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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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3-8

 ガタゴトと馬車が街道をゆっくりと走る。いつかと同じように、御者席にはディグとジーナが。馬車の横をダグが走っている。スピードが遅いのは、荷馬車に小麦や干し肉などが所狭しと積まれているからだ。

 雪降る季節は終わったとはいえ、まだまだ辺り一面は銀世界。三人とも、かなりの厚着をしている。座っている二人はまだしも、ダグなんかは良くそれで走れるね、しかも馬車と一緒に、ってほどシルエットが真ん丸である。


「大分上手くなってきたね、馬も、荷台も安定している」

「……どっち?」

「もちろん、御者も、『道造り』も。もちろん、『穴掘り』もさ。

 素晴らしいよ、この速さで馬車を走らせながら。『穴掘り』で雪を左右にどかし、荒れた道を『道造り』で補修しつつ、ミスなく馬車を操る。うーん。成長がうかがえる」

「……テンション高いな。あんだけやってりゃ、嫌でも上手くなるだろ」


 寝ても覚めても、手を変え品を変え、魔術と勉強の日々。身体を追い込む訓練がまだまだ楽なんだって思えたのは、本当に久しぶりのことだった。ああ……あれは、土魔術の素質があるってわかってからの勉強の日々……飯食う時すらマナーの練習で、寝る時間だって短かったからマジできつかった。あの日々があったから、魔術学院での勉強も、訓練も乗り切れたんだ……あれ?俺ってひたすら修行しかしてない?いや、そんな馬鹿な。……村にいた小さなころは、村の友人たちと遊んだり、畑仕事を手伝ったりしていた。うん。兄弟げんかもしたし、うん、ちゃんと子供だったな。そのあとは……修行と勉強の日々だな。うん。学院に入るのにも、入った後でも勉強しないとついていけなかったし、魔術が一つしか使えなかったから退学になるまで必死だったし、冒険者として上を目指すには訓練するしかなかったし。

 ジーナ、ダグを順番に見る。二人は、それぞれ反応を返してくれた。


「いえ。この短期間でここまで上手にできるようになったのは、褒められてしかるべきことですよ。基礎がある程度できているとはいえ、たった半年足らずの期間ですから」

「充実した冬だったな。騎士と冒険者の強さを知ることができた。まだまだ俺は強くなる!」


 もう一度、ジーナ、ダグを順番に見る。

 そうか。訓練漬けの日々って当たり前なんだ……ってそりゃないだろ!今まで見てきた冒険者だって酒飲んで騒いだり、村のみんなだって酒飲んで騒いだり、街の人だって酒飲んで騒いだり……みんな酒飲んで騒ぐだけだな。一回飲んだことあるけど、どこが旨いんだあれ?……そう考えれば、別に修行の日々でも良いのか。

 考え込みながらも、器用に『穴掘り』『道造り』と馬車を操っているディグを、横のジーナが呆れたように見る。


「また変に考え込んでるね。強くなりたいのなら、なりふり構わず、利用できるものは利用すれば良いのに。

 私としても、もっともっと強くなってくれないと困るんだから、いくらでも手伝うのに」

「俺も手伝うぞ!こいつは強くなるからな!」

「……大声を出すと馬が驚くわ」


 その会話の間も、考え込んでいたディグはまっすぐ前を向いたまま自分の世界に入っていた。ただひたすら、馬を操り、二十メートル以上先の雪を大きく左右に除けさせ、馬車が二台悠々と走れる幅の道を順々に整える。元々の道はわからないが、基本的にこの辺りは夏場草原になって誰かが通った後が道として使われていくとのことで、毎年のように道が少しずつ変わる。まあ、比較的なだらかな地域なので大きな変化はないみたいだけど。

 今回、領都リアンナから冒険者の都リステンに向かうにあたって、冬の大雪でも壊れない道の整備が目的に入っている。道が通じれば開拓にも恩恵があるし、少なくない報酬がもらえる予定だ。それもあって、当初より半月ほど早い出発である。移動のついでに、開拓の資金稼ぎも行う予定だ。

 冬の対策として、どこの都市でも十分な食料を確保しているはずだが、どうしても春近くになると値段は高騰する。今回の目玉商品は、塩漬け野菜の大樽。味はいまいちだが、数少ない冬場に摂取できる青物で、塩分も取れるのでそこそこの金になる。まあ、今回も利益は乗せても常識の範囲とする予定。

 開拓地に一番近い都市で、何よりも冒険者が集う街だ。いざ迷宮がって時には必ず世話になる。この道造りと同じで、名前と恩は売れるときに売っておくべきだろうって判断だ。


「楽しみだなー。ああ、楽しみだー!俺はー!やるぞ!」

「……ダグは大丈夫か?訓練で頭でも打ったのでは……」

「……俺も初めて見たが……そんなに迷宮が楽しみだったんだな」

「強くなることにしか興味がないとの噂は本当だったんだな。普通に暮らしていたから大袈裟に言われていただけかと思ったんだが」

「あの、無駄に荷物を担いで、無駄に動いて、それでいて疲れない。完全に、楽しくて仕方ないんだな。荷物なんてこの間の倍近いのに、以前より身軽に動きまくりやがって」

「身体が大きくなったからね。すごいもんだ。

 ちなみに、量は倍程度だけど、三倍は重くなっているよ、あれ。私では『身体強化』でも使わないと満足に動けない」

「……ははっ。なら、俺には無理だな。

 おいダグ!あまり暴れて道を壊すなよ!」

「そんな無様な真似はせんぞ!」


 馬車に並走しているのに、道を損壊しない走り方ってなんだよ。しかも、かなり重いはずなんだが。騎士や冒険者との訓練を経て、ますます人間離れが進んだな。この域にならないと迷宮に入れないってのか。冒険者はみんな迷宮に入るなんて噂は間違いだったんだな。西部で世話になった冒険者たちを思い出しながら、一つため息をついた。

 ゴブリンやオークと戦う低ランクは普通の人間だが、高ランクになると、まあ、正直、魔物に近くなる。遠くから見ても視界から消えるほどの速度で動いたり、巨大な獣の突進を片手で止めたり、都市ほどに大きい竜を倒すことができる存在を、普通人間とは言わない。今のダグならオークどころか倍も大きいオーガですら倒せるだけの力があるそうな。騎士団のお墨付きだ。

 そのダグが、見習い騎士よりも弱いってんだから……はぁ。

 肉体を鍛えて、さらに迷宮で魔素によって強靭になる。それが北部の騎士と冒険者だってことなんだが、聞いている限りだとそのレベルに達するには、万を超える魔物を倒さなくてはならない。

 ……俺、それまで生きていられるか本気で心配である。ついつい、英雄になるのを諦めて、領主としてきちんと頑張った方が良いと血迷ったこともある。……領主については、もう抵抗は止めた。ジーナのお祖母様の辺境伯としての顔を見た時に。あ、こりゃ逆らえんって思ったもん。無理だって、反対するの。ジーナがそうしたいって言って、辺境伯が認めたなら、俺が逆らう余地はありません。はい。

 ただ、やっぱり、今は強くなりたい。自分の命を守るのもそうだけど、やっぱり英雄には憧れるからな。

 雪煙の向こうにかすかに城壁が見えた。冬が明けるまで後一月。開拓の始まりまでに、俺はどれだけ強くなれるのだろうか。今。俺はどれだけ強いのだろうか。

 冒険者の街リステンで。

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