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ディグの生まれ故郷、西の辺境に位置するロル村は、現在、村と呼ぶには広すぎる敷地と、途方もなく先を見据えた開発計画を持つ、町になりつつある。
旧村落部分を囲む一の堀、倍以上の農地を囲む二の堀。そして、さらに倍以上の土地を確保した三の堀までできている。それぞれの堀は深く広く、幅も深さも2メートルはあり、川から引かれた水が流れ、畑に水を送るための水路にもなっていた。点在する井戸だけでは要望を満たせないのだ。
柵は一部を除いて木でできているが、橋のかかる付近は煉瓦造り。野盗や魔物、どう猛な肉食動物などと戦う際には強固な壁が必要になるからだ。ゆくゆくは全面に煉瓦の壁にしたいらしいんだけど、下手したら数十年かかるらしい。……砦が完成するか心配だな。
昨年耕した畑予定地は、半分程度が耕作されていた。掘った井戸も活用されていてうれしいな。残りの場所のうち、一部が農家の家、残りは人手が足らなくてほったらかしになっているそうな。
ジーナはその辺りも考慮して領地開発を計画していて、将来的には、最初の住民が住む中心部には主要人物が住み、畑を内包した中間部は変わらず、生活する周辺部が畑を囲んで広く分布する。最初は、中心部と中間部のみ。中間部は半分程度が畑になるけど、あとは森を残したまま堀と柵を作るんだと。そうすると、食肉や薪、薬草などの確保もしやすく、生活圏を魔物に脅かされずに済む。
一番外側の柵と堀が完成し、人口が増えるにしたがって周辺部に住居が建っていく計画だとか。それに伴って森が小さくなり、柵の外へと出るようになる。
「開拓って大変だな。俺が言うのもあれだけど」
「リロルは他の地域の数倍の速度で開拓されつつあるけれど、ある程度になったら他の地域と同様に落ち着くさ。人が増えるにはそれなりに時間がかかる。
君も領主としての勉強する時間が十分あるよ」
「色々足りてないけど、ね。力も頭も。なにより経験が。
……だけど、もうそんなことを言っている場合じゃないよな。ジーナ。俺、もっともっと勉強するよ!」
「……ディグ。
私が言うのもおかしなものだが、君は忙しすぎると思うよ。無理はしないでくれ」
「そうかなぁ?別に無理はしてないけど」
「……なら、今回の交易、馬車で移動している時は何をしている?」
「御者だね。それで、練魔しながらジーナと話をしてる」
「周囲の警戒をしながらね。休憩時間はダグと何やらしているし」
「練魔と索敵は常にすることってジーナが言ったんだろ。それと、ダグとしてたのはあいつが考えたトレーニング。魔力を練る練魔があるなら、力を練ることだってできるだろって……」
「……彼はどこに行こうとしてるのかな?最初は剣を極めたいって言ってた気がするけれど……」
「さあ?あいつはそれで強くなってるけど、俺の方は効果がいまいち。
ただ、ゆっくり動いたり、いつもはやらない動きとか体勢を維持するのはとっても疲れるから、まあ、訓練する意味はあるんだと思うけど……」
「強くなると言わないところがあれ、ね。
まあ良いわ。村ではほぼずっと魔術を使ってるでしょ?それに、力仕事も。リロルでならまだしも、交易中だって」
「暇だったんだよ。どこもそんなにお金持ってる人が居ないから、客が限定的で俺が手伝う必要ないし。手伝うと飯とかおまけしてもらえるし、好印象になるから、ね。
うちは開拓始めたばかりだろ?書類仕事の他はゆったり構えるだけって訳にはいかないよ。そもそも書類とかあまりないでしょ。お金の出入りと売れそうな素材とかの数の把握。仕事の分担に進み具合。目標と予定表。半分くらいは羊皮紙に書くけど、あれも安くないからね」
「手が空くと地面に書いて字の練習もしているね。……苦手なダンスと言葉遣いはあまり練習していないみたいだけど」
「……ほ、ほら。俺は忙しいから」
ジト目でこちらを見るジーナから、思わず目をそらしてしまう。苦手なものに努力できる人はホント尊敬するよ。俺、できないし。
でも、こうやってリストアップすると、自分の忙しさが良くわかるな。そんなに色々しているつもりはないから……どっちかって言うと、忙しいと言うよりも、全部中途半端に手を出してる感がするけど。
どれもこれも、はじめのうちは成長した実感がある。全くできなかったこと、少ししかできなかったことがどんどんできるようになるんだ。楽しくて仕方なかった。半ば自棄になって『穴掘り』に熱中した時とは違う。楽しくて楽しくて、時間を忘れて訓練にのめり込んでいた。
「色々できることが増えるのが楽しくて」
「訓練とレベルアップで体力がついたのは確かだけど、やりすぎると体を壊すよ。無茶させている私が言うのもあれだけど、きちんと休養は取ること!」
「その言葉は君に返そ……いや、ダグか」
「……あれはダメでしょ」
村と村の間。移動中の野営。
明るいうちに用意した夕食を食べ、ちょっとだけ余った時間を俺らは会話に費やしたけれど、近くに居ても全く参加しなかったダグは、バカみたいな訓練をしていた。
上昇した身体能力をフルに使って、大きな荷物を背中に背負いながら、何故か立ったり座ったりを繰り返している。時々構えを取っているから、訓練なんだろうな。……何があってもとっさに戦えるようにって……お前はどこ目指してんの?
「未だ口に出せるほどには強くないって教えてくれないんだよな、ダグ。今回の交易もついてきてくれたけれど、この先、どこまでついてきてくれるかはわからないよ」
「……君は、もう少し経験を積んだ方が良いね」
「わかってるよ!急になんだよ。学べって言ったり、無理するなって言ったり。
今回だって、俺は勉強のためについてきたんだよ。強くなるだけなら迷宮に籠ってたさ」
「おや?故郷に寄るし、西部の取引先ときちんと顔つなぎをしておくべきだからと言っていたじゃないか。それ以外にも目的があったんだね」
「本来の目的を隠して、それでいてきちんと成果を得る。貴族っぽいだろ?」
「よくできました」
くそっ。その笑顔は微笑ましく俺を見てるな。
まあ、わかってるよ。前にも言われたけれど、俺と違ってジーナは物心つく前から辺境伯家としての教育を受けている。十年近い差があるんだ。無理しないと並ぶどころか足元にも及ばない。今回の交易だって、学ぶことは多かった。うん。勉強になったな。




