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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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閑話

 なぜでしょう。

 なぜ、姉さまは領主の道を諦めたのでしょう。

 誰よりも努力をし、活躍をし、将来を嘱望されていたのに……。

 数多の魔術を操り、偉大なるお祖母様でもできないことを軽々とこなし、お母さまよりも魔力量が多い、次代の賢者と幼くして謳われた姉さま。

 それなのに。ああ、それなのに……私に風魔術の適性があり、『乾燥』が上手にできたからって私を母の後継とするなんて。


「何故なのです、お母さま」

「またその話ですか、クリー。

 ドリアーナ辺境伯家は新興貴族。我が母マティーが『乾燥』ただ一つで成り上がったのですよ。幸いなことに、私も貴女も『乾燥』の魔術が得意。後継となるのは当然です」

「ですが、賢者の再来ともいわれる姉さまも『乾燥』は使えます。貴族家の当主としては、これ以上もないほどの人物ではありませんか!」

「ええ。あの子も魔術を得意としていますし、魔力量も技量も申し分ありません。我が家の象徴『乾燥』も常人以上に使います。

 しかし、使う程度では周りは納得しませんよ。北の魔女の象徴、我が辺境伯家の象徴は絶対的な『乾燥』の威力ですから」

「そんなわからずや達の声に耳を傾ける必要がどこにあるのですか!この先、北の地が発展していくためにも、姉さまの力は必要不可欠です」

「……一人で領地運営はできません。周りの者の声に耳を貸すことも必要です。貴女も辺境伯家の後継なのですから、発言には注意なさい。

 それにそもそも、あの子には辺境伯を継ぐ意思がありません」

「ですが!」

「……はぁ。

 まあ、毎回異なる言葉で私を説得しようとする努力は評価しますが、いくら言われようとも、ジーナを改めて後継とすることはありませんよ。これは私だけでなく、家としての判断です。

 それに、あの子には領地があります」

「私だってありますよ、領地くらい」

「貴女とは違います。貴女は、自分の領地を代官に任せ、上がってきた報告を読んでいる段階でしょう?代官を置いても、方針の指示や政策の策定、時には別の者に調査させることも必要なのですが、今はまだそこまでのことはしていないし、させていませんよ。でも、ジーナは違います。

 これからの話になりますが、ジーナは今の領地を返上し、南西部の未開地を開拓するつもりです。そのために、色々と動いています。血筋で貰う領地ではなく、自ら切り拓く領地を求めています」

「……知っています。ですが!」

「あの子は我が母『乾燥』のマティーに憧れました。しかし、想像以上に魔術への適性があり、周りの期待に応えていたらいつの間にか賢者と目されるほどになりました。……本人は『乾燥』のみを熟練し、少しでも理想に近づきたかったようですが、周りの思いを断ち切れるほどの強さはありませんでした。

 なので、別の道で追いかけると決めたのです」

「それが、開拓ですか?」

「理想に近い人物を補助すること、です。

 それが、私であり、貴女であり、夫となるべき人物です。そして、この地を富ませること。それこそが、今のあの子の目的なのですよ」


 広大な、厳しくも愛着ある北の地を自ら担うのではなく、担える人物を支え続けることを選んだ長女。姉こそがこの地を担うべき人物だと信じる次女。どちらも私にとっては大切な娘であり、ドリアーナ辺境伯家を、延いては北部地域を担える存在。

 しかし、ただ流されて担うには、どちらも重すぎる。自ら選んでいてさえ、時々嫌になるくらいなのですもの。

 だから、ジーナが自らの意思で選び、進んでいる道を妨げたいとは思わないし、修正する気もない。幸いなことに、私よりも、母の後継者に相応しいと言われるほどにクリーの技術はすさまじく、護衛の騎士団が一小隊もあれば、竜ですら倒せる。小規模な迷宮であれば、先日のように逆に騎士団を引き連れて経験を積ませることができる程度には優秀なのですから。

 これは純粋な魔術師たるジーナには困難なこと。様々な魔術を駆使することでどんな状況でも対応できる魔術師は、多才な手札を持つ反面、一つの魔術への習熟度はどうしても低くなるのです。もちろん、威力は絶大で、有用な手札を多く持つことは何よりも重要ではありますが、その重要性から魔術の乱用は好ましくありません。必要な場面で使えないのでは意味がありませんから。

 魔力消費量とその貴重性から単独で迷宮を攻略するようなことはできませんし、させることはありません。多数の迷宮を抱え、時には貴族家当主が攻略の前線に立つ北部貴族の盟主としては、好ましくあっても望まれる存在ではありません。どちらかと言えば、威力が高く、かつ、魔力消費量が少ない魔術を得意とし、戦略やカリスマに特性があることを求められているのです。……現当主である母が偉大過ぎる弊害かもしれませんね。

 それを理解しているジーナが、自らがあこがれの存在に近づくのではなく、支えることでこの地を守ろうと決意したのは成人前の十の時。誕生祝いの翌日に言われたときには夫婦で頭を抱えてしまいました。……もう少し、子供でいても良いと思うのですが……目の前のクリーを含めて。


「あの子は、これから『乾燥』のみを鍛えることと、多彩な魔術を活用すること。どちらがドリアーナ辺境伯家に、この地にとってより好ましいかを考え、自ら道を選びました。夫となる者と貴女、そしてこの地に生きる領民のためにとあの子が選んだのです。

 これを否定することは、ジーナを否定すること。そんなことは私にはできません」

「……」

「それに、なかなかに見る目があるではありませんか。あのティグルス・リロル準男爵は、あの子の理想に近い」

「……どこがですか」

「大抵の魔術使いは2、3の魔術は使えるものですが、あの者は『穴掘り』のみ。生活魔術は使えるようですが、それに使う魔力すらも節約し、自らの魔術の研鑽に費やしたと言います。そもそも、土魔術の素質があり、周囲に期待されて魔術学院に入学するも志半ばで躓いたにしては、腐らずに自らを高めるとは、真面目で良い性質であると言えます。

 それに……」

「それに?」

「少なくとも、どこかの公爵の馬鹿息子やどこぞの侯爵の屑次男などよりも、自分と言うものをわかっているようです。少々自己評価が低いきらいはありますが、調子に乗るよりもよっぽどよろしい。

 元々平民ですから教養は乏しくありますが、そこはジーナの教育次第。南部ならいざ知らず、この北の地では貴族政治など余技のようなもの。開拓にも、資金集めにも使える魔術に習熟していることも利点。次代、次々代はどうなるかはわかりませんが、初代としてあの地を拓くのであればこれ以上はない選択肢でしょう」


 クリーも馬鹿ではありません。私の言葉を理解しているのでそれ以上の反論はしてきませんでした。まあ、納得はいていないようですが、感情の問題ですからね。

 この先、何十年と付き合っていくのです。その中で折り合いをつけて行けば良いでしょう。その時間を作るのが私たち上の世代の役目ですね。

さて。4章もこれにて終わりとなります。

5章は現在執筆中。

気長にお待ちいただければと思います。

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