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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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3-5

「村人ってほとんど他所から連れて来るのか?それも、貧民街から。いくら教育したって、畑どころか、まともに村が作れるのかよ」

「さすがに、中心となる人間は北の地から選ぶだろ。そうじゃないと色々と困ることも起こるだろうし。……選ぶよな?」

「ははっ。心配かい?さすがに、中心者と兵士は北の民さ。そうじゃないと、冬を超すときに死者が増える。北の地の常識を理解できていないと死ぬからね」

「……聞けば聞くほど、領主になんかなりたいと思えないんだが」

「そりゃそうさ。厳しい面ばかり強調して伝えているからね。新しい村人に対する教育と同じだよ。楽観視されて死なれるよりもよっぽど良い。

 人は重要な資源で、育つまでに時間がかかるからね。各地の燻ぶっている次男三男が新しい村の中心となる」


 ジーナのお祖母様への報告が終わり、辺境伯への報告を兼ねた公的な顔合わせを翌日に控えて、三人揃って客間で一休み。ジーナは疲れているようには見えないけれど、俺とダグは気疲れからくる疲労で立つのもやっと。正直座りたくないほどに豪華な椅子に、だらしなく座り込んでいた。

 それでも、確認すべきことは確認しておかないと。新しい開拓地については、俺を領主にってバカげた話があったのであまり詳しく聞かないようにしていたけれど、ちょっとばかり気になった。

 王都や各地の貧民街から希望者を村人に迎え入れるって話だけど、村の基礎ができるまで一年以上徹底的に教育するって言うし、村よりも砦を優先するし、俺が知ってる開拓とは一味も二味も違う。でも、やっぱり、失敗する気がするんだよな。 


「王都の屋敷では、教育の傍ら、我が領の騎士が訓練しているところを見せているし、あまりに理解が足りないようなら参加もさせている。そのうえで反抗するだけの気力のある者がいたら大したものだ」

「ちなみに、正規の騎士の訓練は、今のディグでもかなりきついぞ。重い鎧を着て動きっぱなしだ」

「訓練を体験させられて、さらに、教育が受けられ、食事が提供される。頑張れば、数年で土地持ちの村人となる。将来は明るいぞと示す訳だ。それでも嫌だと言うのであれば、不要だな」

「……目が怖いぞ」

「こちらで教育した者が、性質悪く下野する。それを座視していては土地を治める資格はあるまい。首を刎ねてしかるべきさ。

 まあ、生身の人間など活用方法はいくらでもあるから、そちらに回すがね」


 内容もさることながら、語るジーナの目が怖い。費用をかけたからにはそれ以上の活用をするんだろう。さすがに、生まれながらの支配者層の人間だと感心する。少しばかり、祖母である北の魔女『乾燥』マティーから受けた印象に似た感じがする。

 それはそれとして、後日、兵士や村の中心になる人物を紹介すると言われた。それは、北の地にいる人間だけでなく、貧民街から来る集団の中でも中心的になっている人物をピックアップするように指示してあるそうな。

 実際に北の地に村人候補を連れてくるのは来年の秋。約一年後だ。実際に入植するのはもっと先。

 今年の冬は王都で教育を施し、春以降は交易品運搬を兼ねて、少人数ずつ北部でも南方の都市へと移動させる。そこでは北部で栽培される各農作物の品種改良を行っていて、人手、それも農民系の人員はいくらでも必要らしい。そこですら冬は雪が降り積もる。領都リアンナよりもよっぽど温かいらしいが、北部は王都や西部とはかなり違うことを身体で理解させる。

 次の春には最も近い都市リステンに移し、村や砦の建設を手伝わせる。時にはテントで泊まり込み、城壁や、村の柵や家を作る。翌年にやっと入植だ。そこまで約二年半。俺は森を切り拓いて堀を作り、煉瓦を作り、道を作り、畑を作り、水路を作り、砦と三つの村の基礎を作り上げる。


「……あの広さをだよな。結構、大変な仕事じゃないか」

「普通なら万単位の人間を年単位で使わないといけないレベルの開拓さ。だからこそ、それを短期間で達成したら最も功労がある君を領主に推薦するわけさ。

 費用で言えば、君を通常の十倍以上で雇ったとしても普通の十分の一の経費もかからない。私を魔術師としてきちんと雇ったとしてもだ」

「木を伐って切り株を掘り起こすのも、魔物を倒すのも十分に価値があると思うけど」

「まあ、そうだけど、ダグはそれを望まないし、私にも事情があるの。そうなると、貴方以外に領主に任ずるだけの功績を望める人間がいないのよ。それもあって、最初から貴方を領主にしたいと話しているの。

 それに、ここまでくる間に道を作って、ちょっとだけ耕したり、堀を作ったりしたけど、感想は?その地を他人に任せたいと思う?」

「……西でだって山ほど道も、堀も、畑も作ったぞ」

「ええ。依頼でね。対価も貰って。まあ、払うのは私だけど、目の前にそこに住む依頼者が居て、その声を聴きながら作ったでしょ。それと、自らの力でゼロから開拓した場所とは違わない?」

「……はぁ。そう言われりゃ否定はできないな。

 良い感じに堀ができたし、切り開いた森が村になることを想像するとワクワクする。ああやりたい、こうやりたいって考えだって出てきた。それが愛着だって言うならそうなんだろうさ」

「今なら、どんな村にだってできるよ。色々考えているんだろ?」

「川を広げて魔物の防波堤に。薪や狩猟の必要性があるから、遠くなく、近すぎない位置にどれくらいの森を残すかも重要だし、どこに道を通すかも重要だ。

 川のこちら側に迷宮はないんだよな?」

「少なくとも、3つあったが全て潰した。まあ、全範囲を細かく確認したわけじゃないが、それまでの経緯からあってもまだ暴走したことがない若い迷宮だろうね。川の向こうは何とも言えないけれど、川と山に囲まれてて、迷宮から出た魔物はその中でつぶし合っているみたいだね。そうなると外にボスクラスが領域を築く結果になるから望ましくはないんだけど、全部がこっちに流れてきていれば冒険者の都リステンだってそれなりに被害を受けていただろうし。

 こっちに被害がなければ迷宮が暴走しようが崩壊しようが好きにしてくれと言いたいところだけど、領域を持つボスクラスの対処は開拓するには頭が痛い問題さ」

「ダグ」

「普通の人間には無理だな。ボスと呼ばれる魔物は、ベテラン冒険者が複数パーティーで戦って、犠牲を出しつつやっと討伐できるレベルだ」


 呆れたように肩をすくめるダグに向かって、ジーナがニヤッと笑う。


「迷宮で鍛えていない他の地ではそうだろう。ただ、ここでは違う」

「魔物を倒すとほんの少し強くなるという噂話か」

「だから、それは本当なんだってば。まあ、迷宮で数百体倒して、やっとほんのちょっと違うかなってくらいだからあまり理解されていないけれど、北部の冒険者には常識さ。だからこそ、皆が迷宮を目指し、ギルドはランクで制限をかけているんだから」

「迷宮特有の現象ってことだな。だからこそ、北部の騎士も冒険者も強いと」

「そう。だから、イザって時のために、兵士や騎士、冒険者の育成は必須。もちろん、私達も強くなる必要がある」

「開拓したら悠々自適な生活って訳にはいかないのかね」

「……余裕ある生活がおくれるように精いっぱい手助けするよ」

「嘘付かないだけ誠実なのかねぇ……」


 あんまり明るい未来は見えない。が、すでに開拓地に愛着が湧きつつあるし、旅路の中で色々と知ってワクワクしていることも事実なんだ。今更放り出そうとはさすがに思えない。

 ……ジーナの手のひらの上で踊らされている気がするなぁ。残念ながら、上手に逃げられる想像ができない。目指していた英雄像は今いずこ……。

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