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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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4-17

「ここが……すごいですねぇ……」

「ほらほら、シルビア。口が大きく開いていてみっともないよ」

「いや、だって、仕方ないじゃない兄……驚いて当然でしょう、お兄様。今までいたところとは、何もかもが違います」


 リステンで借りている大きめの屋敷を見たシルビアが呆けていたので、声をかけたら驚かれた。ついでに叱られた。言われてみれば、魔術学院にも通った俺はそこそこ大きな建物を見慣れているけれど、村から出ていないシルビアにとっては、初めての、村長宅よりも大きな建物だもんな。砦予定地に積まれていた大量の材木や煉瓦とかを見ても驚いていたし。

 さっき村人たちを送った集合住宅的な場所には呆れてたな。あんなに狭くちゃ生活に不便だろうって。うちの家だってそんなに大きくはないけれど、それでもこの街の家に比べるとちょっと広い。ましてや、長屋っていうらしい、複数の家をまとめて作られたやつなんかは、うちの半分ほどだ。住んでる人に言わせれば、農作業用の道具などは置かないから、そこまで狭くないみたいだけどね。

 人数が集まったら想定していたよりもこの屋敷じゃ狭かったんで、村人が長屋、中心人物はこの屋敷、冒険者はBランクの『早春の誓い』『春の足音』がここを拠点としていて、他のパーティーはFランクである『リリーとゆかいな仲間たち』だけが長屋を使っているという。Dの『雪兎のしっぽ』はクラン『雪兎』の拠点があるし、他は迷宮や依頼に飛び回っている……らしい。荷物は長屋に置いてあって、時々帰ってきているようだけど、今は降雪前の貴重な時間。依頼をこなすことを優先しているのだとか。

 今回の一連の依頼――僕らの護衛と開拓手伝い――の結果、協力してくれたパーティーは基本的に移住を決めている。『雪兎』については、ほぼクランごとだ。一部は、冒険者ギルドリロル支部専属冒険者となり、一部は俺の直接の部下になる。残りは、兵士になる奴もいれば、引退して村人や他の仕事に付こうとしている者もいる。どんな仕事をするにしても、常人を超えた体力や力があるから歓迎されるに違いない。

 冒険者ギルドは正式な形ではなく、当面はリステン支部の副支部長の一人がリロル支部長兼任である。感覚としては村への出張所を大きくした感じだね。商業ギルドはまだ様子見。まあ、小さいと商業ギルドの支部を作る必要性もないからね。


「お兄様が貴族になったことを実感しました。

 この生活に違和感を覚えていないようですし」

「……いやいやっ。何言ってんの、シルビア。どう見てもビビってるだろ、俺。こんな立派な屋敷が仮住まいだよ?

 普通に、人を雇わないとまともに掃除もできないだろ、これ。こんなのが普通なんて大変だよな」

「……昔から、お兄様はあまり自分の周りに頓着される方ではありませんでしたね。普通、こういった場合では挙動不審になったり、性格が変わったのかと思うほどの変貌を遂げる方が多いとか。

 極度の興奮どころか、いつもと変わらないお兄様ですわ」

「……そう言えば、私が貴族であることを告げても、貴族に任じられてもディグはあまり変わらないな」


 人を鈍感みたいに言うのは止めてほしいなぁ。別に、騒いでも変わらないと思えば、仕方ないってあきらめるでしょ、誰だって。

 俺の胸に釈然としない思いを残し、リステンに到着した日は暮れていく。どうやって事前に知らせたのかわからないけれど、俺らがリステンに今日着くことは伝わっていたらしく、数日間は来客にとても忙しかった。

 俺達が交易でいない間にも、着々と領地開拓の下地は作られている。ロル村に責任者として常駐するカーラムさんも奥様と一緒に挨拶に来たし、砦建設と防衛隊を率いる予定のボトラルさんとも何度も手合わせをした……なんでって?そりゃ俺が聞きたいよ。でも、ジーナも、ボトラルさんも、ダグもそれを変に思っていない。剣を交わせば相手がより理解できるんだって。わけわかんないね。それよりも、会話しようよ会話。

 村人代表だって人も数人来た。第一線からは退いた職人や独り立ちしたばかりの職人などで、村経営の中心になるような人物ばかり。普通の村人は、俺の手間を考えてわざわざ挨拶には来ない。貧民街出身を取りまとめている人は来たけど、それは今後の中心人物の一人だからだし。

 印象に残ったのは、今中心として各地で活躍しているような職人はおらず、数年、いや数十年先を見据えた人員っぽいなって。呟いたら、ジーナにそもそもの計画を数年前倒しだからなと言われた。あ、そうだったね。

 雪に埋もれるであろう冬の間の生活準備は万全で、特に食料面では問題ない。燻製肉はもとより、俺達が運んでくる前から小麦や乾燥野菜などは十分な量を確保していたらしい。薪も十分だ。どちらも最後には売りに出せるほどだ。それに、迷宮に入れば、少ないけれど食べられるものがドロップするから。

 問題なのは、俺達のスケジュール。ジーナに見せてもらったけれど、これはありえんだろ。


「去年は休む間もないほどの迷宮漬け。強くなったから今となっては感謝しているけれど、大変だったんだから……で・も・さ!この予定は何?」

「ごくごく普通の予定だぞ?春以降の開拓についての各種打ち合わせ。これには村人の内職視察、職人との場所や作成の優先度の折衝なども入っている。材料の確保、運搬スケジュールに、財政状況や今後の予算についてなども冬の間に済ませておきたい。冒険者や村人から兵士を希望している者もいるので、面接や適性判断もする必要がある。もちろん、将来的にはそれぞれの担当が主になって行うけれど、小規模な私たちは、全体を把握できるし、しておく必要がある。

 机仕事ばかりでは腕が鈍るから、週に一度は迷宮に潜るし、空き時間には訓練もする予定だ」

「……その結果が去年以上のハードスケジュール?」

「雪が融け次第、開拓を進めたい。夏前までに冬を越せるだけの住まいができ、一部でも城壁ができれば最高だな。

 来年はリロルで雪を見たいんだ」

「……それって、普通では考えられない開拓速度ではありませんか、お義姉さま。西部でも開拓は下準備に数年、開拓自体は5年はかかるとみられていたはず」

「良く知ってるね。開拓地ができてから5年は無税なのはそれが理由。ちなみに、開拓を始めてからは10年で、開拓地ができたとの判断は、ある程度の防御機能と複数の家屋、つまり、生活する人間が定住できる環境が整うことね。その辺りの判断は領主に任せられているけれど、ほぼ10年かかる大事業よ。この北の地でもね」

「それを、3年ほどで行おうと……想像以上にすごいですわ」

「怖気づいた?」

「いえ!楽しみになりました!」


 ジーナとシルビアが笑い合う。不敵で、素敵な笑顔だ。どこかしら、偉大なる辺境伯に重なる。

 ……えーっと、君たち?俺のこと忘れてない?こんなスケジュールが基本なの?当たり前?貴族ってもっとゆったりとした生活してると思ったんだけど?

 ねぇ、何か言ってよ!

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