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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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4-11

 邪魔にならない位置に重ねられた野盗の死体を、穴の奥深くへと埋めながら村へと歩く道のりは、思ったよりも簡単だった。村人も、とりあえず数体を纏めていたので、慌ただしくなく魔術が使える。うーん、使い慣れてきたな。

 今回の『穴掘り』は通常のやつ。ちょっとだけ耕すに近く、草以外を掘り上げるんじゃなくて、地面の上にある死対以外を三メートルほど真上に飛ばすのだ。狭ければそれほどでもないけれど、今回みたいに広く、そこそこ離れていて、しかも歩きながらってのは訓練に丁度良かった。土煙が舞わないように弱めの『風塊』と、盛り上がった土を固めるための『穴掘り』固めるバージョンを、流れるようなコンビネーションで繰り出すことも良い練習になり、村のそばのやつは、最初のよりも体感で一割ほど消費魔力と時間が減った。


 うん。俺、大満足。


 十回程度での改良としてはこれ以上は望めない。今までの修練の蓄積があるとはいえ、望外の結果だ。ついつい、顔がほころぶ。調子に乗って、手つかずになっていた畑予定地に関して、あぜ道予定の場所まで耕してしまった。うん。俺、大反省。

 村長たちは、畑が予定より広がったと笑っていたが、村の皆で決めた計画を大きく崩してしまったのだ。区割りやらなにやら面倒な作業がまたあるはずだ。今後は俺もそちらの立場。勝手なことをして迷惑をかけたことは改めて謝った。

 この辺りの土地は思いのほか畑作に向いているらしい。大きな石も木もなく、何年もかけて育った草原が元だ。農作物が育つ下地はあった。耕すにも、村を広げるにも人手が足りなかったらしく、堀が広がった今は村人皆が積極的に作業しているんだとか。

 野盗や魔物を警戒して、去年建てた柵を補強し、矢避けの壁や外に罠を仕掛け、遠距離攻撃ができる狩人などを育てた。それがあったからこそ、今回の襲撃に無傷で済んだそうな。

 うーん。先達の経験談はためになるな。

 そんなこんなで安全で人気がない道を皆で歩き、内堀――元、村の堀――を超えたら三々五々と解散である。家が近い者から別れていった。戦利品の分配は、ある程度済んでいる。金については戦いに参加した全員で等しく分けてある。物品と報奨金については、村預かりとして、金は来年の家建設に当て、戦利品は不足している家を中心に配るのだとか。

 どう分けても不満は出る。そこをうまい具合に采配するのが上に立つ者の一番の仕事だとガタイの良い老人がドヤ顔で言う。為になるけど、その顔やめて。


 村の北部に俺達用の土地を確保してはあるけれど、そこはまだただの荒野。大工の手配もしたばかりで、春には木材の搬入、建て始めるのは夏近くなるだろう。その地で野営しても良いんだけど、実家が近くにあるからそこでお世話になる。まあ、俺とダグが寝るのは外でテントだけど、それまでは屋内だ。夜になると感じる肌寒い風も気にならない。

 とても快適……なはずなんだが、なんでこんな状況に?

 困惑して父と母、兄達に顔を巡らせると、微妙に目を逸らされる。


「それでそれで、ジーナお義姉さま。北の地はそんなに冬が厳しいのですか?木よりも高く雪が積もるなんて」

「ああ。だから、こちらのような家では凍え死んでしまう。もっと壁は厚く、石や土も使う。煉瓦造りの家もあるぞ。納屋や燻製小屋すら丈夫にしないと、春の仕事が増えるから大変なんだ」

「……大変なのですね」

「皆、あの地を愛している。好きだから頑張れるのだ。

 北では快適な時間は短い。だから、冬の間にできることをして、計画を立てておく。雪が融けたら目一杯働く。そうやって生きてきた。これまでも、これからも。

 人はこちらよりも少ないが、活気では負けていないぞ」

「楽しみです!

 私は兄さまみたいに素質とかはありませんでしたが、『乾燥』は使えるようになったんですよ。魔力量も少なくないとのことなので、冬場の洗濯でしたら大活躍して見せます!」

「そうか!『乾燥』が使えるか!

 うーん。シルビアはいい子だなぁ……」

「……」


 えーっと、二人して無言でこちらを見ないでください。

 父上、移住はしないのではなかったでしょうか。母上、大人しかったシルビアがどうしたのですか。兄上達……まあ良いか。去年は恐る恐るの付き合いだったジーナと妹のシルビアだけど、先日の短期間の滞在で意気投合したらしく、どこからか移住を誘われたことも聞きつけていて、この小芝居。

 別に連れていくのに異論はない。両親とは離れ離れになるけれど、それは俺も同じ。年齢だけで言えば、成人している。『乾燥』が使えるのだし、まだまだ若いから、今から一族の一員として教育しても良いし、本人が貴族になりたくなければ侍女として教育するのもかまわないとジーナの言。

 ほかの家族は微妙な表情だけれど、本人が一緒に行きたいと言うからと納得している。子と離れ離れになるのは俺で経験しているし、仕方ないと思っているんだろう。こんな田舎だ。嫁に行った先が隣村なら、顔を合わせるのも十年ぶりなんてのも珍しくない。兄である俺の領地で、俺の下に居て、頻繁に交易が計画されているので現状を聞くことすらできる……かもしれない。それなりに好条件の巣立ち先だ。

 ここ数年離れていたから甘えんぼで引っ込み思案な印象しかない妹だけど、皆の話ではそれなりに要領も良く、頭も悪くない。本人曰く、贅沢ができるとか貴族になるとかではなく、畑を耕す生活ではなく、自分の力を試したいと思っての判断だとか。マナー教育や勉強のつらさ、生活環境の過酷さを知った上での話だ。きちんと考えてついてくることを望むなら別にそれで構わない。

 ……本音を言うと、嬉しいよ、そりゃ。だって、父さんも母さんも、両兄もここを離れないって言うし、知らない人と初めてやることに囲まれた、責任ある生活ってのに四苦八苦しているんだ。今回の旅も、冬場の迷宮も、色々と煮詰まる俺を重圧から開放するための一面も持っている……はず。


「一緒に来るか?」

「うん!ありがとう兄さま」

「でも良いのか?

 北に来るなら、曲がりなりにも領主の一族として扱われる。父さんとも母さんとも、兄さん達とも気軽に会えることはないし、今までのように気安く話だってできない。周りはみんな知らない人ばかりだし、気候も生活も何もかも違う。勉強だって大変だ」

「それでも行きたいの!

 私も畑仕事は嫌いじゃない。でも、もっと色々やってみたいの!ここだけじゃなく、もっともーっと色んな所へ行ってみたいの!」

「……みんなはそれで良いの?」

「シルビアが決めたことだ。なら、それを尊重する。

 お前には迷惑をかけるが」

「妹のことだから迷惑なんて思わないよ。

 ……はぁ。よし!じゃあ、シルビア。お前が一緒に来るなら、まずは防寒着だな。向こうは寒いぞ」

「一式用意してあるよ」

「……頼りになる奥さんだな」


 全部、ジーナの掌の上。まあ、それでも良いか。

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