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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
4章

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4-7

「さ、食事にでもしようか。さすがに、火を熾している暇はなさそうだから干し肉とパンの簡単なものだけど」

「ちょっまっ」

「ほらほら、ディグ。何よりも君がきちんと食べないと」

「そうだぞ。お前が一番大変になるんだ。干し肉ぐらいかじっとけ」


 村にはまだ距離があるが、丘の上から一望できる。そろそろ刈り取りの季節が到来する。辺り一面が麦の黄金に彩られる、一年で一番楽しい季節。

 ……そのはずなのだが、村の周辺に、不自然な人影が多数。遠目にも、武器を持っていることがまるわかりだ。野盗、盗賊、ならず者。呼び名は何でも構わないが、その類の輩が故郷の村を襲っているのだ。


「ジーナ!ダグ!」

「だから落ち着け。よく見ろ!村にたいした被害はない。倒れている人もいないだろ!」

「そうだよ。君が作った堀なんだ。自信を持ちたまえ」

「えっ?」

「奴らが持っている武器はここからでも見えるだろう?弓を持っているのはいない。倒れている何人かが弓使いだったんだろうな」

「村長はなかなかな戦術家だね。常に数名の猟師が村に残る形にしていたし、弓持ちを早々に倒した。入り口の橋も必要な時にだけ下げていたみたいだ。あれだけの堀と柵があれば、そう簡単には村に入れないよ」

「ほら。今もあの位置で猟師の一人が狙ってる。柵もかなり頑丈に補強してあるから、それに手間取っているうちに、ほら」

「あっ」


 柵を倒そうとしていた男が、もんどりうって堀の中へと消えていった。今のところ大丈夫そうだ。でも、倒せた数は少ないだろう。なにせ、猟師一人じゃ手が足りない。相手が諦めるのを待つ作戦かと思ったけれど、それは違うとジーナは言う。

 彼女が指さした先、村の中心部から槍や弓などを持った村人がたくさん出てきた。人数としては、残っている襲撃者の倍以上。それでも、日頃から対人戦など経験していない素人集団。怪我でもしたら生活にも支障が出るだろう。

 大切な故郷が盗賊に蹂躙される。その幻影を見て、ディグの胸に炎が灯った。武装を再確認し、馬に乗って駆け下り……られなかった。


「何するんだよ、ジーナ」

「話は最後まで聞き給え。それに、その馬では今から駆け下りるには遅すぎるだろ。荷台が邪魔だ」

「ならっ」

「だから、最後まで聞け、ディグ。俺が行く」

「あっ、おい!」

「ディグ。私たちは囮として少しだけ早く馬車を走らせて村に向かう。護衛のいない行商人の馬車が二台。不審に思っていてもこの状況だ。すぐに食いついてくる」

「囮……。

 そうか!こっちに向かってきたところをダグが横から攻めるんだな」

「もちろん私も魔術も使うが、君の魔術にも期待している。人は、足元が少し崩れただけで怪我をする生き物だ。ましてや、走っていればね。君の魔術もかなり距離が伸びてきたから、タイミング練習に良いと割り切るんだ」

「俺達危なくないか?人数差がすごいぞ」

「ははっ。冗談が上手いな。

 私はCランク。ダグはEで君はFだが、どちらも戦闘能力ならそこに収まらない。それだけ迷宮で鍛えてある。あの村を攻め落とせないレベルの野盗に負けることはないよ」

「でも、複数にまとめてかかられたら……」

「それをさせないのが強ささ。それに私もいる。魔術師相手に人数を集めただけでは意味がないことを教えてあげよう」


 そう不敵に笑うと、ジーナはゆっくりと馬の歩みを進めた。僕の乗る馬車の手綱を持ったまま、器用に自分の馬車を操っている。このままだと事故が起きる。そう思ったディグは彼女から手綱を取り返し、馬車の位置を調節する。野盗たちによく見えるように、街道一杯に左右に広がった。

 少し近づくと、やっとこちらに奴らが気が付いた。たしかに、質が悪いかも。奴らは急いで一度固まる。慌てふためく様子がここからだと良く見える。中心にいるのがリーダーだな。遠くから見てもわかるくらいに、一回り体つきがデカい。

 うーんと、人数は……15人。結構多いな。


「三十人近い野盗か。思いのほか大規模だな。ここは西部辺境だから、もっと小規模だと思ったんだが。

 近隣の村に被害がないかが気になるな」

「そっか。それを忘れてた」

「領主たるもの、情報収集を忘れてはいけない。周辺の状況が判れば、この先に待っている物事も大半は予測できる。冒険者と通じるところがあるだろう?」

「そう言われるとそうだけど……あ、こっちに来るよ!」

「まあそうなる。簡単に侵入できない村と、状況に気が付いていない馬車。どちらを選ぶかと言ったら、馬車だろうね。村は逃げないし、柵から出てくればどうとでもないと思っているんだろう。明らかに勘違いなんだがね」

「そりゃまあ、行商人かと思ったら魔術師でしたなんて状況は想定できないよね」

「いやいや。

 この状況でも問題なく近づいてくる馬車がいたら、普通は怪しいと思うものさ。聡い野盗なら一目散に逃げているよ。先に行ったダグにも気付いていないみたいだし、その程度の実力の奴らさ。

 あいつらが相手なら、同数の村人でも柵と堀があれば十二分に戦える。つまり、どちらにせよ彼らは負けるのさ」

「でも」

「そう。こちらは、被害が出たら負け、さ。

 村人の大半は君の知り合いなんだろう?それに、働き手に怪我でもされたら今後の交易にも影響がある。万が一北に逃げられたらと考えると他人事ではない。今後のためにも、ああいった手合いは全滅させるに越したことはないよ」

「……元はどっかの村人なんだろうけどね」

「おや?君は優しいね。

 畑を耕す村人としてではなく、他人から奪う野盗という選択肢を選んだ時点で情けをかける必要はないよ。冒険者でも兵士でも選択肢はあったはずだ」

「……村を捨てた農民なのか?」

「いや違うね。ここ数年、西部で飢饉で村が滅んだとか、離散したという話も聞かない。装備を見ても、兵士崩れだよ。哀れに思う必要などない。

 その思いは、今まで被害にあった商人などに向けてあげてほしい」

「……あの規模だから、今回は初めての襲撃とは思えないもんな。

 よしっ!怪我したくないから気合入れるか!」

「その意気だよ。

 さて、この辺りで馬車を止めようか。降りて、ちょっと先で待ち構えよう。馬に被害が出たら目も当てられない」


 軽く笑うジーナ。言っていることは確かにそうだ。俺達はまだこれから北へと荷を運ぶ必要がある。

 だから、今必要なのは奴らを全滅させること。北にまで来られたら困るからね。

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