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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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4-10

「おっ、剥ぎ取りは終わったな。おーい!確認のために首も切ったし、森に捨てに行くぞ。

 あまり浅いと街道が危なくなるから、それなりの奥じゃないとな。装備は良いか?」

「あ、父さん。街道から少し避けてくれれば埋めるよ?」

「埋める……?ああ、そうか。お前土魔術が使えるんだものな」

「穴掘るくらいしかできないけどね」


 獣や魔物が寄ってくると困るから森に捨てる予定だった死体は、深く埋められるならそちらの方が好ましい処理方法だ。俺の『穴掘り』の正当な活用方法と言える。

 まあ、基本的な使い方を自分自身すっかり忘れてたけど。最近は、道作ったり、煉瓦作ったり、畑耕したりしてたからなぁ。

 今回は、普通に穴を掘る。土類を横に飛ばすタイプの『穴掘り』で、横ではなく上に飛ばす。ある意味、畑耕しの応用だ。深めで広めにすれば、一発で埋められるだろう。後でほじくられる可能性もない。

 俺の言葉を聞いた父は、より一層俺の頭を撫でまわしながら笑う。


「魔術一つで数人の数時間分の仕事をするんだ。それくらいなんて言うな。誰でもできるようなことじゃあない。

 お前は、自慢の息子だよ」

「……。

 普通ならお金とるんだけど、今回は俺達も当事者だから無料でやるよっ」

「ははっ。一丁前に」


 成人したのに親に褒められると、居心地が悪い。にやけそうになる顔を引き締めてタダでやると伝えても、温かいまなざしは変わらなかった。

 魔術を安く使わない。それは、魔術学院で習うことだ。だから、俺が堀掃除でサービスで長めにやっていたのはあまり褒められたことじゃない。まあ、誰もやりたがらないことで、かつ、十人分の料金を貰っていたから問題にされなかったのだ。領主様の依頼だったしね。

 だから、自分のことじゃなければ、最低限でも料金を取ることが必要になる。村人からしたら、労役に換算される手伝いがなくなるわけだし、村のお金は消費するしで嫌がられる可能性もある。他のキツイ労役に比べると森に死体を運ぶだけの方が簡単で良いってやつもいるんだ。普通なら森の危険性を考えて喜ぶんだけどな。

 でも、今の村は人手がどこでも足りない。色々広くなったので、通常の見回りや共有畑の作業だけで十二分に一年間の規定労役を超えるって話だ。今までと比べれば村にも金があるし、しなくて済む作業ならしてもらえれば嬉しいわけだ。

 だから、戦闘に参加した俺が、その後始末として死体を埋める。これなら、特に誰も損をしない。得ばかりだ。俺だって、『穴掘り』の練習になる。誰の土地でもないからって勝手に穴を掘る訳にはいかないので、ちょっと練習場所に困ってたんだよね。


『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』


「ティグルス様。本当に、戦利品や報奨金は不要なのですか?」

「……そんちょ~。その口調止めて」

「今はよろしくても、この先はそれは通用しないでしょう。砦と村が完成すれば領主です。誰にも否定されない、立派な貴族となります」

「一応、今も貴族だけどね」

「なら、慣れてください。

 ま、かしこまったのは嫌いだから、今みたいな身内だけの時はまああれだがな」

「俺の心の健康とためにも、そうして。末端でも貴族だって知られると、周りの態度が変わってきついんだよね。俺は何も変わってないのに。

 で、話し戻して、報奨金とか不要だから。村の整備に使ってよ。ここの発展が、この先の俺の領地に影響するんだから」


 食料に乏しくなりがちな北の地。さらに辺境。そんなリロル地方にとって、西部辺境であっても農村との直接のつながりは重要。特に、ここは食糧庫として畑や堀を整備したんだから、順調に発展してもらわないと。獣や魔物。ましてや、野盗なんかに荒らされてほしくない。むしろ、それを利用して発展してくれ。

 それに、戦利品と言っても、ここでの価値と、俺達にとっての価値は全然違う。ぼろい服でも錆びた剣でも、ありとあらゆる物を使い潰すまで活用する貧乏な辺境にはあれば嬉しい。でも、贅沢はできなくても、迷宮で稼ぎ、報奨金と併せて開拓をしている領主もどきにとっては運ぶ労力に見合わない物でしかない。まあ、寒い北方でぼろい服なんてマジで意味ないし、製鉄の本場でぼろい鉄剣やナイフは使い道が限られるのだ。運搬価値の比較対象は、北部で不足する食料。圧倒的に戦利品が不利である。

 農地が広くなってだいぶ生活に余裕ができてきた故郷の人々だけど、流通も贅沢もまだまだ遠い話。今のところは、腹一杯に食べられることができるようになった程度の変化だ。たとえわずかでも、金も鉄もその他もろもろもあればあるだけありがたいはずだ。

 あ、そうだ。


「そうそう村長。報奨金代わりに一つお願いが」

「おうよ!村の救世主のお願いだ。できることなら請け負うぞ」

「……しっかりしてるね」

「できないことはできないからな。

 最近新しく増えた村人の中には生活魔術のどれかを使える者もいて、村としてできることは増えた。野盗の首だって『乾燥』で腐らせずに運べる。それこそ、お前の力を借りなくても堀の掃除が手軽にできるくらいには発展してる。

 だが、相変わらず手が足りん。大工の工面をしていただけるって話は本当に助かってる。今回のこれも、人手が必要な後始末に頭を抱えていたほどだ」

「いやまあ、それはわかるけどさ。……で、俺がお願いしたいのは、魔術の練習がしたいから場所を貸してほしいんだ。鍛錬は欠かしたくない」

魔術の練習・・・・・ね……場所は広い方が良いか?」

「できるだけ広く、他人の邪魔にならない場所が良いね」

「畑じゃなければ問題ないが……この道沿いは止めてくれ。防衛壁が使いづらくなると困る。

 昨年決めた畑などの区割りは覚えているかい?空いている場所なら自由に使って貰って構わないぞ。畑の隣・・・でも、な」

「ありがとう。じゃあ、分け前代わりに使わせてもらうよ」


 村長は俺の言いたいことをわかってくれてる。

 俺は『穴掘り』の訓練になり、村は報奨金を渡さなくてよくて、手を付けられていない畑予定地をタダで耕せる。俺の方がかなり不利に思えるけれど、最近じゃ耕す『穴掘り』については練習場所にも困っているほどだ。ついでにちょっと試したい、新規の『穴掘り』もある。気兼ねなく自由に使える場所を提供してもらえるのは助かる。

 それに、俺が耕せば耕すほど、俺の家族は色々と便宜を図って貰えるみたいだし。便宜って言っても、こんな田舎だ。割り振られる畑の場所が使いやすいとか、行商人が来た時の買い物の順番が早いとか、そんなもんだ。

 でも、簡単なものだが、馬鹿にはできない。長い目で見ると、とても生活しやすくなるんだとか。みんなも、自分で拓かなくても畑が増えたし、生活がかなり楽になったんで、その辺りの優遇は気にしない……どころか、もっともっとと言うそうな。次に俺が来た時のことを考えてるんだろうな。

 機嫌が良い父さんと一緒に実家に向かいながら今の村の話を聞く。知らない名前が時々出てくる。そんな部分で故郷の発展と変化を実感した。

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