときにはこの上にさらに着込むからちょっと動けば汗をかくほどだ。
準備さえきちんとできれば、寒さはなんとかなるんだな。良い香りがする紅茶を食後に飲みながらちょっとまったり。朝食なので大量ではないけれどそれなりに食べたので、お腹が落ち着いたら仕事の続きだ。また執務室に戻らないと。
休憩を入れると、書類の内容が良く頭に入ってくる。うん。人間に適度な休憩が必要だな。
「思ったよりも、収支が良いね。これって、支度金とか褒賞とかは別になってるんだろ?そもそも、収入って魔物の素材だよね。そんなに高く買ってくれたのかい?」
「ほら、こちらに来るときに大量の燻製肉を持ってきたじゃないか。あれは自家消費用として売るつもりはなかったんだけど、干し肉よりも美味しいって話をどこからか聞きつけたのか、買い取りの話があってね。
残っていた素材も粗方持ってきたじゃない?あっちもそこそこの値段がついて」
「肉かぁ……こっちは食材が高く売れるからそこは理解したよ。でも、素材はありふれた物が多かったと思うんだけど……」
「うん。保存のきく、毛皮とかがね。季節柄、丁度値段が高くなっていたんだ。少しだけど、数が多かったから」
「それでこれか。このままだと結構運営費って余裕があるのかな?」
「普通は、近隣の迷宮攻略や魔物討伐の成果で赤字を補填して、なんとか十年で軌道に乗せるんだけど……うちは幸いなことに今のところは順調すぎるほど順調ね。
でも、川のこちら側の魔物はかなり間引きしたし、川を広くしたから向こうにも行きづらくなったでしょ?来年以降はここまで魔物素材は手に入らないと思うの。そうなると、交易が始まらないとなかなか難しいわね」
「砦がある程度できるまでは我慢の日々ってことか」
「あら。それは甘い考えよ」
え?問題ない程度の防壁が整備できれば、その規模に合わせた橋を架けて川向こうに行けるでしょ?ローテーションで魔物退治すれば収入はある程度確保できると思うんだけど。
そうなれば、冒険者ギルドも稼働するし、商人だって足を運ぶんじゃないかな?そんな計画のはずだけど。




