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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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65/97

4-15

 山間を抜けると、一気に季節が変わった。秋の初めだった空気に、冬の木枯らしが混じり始めた。寒さが身に染みて、まだまだ休憩には早いけれど、全員一致で休憩とあいなった。

 少し歩けば、リロル地方の一番南西の砦予定地である空き地だ。ここも街道脇と同じように整地したんだが、うっすらと草が生えている。山を越えただけで荒野とは違って植生が豊かなことがわかる。


「あの道、もう少し周りの山を削るべきかもな」

「広くしたんだけどね。両側が崩れて来るんじゃないかと不安になるよね」

「そっちの安全性は気にしてなかった。それよりも、風が強すぎて」


 幌を外そうかと悩むくらいに風が強かった。帽子どころか首に巻いた襟巻すら飛びそうだった。この広場までくると風は治まったけれど、防寒着を出して皆が着ることにした。こっちで生活していれば問題ないんだろうけれど、まだ暖かい所から来たんで、芯まで凍えるように感じてしまうな。

 この山越え街道はほぼ南北に一直線になっているんだが、最初は本当に大変だった。小高い丘と山の中間だったときには上り下りが大変だっただったけれど、煉瓦をきり出して通りやすくしたところ、滅茶苦茶に風が強くなったんだ。狭い所を風が通ると強くなるってことを初めて知った。

 煉瓦が足りなかったこともあって、街道の地面部分はもちろん、左右の山でも簡単に削れる部分を煉瓦にして使った。一年かかったけど道も広がったし、街道も広くなった。ついでに、風も弱くなった。これでも、だ。

 でも、もっともーっと風を弱めないと、交易に支障が出かねない。それに、ここの南北には砦を作るのだ。北の地が魔物であふれた時、文字通り最後の砦になるモノを。ここまで風が強すぎると、迎撃のための弓矢が何の役にも立たなくなってしまう。その時には俺達はいないだろうけれど、領主たるものそこまで考えないと。


「砦を立てても風の流れは変わる。大分風は弱くなると思うよ」

「俺達の砦だってこれから一年はかかる。ここはその後になるだろ?その間にどれだけの商人が通るか。どれだけ不満が出るか。そう考えたら、もっと通りやすくしないと。

 この先3年でどれだけの商人がこちらのルートを選んでくれるかが、領地の発展にとって重要だってジーナが言ったんだろ」

「……そこまで考えてるならそうしようか。確かにここは通りにくい。

 それに、煉瓦も石材もいくらでも欲しい状況なのは間違ってない。可能であれば村を囲む柵だって一部でも煉瓦にできればと思うしね」


 魔物が跋扈すると思われている北の地だけれど、地域を守る砦と、立地を厳選していることもあって、村の安全性はそこまで低くない。それでも、一度は亡びている地域で、まだまだ復興してから時間が経っていない。だから、村々での安全に対する思いは強い。領民のためにも、積極的に近場の迷宮を攻略するだけではなく、防御力を上げていくことは重要なんだ。

 山を切り崩すのは大変だろうけれど、石工を大量動員してでもなんとかしてみせる。

 そう決意していると、もこもこに着ぶくれしたシルビアが馬車から降りてきた。足元が見えないので転がりそうになったところを、ダグが助けてくれた。おおーありがとう。


「ありがとうございます、ダグ様。

 お義姉さま、これで大丈夫でしょうか」

「ひざ掛け代わりの毛皮は入り口脇にあるのを使って。馬車の御者台に座っていると、足元から寒さがくるから気を付けないと」

「動きにくいかもしれないけれど、慣れないうちは厚着した方が良いよ。俺も最初はきつかった」

「ティグラスお兄様。話し方が乱れていますよ」


 えーん。シルビアにも指摘されたよ。身内だけだから見逃してよ。

 よその人といるときは緊張しているから話せるけれど、親しい間柄の人間しかいない時くらい気を抜かせてほしい。


「それとお兄様。あの道はお兄様が奇麗にされたんですよね。ここも」

「まあそうだよ。村からここを通ってそのまま北のリステンまで。リロルの中心街道……になる予定。今は運搬のための道だね。

 それ以外にもちょこちょこと要請されたからやってるけれど、基本はこの街道だね」

「あの山道もですよね……改めてお兄様の偉大さを理解しました。村の柵を直すのですら総出でかなり大変だったと聞いています。

 山を削るなんていったいどうやってと思いますね」

「あれ?言ってなかったか?煉瓦にしたら、自然と低くなったんだよ。

 『穴掘り』×6

 ほら、こうやって土を煉瓦にすると隙間ができるんだよ。手前からやると段差になっちゃうのに最初は気づかなくて苦労したなぁ」

「……魔術は偉大なのですね」

「通るのが自分達だけだったから問題なかったけれど、道として考えると段差は馬車が通れなくなるからね」


 話だけよりも実際に見せた方が理解は何倍も速い。だから、広場脇の草が少ない所を一つ煉瓦にして見せる。全方向から押し固めているので、出来上がったものは落ちている小石と同じく、ただ地面にあるだけ。だから、簡単に拾って見せる。それをまじまじと見て、シルビアからため息交じりに一言漏れた。

 シルビアの感嘆の声を聞くと、なんかすごいことをやった気分になるな……じっくり考えると、すごいことか。山を削って道を通すなんて、何十人、何百人がやる仕事だもんな。やった当人からすると、煉瓦が必要だって言われてたし、地面が土なんでやってみたらできちゃっただけなんだけど。

 でも、両隣の山は難しいんだよな。土の部分はほとんど煉瓦にしたから、残っているのはほぼ岩。何人もの石工を雇って石を切り出していかないと、広げようがない。さっきは絶対にやると言ったけれど、必要となるお金の工面だけでも何年かかることやら。報奨金なんかは村とそれを守る砦の建設、領地保護のための兵士の育成などで全て消えそうだし。でも、ここが通りやすいかどうかで、この先の俺の領地の発展具合は変わる。

 思考がさっき考えていた問題へと戻っていた俺の耳に、シルビアの不思議そうな声が届いた。


「圧縮して煉瓦にすると簡単に取れるのですね。これは、土だけでなく、岩から石を切り出すこともできるのですか?」

「……岩から?」

「……石を?」

「ええ、そう言いました」


 思わずジーナと顔を見合わせてしまった。

 『穴掘り』で岩に穴を掘るのはとても難しい。岩を掘り取る方が凹ませるよりも楽なんだけど、だいぶ慣れた俺だって、数十センチ角の穴が精々だ。土と違って硬いので、無理に押しても四角く成型は難しい。

 ……でも。でも、だ。六方を少しずつ押し、隙間を作り出せれば、岩から石材を切り出すことが……できるかもしれない!端っこは使い道があまりない小石になってしまうけれど、大きい塊の岩だったら運ぶにも使うにも一工夫がいることを考えれば、石材になっている方が何倍も良い。

 それに、俺が『穴掘り』で対応できるのが良い。使うのは俺の時間を魔力のみ。人員は運搬に回せる。沢山の石工を長期間拘束する必要もないし、人力でやるよりも何倍も、何十倍ものスピードで加工できる。

 練習は必要だけれど、これから始まる冬季のおかげで、自主練する時間はある。こいつはすごいぞ!


 ああ、シルビアを連れてきてよかった。

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