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最初は怒り。ただ野盗を全滅させることしか頭になかった。
しかし、相対して、冷静になって見てみると奴らは人数だけで、大した相手ではないことがわかる。
村を攻めたときに死んだのか、弓持ちも少なく、馬もいない。ただ人数だけは十分なだけいるが、待ち伏せするのならともかく、馬車を襲うのに遠距離攻撃がないってのはダメじゃないか?
つーか、それなりに距離があるのに、集団で走り寄って来るって何考えてるんだ?上り坂だし、こっちは馬がいるんだぞ。行商人と判断して侮ってるのか。この状況で受けて立とうって雰囲気の人間がただの行商人?ありえないだろ。野盗って言うよりも、ただの馬鹿集団だぞこれじゃ。
「さて。このまま待っていても体力を消耗した馬鹿と戦うだけなんだが、人数差があるから面倒なのは確かだ。そこで、君の出番だ。
弓の射程距離には入ったけれど、そろそろ君の魔術の範囲にも入ったかな?」
「もう大丈夫だよ。頑張ったからこれくらいの距離ならね。
ジーナは落ち着いてるね」
「負ける要素がないからな。程度の低さに君も気づいただろう?全員を近づかせなければ、万が一すら起こらないよ。
さて、そろそろお願いしようかな。ここまで引き付ければ、どうやっても逃がさずに済む」
「そうだね。じゃあやります!」
無詠唱で『穴掘り』!
野盗集団の中心地点に小さく穴を掘る。それにしても、走りやすいからって、街道を集団で武器持ったまま走るのは危ないよな。
後続が転がって叫んだことで意識が散漫になった先頭集団の足元にもタイミングをずらして『穴掘り』!面白いくらいに転ぶ。あーあ。踏まれてら。
……ぱっと見半減?打ち所が悪く起き上がらない奴もいれば、仲間に踏まれたのか武器を持ったまま転がり呻く不運な奴も。それを見て練度が低いとジーナが嘲笑う。総合的に見て、冒険者として考えれば精々Fランクだな。全員合わせても、ダグの足元にも及びそうもない。
この状況だと待ってても話が進まないから歩みを進める。馬車とは十分に距離ができたので、万が一にも傷つけられることはないだろうから安心だ。それに、野盗はあたふたと戸惑うばかりで、転がった付近からこちらに来ようとしていない。
ジーナは近づかせないって方針だったけど、俺がやる気なのを見て多対一の良い訓練だとばかりに一歩下がってくれている。魔術の準備もしているみたいだし、俺は気にせずに残った野盗を観察するも、強そうな気配はないので、逆に気を抜かないように自らを戒める必要があるほどだ。
無詠唱ってのは一般的ではないから、一体何が起こったのかすらわかってないのかも。
もう彼我の表情が判るほどの距離。混乱から覚めたリーダーが一喝して、転がったままのやつを放ってこちらへと向く。少し広がりながらやってきて、半包囲体勢……六人だけじゃねぇか!あと三人起きているけれど、足引きずってるから戦力外。
「へへっ。俺達に目を付けられたのが運の尽き。有り金全部寄こせや!」
「もちろん、荷物もな!」
「けっ。たった二人で何ができる。こっちにゃ……まだ六人いるんだぜ」
「……おっ、女がいるじゃねぇか。ラッキーだな」
聞いているだけで頭の質が類推できる。商都ロンドリアにいた冒険者もガラが悪いと思ったけど、それよりも数倍はバカみたいだ。こんなんじゃ、冒険者にも兵士にもなれそうもないな。
今も、仲間が突然転がったのに魔術を疑わず、無警戒でこちらを囲むなんて。人数的にも半包囲が精々だし、これじゃ倒してくれって言ってるようなもんだぞ。
それでも、それなりに戦い慣れているのか、こちらの間合いよりも幾分遠くでこちらを覗っている。剣を構えているのは5人。少し後ろにいるリーダー格は剣を腰にぶら下げたまま、鋭い目でこちらを見ている。ま、無駄に口を動かしている時点で隙だらけなんだけど。
「ふむ。頭領だけは比較的まともな頭があるようだな。一足飛びで攻撃されない場所にいる」
「それに、仲間の身体を盾にするような位置取りだよ。まともと言うよりも、姑息って言うんじゃないかな?」
「どうせ盾にすらならないようなクズどもだ。使い潰すのが正しいやり方だよ」
「「「「ふざけんな!」」」」
こちらの軽口に乗せられるのがダメな証拠。戦いにおいて我を忘れるのは失策だよ……え?さっきの俺?記憶にございませんな。
一気に間合いを詰めようとした五人の足元に、小さく穴を掘る。別に深い必要はない。あると思った場所に足が着くと無意識で認識して身体を動かす。これは、人間だろうと動物だろうと、魔物だろうと同じ。だから、拳一つ分でも差が出ればそれだけで体勢を崩す。これが、俺の戦い方だ。
五つ一気に掘るのは大変だけど、半包囲で見える範囲に居てくれること、そもそも街道だから地面が見やすい事、タイミングがわかりやすかったのもあり、問題なく対処できる。
「「「「「うぉっ?!」」」」」
「そこで武器を手放すなよ!」
万が一がないように、向かって左に踏み込む。一番端の喉を斬り、そのままの勢いで次の首を半ばまで。剣を引き抜きながら、真ん中のやつはリーダー格へと蹴り飛ばす。
よし!これで2対1。
長剣を持つにはまだ体がそれほど大きくない(小さいんじゃないぞ!)ので、小剣と足して二で割ったサイズの剣を使ってるんだが、その分半歩相手の間合いに入らないと届かない。でも、こうやって相手を崩していれば問題ないのさ。
リーダー格の姿を視界に収めつつ、転がって武器を手放した二人組の喉を順に突く。二人目はちょっと浅くなったけれど、ちょっと強めにもう一度……よし。数本の指が飛び、血をまき散らしながら倒れ伏す野盗。これで、後二人。
そちらを見ると、大男は不敵な笑みを浮かべたままだった。
まとわりついていた部下を後方へと押しやり、こちらが他の部下を倒すところを観察してるなんて……自分の実力に自信があるのか?
さすがに俺は相手の実力を見た目で判断できるほどの経験も技術もない。こいつがただのバカだったら良いんだけど。
「余裕そうだな」
「ふんっ。お前の戦い方は見させてもらった。何か小細工をしてあいつらを転ばせたみたいだが……どっしりと構えた俺には効かん!
喉を狙っているところを見ると、小柄で威力がなく早さが売りと見た。護衛としてはそれなりの強さかもしれんが、たった一人ではどうにもなるまい」
そう言いながら、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。
「死ぬがいい」




