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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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3-14

「本日の分の木材移動は無事完了。枝落としも皮むきも終わりました。

 城壁部分の煉瓦の区分けも終わりました。間を埋める土や粘土は建設時に用意するとして、作業場所だけは事前に確保したいと思います。

 特に魔物も獣の襲来もありませんでしたが、昨日の分の燻製が仕上がりましたので、後で味見をお願いします」

「えーっと、追加報酬の書き分けは」

「昨日の分まで終わっています。夜の分もあるので、今日の分はまだですね。採取班も戻ってきていませんし。

 リロル様の予定としては、この後、本日分の整地、土の確保と煉瓦生成。切り株撤去のための土除けとなります」

「あーうん。……ねぇ、口調。どうにかなんない?」

「無理ですな」


 実は、身分がばれた。正確には、俺の身分と、俺らの目的が雇った冒険者に理解されたのだ。おかげで、先輩として敬うべきBランクの冒険者から、斯様に丁寧に扱われているわけだ。おかげで、肩身が狭い……俺の性根的に。

 いくら、俺は最下級の準騎士爵だって言っても、なったばかりだって言っても、相手にもされない。まあ、自分が相対する冒険者の立場だとしたら、実に丁寧にするよな。最下級でも貴族は貴族。身分の差は歴然だ。わかっちゃいるけど、嫌なもんだ。

 開拓を本格的に進めるにあたって、正式に三人パーティーを冒険者ギルドに登録。その際に、リーダーは俺になった。開拓資金の原資は辺境伯家からの支援を除けば俺が貰った街道整備の報奨金がほとんどだし、開拓資金節約方法の大半は俺の『穴掘り』活用だし、領土予定地のリロル地方を開拓するんだから、俺が責任者でやるべきだってさ。スムーズに開拓を成功させるためには、知名度の効果は高い。部下に質のいい人材が集まりやすいし、冒険者や商人、移民などは領主の悪声には敏感だ。自分の財産に直結するからな。選べるなら、良い領主がいる場所で活動したいのは当然だ。

 冒険者として活動しつつ、自らの資産を費やしながら、街道を整備し、森を切り拓いて村を作る。村人には教育を施し、堀の整備には自ら汗を流す。魔術使いの平民冒険者からのたたき上げで、苦労を知る立志伝中の人物。そう聞くと、めちゃくちゃ良い領主っぽい。……実情を知ってるから微妙な気がするけれど、嘘は入ってないからなぁ。ってな感じで説得されて、知名度アップのためにパーティーリーダーをしていたわけだ。だから、実は依頼を出したのもパーティー名義。辺境伯からの開拓を受託したのも同じ。ジーナ個人じゃないんだ。

 なので、開拓の方針やらなにやら、重要な決定の際は、最終判断は俺がやるしかない。もちろん、皆に聞いて決めるんだけど、最後に決定するのは俺。それを繰り返していれば、目端の利くBランク冒険者にはある程度の予想ができる。簡単なカマかけに引っかかったのは、何を隠そうこの私です……はぁ。その結果が、今のこれだ。

 『早春の誓い』の斥候ミルトン。商家出身。冒険者パーティーの交渉を一手に引き受けていた切れ者……実態は、他のメンバーに押し付けられた苦労人。力仕事に向いているメンバーをよそに、とっとと俺の護衛兼調整役に収まっている。おかげで助かってはいるんだけど、ちょっと居心地が悪い。まあ、慣れるしかないのかな。


「慣れていないのはわかりますが、慣れてください。これからの人生、ずーっとこの状況ですよ。

 今は準騎士爵ですが、将来的には男爵、いや、お子様の代には子爵もあり得ますし」

「最後、ぼそっと何か言いました?

 それと、心、読むの止めてください。なんでわかるんですか!」

「リロル様は感情が表情に出やすいですからね。ジーナ殿を見習うと良いですよ。

 それか、笑顔を張り付ける練習でも構いませんが」


 えーっと、笑顔が怖いです。目が笑ってません。

 そんなに表情に出やすいかなぁと頬をペタペタと触っていると、ミルトンの笑顔が普通に戻った。ほっ。


「食糧倉庫の5番までが燻製肉で埋まりました。6から8は食べられる野草が入っていますので、残りは当面は10番倉庫に入れておきます。素材は11番倉庫まで。分類しているのである程度余裕がありますが、ある程度です。

 追加で建設するとしても、それよりも作業員のための家屋を優先したいところですね。

 堆肥所も処理待ちがかなりあります。早急に、ゴブリンの回収が必要ですね」

「……今抜けられる冒険者パーティーはありますか?こちらの燻製と素材を売りに行きつつ、生活用品を買ってきてもらいたい。ついでに数体のゴブリンも」

「堆肥変換用に処置したゴブリンを売っている店と繋がりがあった方が良いですね。Fランクの『リリーとゆかいな仲間たち』を店で見かけたことがあるので、間違うこともないでしょう。

 売る物はどうしますか?」

「積み荷の半分は燻製肉。残りは、毛皮よりも劣化しやすい素材で。あ、城壁作るときに必要な道具類も手配しないと。天幕の追加も欲しいな。彼女たちに任せられるかな?」

「その辺りは今晩ジーナ殿と相談してください。彼女たちの給金をここで一度支払うかどうかも決めた方がよろしいかと。装備のメンテナンスもしたいでしょうし。給金を素材で支払えば少しでも倉庫に空きができますので。

 では、そろそろ夕食の時間です」


 本日の報告会もなんとかなった。ここでの開拓生活は、お金を使わないけれど、必要な物も手作りする必要がある。物々交換がメインだった懐かしい村での生活に近い。開拓に必要な物品をこまめに購入しているけれど、素材やら肉やらを売っているのでそこまで資金は目減りしていない。そのうち行商人が来てくれないかな。

 ジーナの計画は怖いくらい順調に進んでいる。この辺りの川の整備はほぼ終わり、砦や村の予定地を囲む堀も深く、広くなった。街道だけでなくその左右もある程度は伐採が進み、急に木陰から魔物に襲い掛かられる心配も減った。敷地内に建っているのは倉庫の類ばかりだけど、建てる準備は進んでいる。区割りも済み、砦なら城壁予定地付近に煉瓦の山が、村では家や柵の位置に木材が積まれている。作業に面倒だから後回しになっているけれど、後々は中心だけを囲む堀を作り、二重堀で防御力を上げる予定だ。

 頑張ったのだよ。

 ……村は何とかなるんだけど、城壁とか、砦内の建物とかどうやって建てるんだろ?普通の家と同じ大きさって訳にはいかないだろうし。移住者に任せっきりにできるわけでもないし。そっちの人員手配も併せてジーナに相談しようっと。

 

 報告を受けていた天幕から出つつ、ミルトンの顔を覗う。ジーナ殿って呼んでいるから、ジーナの素性についてはばれていないみたいだ。準騎士爵ってことがばれただけでこれなんだから、彼女のことがばれたら大騒ぎだ。

 ほっと小さくため息をつく。

 天幕の入り口を持ち上げてくれていた彼の横を通るとき、小さくつぶやきが聞こえる。


「ジーナ殿は色々な意味で有名なので、高ランクの冒険者はほぼ知っていますよ。本人が言わないので、こちらもそれに合わせた対応をしているだけです。そもそも、これほどまでに魔術に精通した者が在野にいたら、怪しまれます。情報に疎くては冒険者として長生きできません。

 そんなジーナ殿がリロル様を立てていらっしゃいますから、他の者も私どもの対応に疑問を持たないのですよ」


 バレテーラ……マジで、どうしようか。

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