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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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閑話

 俺は頭を抱えていた。今までの人生で一番難しい問題にぶち当たっている。

 最初は良かったんだ。食うや食わずで懸命に働いていたのに、飢えることも寒さに凍えることもない。平民並みどころか多めの食事に奇麗な宿舎。勉強なんて、訓練なんて金持ちのすることだと思ってたんだが、今の俺達はそれが仕事。貧民街からなかなか抜け出せず、愛しい妻にも苦労を掛けていたのに、一気にこんな生活だ。あの時の決断は正しかったと思う。

 それなのに……。

 背後からため息とともに声がかかる。


「一体どうしたのよ。帰ってきてから唸ってばかり。心配するわ」

「ああ、いや、その、な」

「何よ、はっきりしないわね。いつものトビーはどこ行ったの?スラムを捨てた勇気ある私のトビーは」

「そう言うなよ、恥ずかしい。知ってるだろ。俺は逃げ出したんだって」


 ミルはいつも捨てたと言ってくれるけれど、俺は生まれ育ったスラムから逃げただけだ。あそこは、俺にとっては二度と戻りたくない場所だ。

 兄弟家族にすら、時に命を狙われるスラム。そんな場所で小規模でも顔役の子として生まれた。兄弟姉妹は知っているだけで20はいた。物心ついた頃には大半が行方不明だったけど。

 小器用で小賢しかった俺は、10歳になった年に東部のスラムから逃げ出して、王都に潜り込んだ。貧民街とは言え、なんとか腰を落ち着けることができたのは、ミルやその家族と出会い、良くしてもらったからだ。そこで常識と幸せを学んだ。

 ちょっとだけ思い出に浸っていた俺の肩を見るが叩く……強くないですか?


「何急に思い出に浸ってるのよ。話が途中でしょ!」

「お前と出会った頃を思い出してたんだよ。クソみたいな俺を拾い上げてくれたお前のことを」

「まったくもう。いつまで経っても自己評価が低いわね、貴方は。男を見る目がある私が見込んだ男なのよ?もっと堂々となさいな。

 で、どうしたのよ。人との距離感で悩んでいた頃みたいよ、今のあなた」


 真顔だ。妻に本気で心配された。

 でも、これだけは言っておきたい。


「距離は今でもおっかなびっくりだよ。見知らぬ奴と手の届く位置で話するなんて、信じらんねぇよ。ナイフで首掻かれたら死ぬんだぜ?」

「当たり前でしょ。そんなの誰だって死ぬわよ。

 それに、普通そんな簡単に人は人を殺さないわよ」

「いやまあ……頭じゃわかってんだけどよぉ。

 ……はぁ。どうしたもんかな?」

「だ!か!ら!何に悩んでるか言わなきゃわからないわよ!

 シグさんもテラさんも心配そうにしてたわよ」

「あーまずった。心配かけたかぁ。

 悟らせないようにしてたんだけどな」

「無理よ。貴方顔に出るもの。私に結婚の申し込みをするときだって、半年ほどウジウジ悩んでたでしょ」

「ばっなっ……はぁ……。まあいいや。

 頭抱えてたのはな、呼び出しがあったからだよ」


 俺の一大決心をウジウジと言われたけれど、ミルに口で勝てたことはない。反論は早々に諦めた。なので、簡単に今の悩みを説明した。

 両腕を組んで頭を傾けていたミルが、俺をじっと見つめた。この目だ。俺を救い出してくれたこの目。こいつのために生きようと思い、こいつのために死んでも良いと思い、こいつと共に生きていきたいとなったその節目節目でこいつはいつも俺を見つめた。


「なんでそれで悩むのかわからないわ。職人頭。良い話じゃない。貴方が取りまとめるんでしょ。

 皆も喜ぶわよ」

「木工じゃシグさんに、石の見わけじゃテラさんの足元にも及ばねぇ。薬草婆にゃ未だガキ扱いだ。そんな俺が職人頭なんて出来っこねぇだろ」

「何言ってんのよ。木工じゃばぁちゃんに、石の見わけはシグさんに、薬草の扱いならテラさんに勝てるじゃない。それに、その三人とまともに相談ができるのが何人いると思ってんの?気難しくて有名なのよ」

「気難しいかぁ?癖はあるが普通だろ。むしろ優しいわ……でも、頭役には向いてねぇんだよな」

「三人ともすぐに手が出るタイプだからね。纏めるって感じじゃないわね。

 ほかの候補は……ほら、トムさんとかベナ兄さんは?」

「どっちも無理。師匠に口出しできる人じゃないよ。だから、他の人も、な」


 これって人が居れば、俺だって悩まない。そいつに任せりゃいい。つーか、任せたい。誰かいないかと考えても、誰もいない。だから、俺のところに話が来たんだろうし。


「あの強そうな騎士様があんたしかいないって選んだんだろ?なら大丈夫。いざとなったら、二人で逃げれば良いんだし」

「あーそりゃ無理だ。やるなら逃げねぇし、そもそも逃げらんね」

「逃げられない?あんたが?大将はバケモンみたく強いけどさ」

「大将だけじゃねぇよ。他の騎士様も、暇そうにだらけてたって隙がねぇ。俺らみたいなのがいくら集まったって、傷一つこさえられねぇよ。鎧着てたって俺らよりも動き回るんだぞ?そんなんが何人もいるんだ。それに……」

「それに?」

「北だぞ北。逃げたって凍え死ぬか魔物に喰われてお終いだ」

「何よ。なら、やるしかないじゃない。みんな協力してくれるわよ」


 あんたならできるでしょ。

 そう言って、ミルは俺の肩を叩く。こいつにそう言われると、なんでもできる気がするんだからおかしなもんだ。いったんそう感じると、後はもう大丈夫。決めたことをやりぬくだけだ。

 心配そうなミルの表情が穏やかなものになる。そうだな。お前がいるんだ。大丈夫に決まってる。


「おしっ!じゃあ、やっか!」

「そうよ。その意気よ!

 ……って、口調!戻ってるわよ」

「そう言うお前いやいや。なんでもない。うん」

「頭役が一番腕が良い必要なんてないわよ。調整と仲介役でしょ。村長は領主様が選ぶんだし、そこまで大変じゃないわよ。

 シグさんたちだって、貴方が早々に参加を決めたからついてきたのよ。それくらいには信頼されてるんだから大丈夫」

「……そうか。嬉しいなぁ」


 癖が強い職人に認められるってのは嬉しいもんだ。スラム出身なんて信用できねぇ人間なのに、出会ってほんの数年なのに。

 喜びをかみしめていると、夕食を運びながらミルが不思議そうに聞いてきた。


「そういや、さ。なんであの時、いの一番に手を上げたのさ。ここまでいたせりつくせりの開拓だなんて知らなかったのに」

「なんだ、言ってなかったか?

 俺は、10の時スラムを抜けてお前に出会った。15でお前と結婚した。20になったとたん、こんな話が来たんだ。乗るだろ」

「なんだ。ただのゲン担ぎなの?」

「バカ言え。お前が絡んだ決断で、間違ったことがねえだけだ」


 理由はどうあれ、開拓に参加するって決めて、職人を取りまとめる役に就くって決めたんだ。できるだけのことはやるとしよう。信頼してくれたみんなのためにも。

今回はここまでとなります。

4章は2月中には掲載開始できるかと思います。

気長にお待ちください。

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