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最初は人間相手。避けて振る。避けて振る。時には突き刺し、避けて振る。小さく避ける。大きく避ける。避けてもすぐに次の動きができるように。この訓練場みてぇに足元がしっかりしてるとは限らねぇ。常に余裕を持った動きを心がける。ははっ。でこぼこ道って、村にいたころを思い出すな。実際は周りの木にも気ぃつけねぇとだから、ゴブリンも減る冬の初めにでも、森の入り口で練習が必要かもな。転がって殺されてじゃ冗談にもなりゃしない。ひとしきり前後左右に飛び跳ねてると、勢いを殺せずに体がふらつく。転がるまでやったら一休み。埃払、飲水が活躍だ。次はゴブリンだな。
自分より小さな奴との戦いは、攻撃方法が限られるからちょっと面倒。さらに、リーチが短い振り下ろしは、想像よりも早い。だからこちらも、大振りにならずにコンパクトに。一撃で決める必要はねぇ。こっちが怪我をしたら意味がないので、まずは武器を持った手。難しければ足を傷つける。隙ができたら首。一撃で倒すにはまだまだ力が足りねぇ。
複数に囲まれた場合を想定し、とどめに固執せず安全を確保。血の匂いや戦闘音でゴブリンなんかは寄ってくるので要注意。野生動物は逆に逃げるが、魔物には寄ってくるやつも多いんで、森では無理をしないことが命を繋ぐってぇこった。冒険者は臆病なくらい慎重な方が生き延びるってのは初心者講習で言われたっけ。
オークは鈍重なイメージがあるが、体力もあるし、生命力が桁違い。ゴブリンよりもちょっと強いくらいに考えて一撃入れて、反撃で粉砕される冒険者が毎年いるって話だ。普通のオークなら力任せの攻撃だからまだ良いが、進化手前くらいから技を使ってくる。傷持ちには気をつけろってダグにゃ言われてるが、そもそもそんなのと戦わないように森の奥まで行かねぇよ。ま、イメージとしちゃ、身体のでっけぇ斧使いでいっか。
ガッチガチに鎧着けてるって考えりゃ良いのか?こっちはちょっと大げさでも大きく避けて、チクチクと手足を斬って、首かわき腹を狙って……俺の剣じゃ長さが足らんな。
身長に合わせた俺の剣は決して長くはねぇ。短剣二つ分程度の刃渡りじゃ、オークの分厚い脂肪は切れても、内臓や首の骨にゃぁなかなか届かねぇ。倒すときに一々命かけるんじゃダメすぎる。早く剣に纏を……って焦るな焦るな。焦るやつから死んでいくって講習でも言われたかんな。
ふぅ。はぁ。
呼吸と一緒に気持ちを落ち着ける。そろそろ昼飯か。じゃあ、その前に、纏の練習をもっかいするか。
全身に魔力を巡らせながら、ゆっくりと動くことはなんとかできるようになってきた。ふふん。日々の練習の成果だ。当面の目標は巡らせながら剣を振ること。纏にするにはこっからさらに二歩三歩先にいかんと駄目だが、まずはそこだな。
パチパチパチ
ゆっくりとはいえ、剣を振り上げることに成功した。振り下ろそうとしたら消えちまったが、大きな前進だ。コツは、巡らせることに意識を裂きすぎないことだった。普通逆じゃね?そう思ったんだが、あまりに魔力に意識が行き過ぎててまともに動くことができなかったようだ。無意識でもできるようにならにゃいけないってか?ふーむ。でも先は長そうだ。
あ、そういやさっきの音はなんだ?拍手みたいだったが……。
周りを見ると、最初とは違い、訓練している奴らがちらほらと。まあ、大半がパーティー組んでんな。んで、近くの壁によりかかった……女?ん、まあ女だろうな。顔は見えねぇが、引き締まっているって言うよりも、線が細いかんな。髪は女にしちゃ短いが男にしちゃ長い。年は俺よりはいくつか上か?ダグよりも落ち着いて見える。ありゃ、強ぇな。
明らかにこっちを見てるし、なんつーか、面白がってる雰囲気があんなぁ。っても、見覚えはねぇ。でも、さっきの音は、こいつの拍手みてぇだな。今も叩き終わった格好だし。
どうせ昼飯にしようと思ってたんだ。訓練はここまでにして、話しかけてみっか。
「勘違いなら悪いんだが、何か用かい?」
「訓練の邪魔したかい?悪かったね。
その年にしては筋が良い。思わず拍手してしまったよ」
「いや、もう飯にするとこだったんでね。
つーか、あんたもそんな変わらん年だろ?それに、褒めてもなんも出ねぇぞ」
「もう少しで纏ができるじゃないか。まだ14だろ?天才的だな!」
「……」
「ああ、いや、悪かったよ。機嫌を直してくれ」
女の言葉に、マジマジと顔を見ちまったら、何を勘違いしたのか謝ってきた。別にそれほど気にしちゃいないが。結構美人だな、おい。ちょっときつめだが、目元が笑ってる。俺らみてぇな野暮ったさはねぇな。つか、見ただけで纏をしようとしてたんがわかるってのはどういうこった?手足の防具もそうだが、剣も使い込まれてんな。
ふぅ。落ち着け落ち着け。
「……別に怒っちゃいない。この顔は生まれつきだ。
纏の練習が見てわかるなんてすげぇなって驚いただけだ。あんた強ぇんだな」
「いや、種明かしをすると、私も似た訓練をしていたからさ。魔力の循環に慣れてないとゆっくりとしか動けないだろ?
見たところ独学かい?良ければコツを教えようか?」
「……突然、んなこと言われてもな。あんたを雇える金なんかねぇよ。見りゃわかんだろ?
誰だいあんた?何考えてんだ?」
「ああそうか。どう見ても怪しい人物だな、私は」
「いや、まあ。なぁ」
「私はジーナ。君の噂を聞いてね。ちょっと興味が惹かれてね。
半年も経たずに魔術学院の奨学金を返した土魔術師。西のローリア辺境、最果ての村から出た久々の期待の星」
「……期待外れの星さ。一年で追い出された落ちこぼれだ。わき目も振らず勉強した割には大したこたぁなかった。んまあ、一年分だから半年しねぇで返せたんだが。
つーか、最果てじゃねぇぞ。もっと奥にいくつも村があるんだぜ」
「それは失礼。
魔術学院は国が盛大に支援している関係上、卒業後は国への奉仕か一定額の返金が求められる。かかっている金と意義を考えれば仕方のないことだ。
それに、魔術師ならそれくらいの金は数年で稼げるさ」
「そこんとこは最初から納得してらぁ。こんな田舎もんを一年だけでもビッチリ教育してくれたんだ。感謝してるさ。
まだ話は時間かかんのかい?いい加減、腹減ってきたんだが」




