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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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4-8

「こいつのような数合わせが死んでもまだ腹心の部下たちが残っている。お前程度の腕で多数相手に女を守れるとは思わないことだ」

「どこにいるんだ。そんな部下が」


 まだ事態が理解できていない野盗の頭に向かって、馬鹿にした口調で煽る。まだまだ修行が足りない俺にだって理解できる彼我の実力差が判らないなんて……「弱いのに慢心しているからわからないんだよ」ああそうですか。

 人数差に安心しているんだろうけれど、この村を攻め始めた時からするとさっきまでで半減、今は彼一人しかいないのに。

 いつまで経っても後ろから仲間がやってこないことを不思議に思った馬鹿が、俺の目の前なのに後ろを振り返る。

 ……えっと……こっちが早さが身上ってわかってるんだよね?近場で目を離したら殺されるぞ?状況を見て凍ってるし。


「な、なんだ?」

「見りゃわかるだろ。お前の仲間なんてもういやしない」

「いっいつの間に回り込んだ!」

「俺達は丘から来たんだぞ?お前らがこっちに気づくよりも先に村を襲っている野盗がいることなんてわかるだろ。見えてんだから。

 だから、回り込ませたんだよ。必要なかったみたいだけど」

「なっなんの音も」

「当たり前だろ。俺の何倍も強いんだぜ?素で野盗の十や二十は倒せるさ。ましてや転がってりゃほとんど音を立てずに殺せる」

「……ちっ。護衛は一人だと思ったんだが、他に居やがるとは。

 行商人にしてはでかい馬車だと思ったんだ」

「護衛が一人ってのは間違ってない。

 ……目の前の状況から推測もしない奴はすぐにいなくなるってのは本当だな。お前は、冒険者としても最低ランクすら無理だろ」

「言ってろ!

 ……まあいい。複数護衛がいようが、今目の前にいるのはお前だけだ。順に殺せばいい」

「人の話はきちんと聞けよ。そもそも護衛はあいつ一人。これでも一応守られる立場なんだぜ?」

「はっ。それなら好都合だ。行商人風情が粋がりやがって。弱い奴ほどよく吠える!

 とっとと殺してやるよ」

「お前をな」


 剣を振り上げつつこちらを威嚇する馬鹿頭。正面から近づいた時に振り下ろされるその剣は、さすがに受けられそうもない。身体の大きさもあって、俺の倍くらいの間合いだ。

 何度か仕掛けるフェイントをかけると、面白いように反応する。うーん。戦いに慣れた野盗じゃなく、いきがったゴロツキ程度かな。これじゃ訓練にもなりゃしない。

 前に踏み込まず、右に一歩『風塊』!


「がっ。ひっひきょっ」


 あいつが何を言いたかったのかは、もう永遠にわからない。

 右に一歩動いた俺につられて左に意識を持って行ったところで、本人の右側から風の塊が脇腹へ。呻き、体勢を崩したので喉を突き刺して終了だ。それでも気を抜かず、周りを見回す。……特に動く者はいない。

 気の抜けた声が背中にかかる。


「おつかれー」

「……正直、迷宮のゴブリンの方が怖いな。全身全霊でこっちを殺しに来る」

「迷宮の魔物は人間を殺すためにいるからね。低ランクだとがむしゃらに襲ってくるけれど、上に行くと連携取ったりフェイントや騙したりと人間以上に策を弄することもある。油断はできないね。

 でも人間も甘く見ない方が良いね。狡猾でなりふり構わなさでは迷宮の魔物よりもひどい」

「規模の割には強い野盗って気はしなかったけれど」

「ま、今の奴らはね。

 近くの街のゴロツキが、街に居られなくなって集団で野盗になったんじゃないかな?鍛錬もしてなければ、集団戦の訓練もしてない。ただ数がいただけだね」

「それにしても弱すぎない?」

「君が強くなったんだよ。桁違いにね」


 冗談はよせよ。そう言おうとして、ジーナが真面目な顔をしているのが見えた。緊張した空気に助けを求めるかの如く辺りを見回しても、遠くの村人達はこちらが問題ないのを見て取ったのか、襲撃の後処理をしている。近くでもダグが倒した野盗のみぐるみをはぎ、街道脇へと寄せているだけだった。

 沈黙に耐えかね、口を開く。


「本当に?」

「ああ。本当に。

 言っただろ?迷宮で戦うことで強くなると。それもあって、冒険者ギルドは入場制限をしている。

 ディグ。君は強くなったんだよ。非常にね」

「……でも、ダグにも、ジーナにも手も足も出ないけれど」

「それ以上に私達が強いだけだよ。

 ほら、思い出して。リロルで作業しているとき。古参の『早春の誓い』や『春の足音』のメンバーと新人の『魔人の左手』じゃ力も作業速度も倍以上の差があったでしょ?」

「そりゃ慣れてるからじゃ……よくよく考えるとおかしいな。確かに」

「以前話したけれど、迷宮で戦い続ければ強くなる。君は、まだまだ新人だけど、普通じゃありえない頻度で迷宮に入り続けていただろ?今じゃ中級レベルの強さになっているはずさ」

「もちろん、技術が伴わないから基礎的な能力が高いってだけだがな」

「お疲れダグ。活躍する隙がなかったね」

「ま、西の野盗なんてこんなもんだろ。兵士や傭兵崩れが混じる東や南に比べると練度は知れたもんだ。住民からすると助かるけどな。

 護衛が活躍するような場面なんてないに越したことはない」


 なんてことないとダグは言うが、俺じゃ音も立てずにあれだけの数の野盗を殺せない。転がっていたとはいえ、生きていたんだ。一人殺すどころか、剣を持って近づくだけで普通なら騒ぐ。それを無音でやってのけたんだから、ダグの力量が桁違いに上がっている証左だ。


「ほらほら。

 いつまで経ってもここにいたら、村の人達も不安がるよ。とっとと片付けて行こう」

「日程的には余裕を見てるけど、この先も何があるかわからないからな」

「まったく。野盗なんて面倒なだけだよな」

「そうだね。この辺りでの被害は聞いてないからアジトに戦利品がってこともないし」

「……そもそも被害がなかったことを喜ぶべきでは?」

「……ああ、確かにそうだね。

 自分の領地ではないからどうしても他人事に感じてしまうね。悪い癖だ」


 貴族ってのは因果なもんだな。自分の領地を最優先するからこそできることがある分、他の土地への配慮ってのが足りない。……ん?よく考えたら、農民だって、冒険者だってそうだよな。自分に関係なきゃあんまり他所のことを気にしたことないもんな。

 実際は、貴族の方が周りのことを気にするのかも。

 その辺りも勉強していかないと。うーん。ちょっと面倒になってきたよ。今更止めるとは言えないけどさ。

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