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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
5章

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69/97

5-1

久々の更新となります。

「……」

「お疲れ様」

「……あ゛ーーーー。文字を書くって疲れるね」


 必死に今の打ち合わせで決まったこと、気になったことを皮紙に書き、筆をおいたタイミングでジーナから声がかかった。こわばった体を伸ばしながら、思わず奇声が出る。清書はミルトンにでも任せようか。

 北の冬は厳しい。ましてや、ここで生まれ育ったわけではないディグにしてみれば、暖炉の炎を足しても骨身にこたえる寒さだ。特に足元が冷える。質の良い毛皮の服が手放せない。そうなると、書き物一つするにもいつもより疲れるのだ。寒いし、着こんでいるから。


「机仕事は冬が多い。打ち合わせもね。冒険者以外は外に出ることも少ないから時間があるんだよね。内職も盛んだけれど一番はやはり春以降の相談だね。

 他所よりも実りの時間は短いから、決めておくべきことは全部決めておかないと大変なんだ」

「うん、わかってる。春からの開拓スケジュールは大詰めだよ。本格的に雪が積もると、外との連絡だって大変だからね。今できることはやっておかないと。

 砦建設の進め方から人数割り振り、大まかなスケジュールまでボトラルと決めた。さっき書いていたのがそのまとめだね。

 交易については、全体像はこの間ジーナと決めたし、これからカーラムが来るからロル村、いや西部での動きとか方針だけじゃなく、細かい実務的なのまでざっと話し合わないと。その資料がそっち」

「結構結構……書き写したのはミルトン?」

「本気で執事を狙っているみたいだから、見習いとして採用したいんだけど……」

「筆頭執事はカールで良いの?」

「他から雇うのも難しいよね。忠誠心と力量を考えないとでしょ。その点、彼なら昔からジーナ付きだったわけだし」

「当主の貴方よりも私を優先しそうだけど、後継のミルトンとかの教育次第か……」

「それなんだけど、孤児の中から有望そうなのを何人か育てようと思って」

「それは良い案だね。……もしかして、シルビアを見ててかい?」

「そうなんだ。ジーナにも何度も言われたけど、やっぱり忠誠心ってのが必要だよね、これだけ重要な情報が多いと」


 冒険者の都リステンの拠点に来た時から、妹のシルビアは勉強漬けの日々だ。貴人に仕える侍女としての教育。その前段として必要となる基礎的教養。もちろん、脅威が隣に息づく北の地。主人だけでなく自らの身を守るための手段も必要となる。ところ変われば品変わる。天候から植生、料理や道具に至るまで、西部と北部では様々な差異もある。彼女はそれこそ寝る間も惜しんで勉強の日々である。

 おかげで、ディグは寂しくて仕方ない。

 なまじ実家で過ごし、これからは妹も近くにいる生活が始まると思っていたからこそ、食事と言う名のマナー教育の場くらいしか会わない日々は、変に郷愁を誘っている。

 しかし、シルビアは生き生きとしている。とても、そう、とてもだ。学べることが嬉しいと言う。何せ、一から十まで、端から端まで、辺境の農家では教わるどころか接することすらないことばかり。一つできるようになるたびに学ぶべきことが増えていく。常に新しいことを知る日々。成長を実感する毎日。きついけれど楽しそうだ。

 そんな日常を積み重ねている妹は、ジーナに心酔している。ジーナの性格やカリスマ性もさることながら、学ぶ機会を頂けたことが何よりも大きかったらしい。ちなみに、この兄を見る目も尊敬が強くて眩しい。……なお、武術の師であるダグを見る目はもっと眩しい。三人のうち一番眩しくないのがディグを見る目であることはちょっと寂しい。

 まだほとんど顔を合わせていない村人も、大半はジーナとディグに心酔している。日々の食事にも事欠く日常から救い上げ、厳しくも教育まで施してくれた領主。それも自らだけでなく、家族や友人知人の大半が一緒だ。それに、近くにいた無常なる暴力と言う名の脅威を圧倒的な力で排除し、平和な、反抗しなければと言う条件が付くが、とても平和な生活を保障してくれている。

 これで心酔しない人間は少ない。特に、シルビアより若い、未成人の子達は神のごとく敬ってくれているらしい。お互い見たことすらないのに、ものすごい信奉具合だとか。これなら、成長したら領地の中枢で活用しても問題ない。

 今のところ特に開拓にも領地にも、他所に秘密にしておくべき秘儀やら特産物やらは存在していない。隠すべきことはほぼないけれど、お金の流れや人員、今後の計画などは広く知らしめたいことではない。どこで何があるかわからないから。そう考えると、できるだけ中心人物は忠誠心のある者が望ましい。


「見どころのある数人をこちらに寄こすように手配しよう。ま、もう雪が降り始めたから来るのは春になってからだけど」

「……当分、手が足らないなぁ」

「もう少ししたら、シルビアもこちらに回そう。そろそろ侍女としての教育も一通り終わるから」

「春からは少しは落ち着くにしても、この冬はどうにもならないのかぁ……」

「すまないが、春からも落ち着かないぞ。まずは、実地で教育しながらになるから。そうなると、どうしても余計に手間取る」


 無常なる宣告に、思わず机に突っ伏した。

 わかっていたけどね。

 でも、ジーナの中には、中核を担う存在を他所から連れて来るという判断はなく、それをディグも承知しているし、納得している。本当なら、ジーナの領地から引き抜いた方が楽なんだろうけれど、あっちも特にジーナが身を入れて領地経営していたわけではないので、ほぼ付き合いがなく断念。見どころのある人間を開拓初期から苦楽を共にした方が後々良いとの結論になっている。


「騎士、上級兵士はほぼ辺境伯家からの出向だよね」

「冒険者も高ランクの人間が何人か手を上げてくれているけど、最初は騎士としての基本を覚えてもらいたいし。もちろん、ダグにも」

「親衛隊長だもんな」

「名ばかりだがな」

「おっと、いたの?」

「リロル様!報告書です!」

「……はいはい」


 ダグのおふざけには付き合わないよ。

 持ってきた資料を見ると、名ばかり親衛隊の総員10名の詳しい来歴と、運用計画。ほぼ全員が昔からジーナのそばにいた騎士なので問題ない。……が、結構華々しい来歴ですな。武術大会での入賞経験者、それも騎士部門が並んでる。

 全員がダグよりも力が強く、技術もある。それを取りまとめるんだから、彼の苦笑いもわかる。まあ、訓練が滅茶苦茶楽しいと喜んでるから良いんだけど。

 俺とジーナの護衛が基本だけど、人数が少ないので日中は各1名、夜間は各2名。ローテーションを組んで回していく。なので、当面は休みなしな職場である。

 まあ、開拓がある程度進むまでは、どこもほぼ同じだけどね。

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