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「おーい!怪我とかなかったかー!」
「大丈夫だよー!村長、そっちは?」
「ん?逃げるときにすっ転んで擦り傷作ったやつが一人。ほら、パロのやつだ。
ここに作った土壁のおかげで、他に怪我人はいないな。運の悪いヤギが一頭死んだだけだ」
「……はぁ~よかったぁ。心配したんだよ。丘に登ったら襲撃されているのが見えたし、二人はのんきだし」
「ははっ。死者が出たり、危険に感じてたらもっと切羽詰まった雰囲気になるさ。じっくりと反撃の準備をしていたようだから大丈夫だってわかったんだよ」
「昨年から狩人も見習いを増やしていたし、そもそも野盗は噂になっとった。ここんとこ狩りに出るのは一組だけで、残りの二組は警戒させてたんだ。村の人達にも注意してな。
今度の春には兵士も来てくれるようになるから、そしたら万全だぞ」
ガタイが良いじいさまのドヤ顔は見てても別に楽しくないぞ。
でもよかった。家族もいる大切な生まれ故郷。そこが野盗に蹂躙されるだなんて考えたくもない。今後の交易を考えてここの領主様も街道沿いに騎士団を巡回させたり、いくつかの村には兵士中心の部隊を常駐させたりと防衛の計画を立ててるんだって。
もちろん、リロルの出張所があるこの村は最優先。さらに、ジーナはうちからも精鋭を、商売の勉強と責任者の護衛を兼ねて常駐させるんだって。……人使いが荒いね。文武両方を経験させるなんて。
「そう言えば、こっちの責任者って決めたんだっけ?砦の方の責任者も」
「どちらも候補とこの冬に面談できるよう取り計らっているよ。二人とも身内、辺境伯一門の人間さ」
「へぇ~。貴族?」
「子爵家の三男と男爵家の四男だね。こっちに置くのがクーラム子爵家の三男。名前はカーラムで商家の長女を嫁に取って辺境伯家の交易部門で働いてる。
砦の建設と防衛の責任者がホール男爵家の四男。若くして騎士に任命された男だ。昔は小遣い稼ぎに冒険者もやっていたと聞く。
もちろん、どちらも経験豊富な専門家を補佐につけるさ」
「俺と同じく、お飾り?」
「ははっ。違う違う。君もそうだけれど、クーラム子爵家もホール男爵家も重要な土地を任されている割には地位が低くてね。もう少し強化したいとのお祖母様の判断さ。
もちろん、能力的にもきちんとしているよ」
あとで教わったけれど、両貴族家はいくつかの大規模領地――特に、有名な迷宮がある領地――に接していて、山によっていろいろと遮られる北の地においては、かなり重要な交通の要衝だった。ただ、開発可能範囲が狭く、付近の迷宮は破壊済みなので発展の余地が少ないのが問題のようだ。リロルからそれほど遠くないため、今後うちの領地が発展するに伴い、さらに重要度が増すけれど、防衛力の点ではちょっと疑問符がつく、なんとも言えない領地。
ここが魔物に落とされたら影響がデカいので、人的資源の価値を高めるのは大賛成。うちはいざとなったら南方――西部地域――と協力できるけれど、北方の人類拠点は順々に壊滅する未来しか見えないし。
それよりも、今まで穏やかだった西部辺境が、色んな意味で賑やかになった。良い面が多いけれど、今回みたいなこともある。領主が対応をしてくれているみたいだけれど、何かあった際に被害を真っ先に受けるのはそこに住む人々。つまりは、俺の身内や知人。どうにかできないかと思うけれど……。
ジーナを見ても、軽く首を左右に振るだけ。うん、わかってる。
端の端であっても貴族になった、なってしまった俺には、ここに手出しをする理由がほぼない。故郷と交易を理由に街道や堀の大整備をしたんだからこれ以上は難しい。あ、畑もやってるな。
そんなことをグダグダ考えていたからだろう、村長と父が代わる代わる俺の頭を撫でた。
「今までも、俺達はこの村を全力で作り、守ってきた。心配せずとも大丈夫だ」
「お前が作った堀もある。柵も強化したし、見ただろ?迎撃用の遮蔽物もあるんだ。皆も協力してくれている。
今後は領兵もここに住むってこったし、安心しろや。母さんもウルフェン達もなんの問題もない」
「……村が大きくなったから心配なんてしてないさ」
お前も変わらないなと父親に笑われた。
今日は泊まっていくのだろうと言われたのでジーナを見ると、お世話になりますと頭を下げた。うーん。貴族って頭を簡単には下げないイメージがあったんだけど、もしかしたらうちの親に言ってないのかな?話したつもりだったんだが。
野盗の始末が済み、質はよろしくないが鎧や剣などの戦利品をもって村へと戻る。今回の交易で十分儲けたのと恩を売る意味で、野盗からの戦利品と報奨金(あれば)は村に渡す予定だ。ジーナの意向だ。
まあ、大して被害がなかったとは言え、迎撃の準備やらなにやらの支出が村には圧し掛かる。矢は消耗品だし、柵や堀の補修、野盗の死体処理や首の運搬だって人手がかかる。まあ、死体は野生動物が処理してくれんだけど、森の入り口付近に運ばないと街道に居座られたら困るからやっぱり人手が必要だ。
収穫も間近だったから収穫祭、納税や越冬の支度など、こまごまとした仕事がこの時期はある。それを放り出して撃退から後処理までするのだからみんな大変なのだ。いくばくかでも金で補填できればとても助かる訳だ。
「お前も色々と配慮できるようになったな……大人になったんだなぁ」
「いやいや。成人してるからね。
それに、決めたのはジーナだよ」
「それを受け入れたのはお前だろ、ティグラス。外の世界を経験したお前は、俺よりもずっと大人なんだ。俺はこの村しかわからん。上の二人もそうだ」
「それは、以前ご相談した件でしょうか」
「ええ、ジーナ様。俺達は田舎の村人です。土と共に生き、畑を耕すことしかできません。サラと俺だけじゃなく、ウルフェンもサンバートもです」
「兄さん達もって、何の話?」
「去年お前らが来た時にジーナ様から北へ移住しないかって話があったんだよ。なので、話し方とかも勉強してみたんだが、やっぱり街での生活は性に合わんし、ここから離れたいとも思わんし、それは妻も息子たちも同じだったよ。
お前にゃ悪いが俺達はこれからもこの村で生きていくさ」
「……別に良いよ。どうりで変なしゃべり方をしてると思った」
「おいおい。親の努力を笑うな、孝行息子が」
「止めてくれよぉ」
髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。
なんか嬉しかった。




