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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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3-4

 森の木々を蹴散らし、馬車が通りやすいように煉瓦を敷く仕事は、午後だけでは全部は終わらなかった。煉瓦を運んで空いた場所に余分な森土を投げ込む作業が思いのほかかかったからだ。ただ、奥まで見に行ってくれたダグ曰く、半日も作業すれば終わるとのこと。そう聞くとやる気が出てくる。

 翌日は、朝早くから作業。朝食を食べた後、俺達が野営の後片付けをしている間に、ジーナが残りの木を切り倒してくれていた。なんでも、向こう側の木は、森を抜けた先の広場に置くらしい。……はい。広場を作るのは俺の仕事ね。わかってるよ。

 馬を連れて向こう側まで。荷馬車部分は森の手前にほったらかしだが、ここに来るような人間はいないし。念のため、獣なんかに荷物を荒らされないようにジーナが残って、ついでに煉瓦の準備をしてくれている。

 森の中を通りながら切り株を見ると、すでに根っこが斬られている。


「これが国内有数の魔術師の実力か。すさまじい」

「戻ってきた時も別に疲れた様子はしてなかったからね。魔力量も実力も、俺の知っている魔術師とは段違いだね」

「見ろ。森の先に煉瓦が積まれてるぞ。木を伐り、根を断ち、煉瓦を作る。それに、俺達にも身体強化の魔術をかけて、か」

「多分、自分にもかけてるよ、身体強化。作業したうえで、あれだけの速さで往復するのは普通じゃ難しいだろ。ほんと、とんでもないな」


 ちゃちゃっと森を抜け、広場を作ったら、まずは倒木の移動だ。木に軽身はかかっていないが、二人とも身体強化がかかっているので、なんとか運べる。運びきってもまだまだ昼には遠い。切り株はダグに任せて、森土をどかして煉瓦を敷くか。

 やった距離は昨日の半分ほど。煉瓦が少し余ったので、入り口付近に追加で敷いていく。今のところ敷いたのは、入り口を除けば馬車の両輪部分のみ。片側3枚程度の幅だ。ここまでの道と同じようにするなら……5倍は必要かもな。そもそも、森の切り開き方も一台分しかやってないし。キリの良い所で一度入り口まで戻って、荷馬車とジーナを連れてくる。片道数時間。森の中で夜を明かす必要がないのは助かる。

 まだまだ森の中の道は狭いが、ジーナの計画では、この後、数年かけて開いていくとのこと。まあ、石材は荒野ならいくらでも手に入りそうだから良いんだが、煉瓦にするのは魔術師じゃないと厳しくないか?


「荒野もそうだし、山を越えながらも煉瓦は作るよ。邪魔な小山や岩は積極的に煉瓦にする。それを少しずつ交易用の馬車がここに運んで来るって寸法よ。

 そもそも、馬車の往来が増えるのには数年かかるわ。だから、森の中の道はゆっくり広げれば良いの。まっすぐだから、対向から来ているのはすぐわかるし」

「木は、広場用の柵でも作るのか?根っこは燃料?」

「それでも良いんだけれど、まずは貴方の故郷で使うわ。広場なんて、短期間しか滞在しないんだから平らにしておけば十分」

「井戸は大丈夫?広場にはあった方が良いと思ったんだけど。何も言われなかったから掘らなかったけど」

「それも今は不要ね。計画だと、北からの交易隊には水魔術が使える人間が帯同するし、そもそも水の確保は自己責任よ。山際には川があることは確認されているから、歩きでもなければ村までは大丈夫でしょ」

「……ここからまっすぐ歩いても二日でここまで来れる距離だろ。実際に旅してみて、必要なら井戸掘る依頼が来るさ。今掘っても、ずっとほったらかしになるし」

「どうせやるなら今やった方が手間がかからないって思ったけど、管理ができないか。それなら無駄だね」

「森が近いから少し掘れば出るだろ。それは別のやつに任せれば良いさ。

 さ、早く行こうぜ」

「……森も、荒野も、魔物が居そうになくて暇なんだろ」

「そうだ。訓練にならん」


 訓練中毒のダグはさておき、荒野の旅程はなかなかに厳しかった。森での作業は昼までに終わりにできたので昼過ぎにはダグに引っ張られながら荒野へと繰り出したのだが、遠くに見える山に向かって、延々と道を整備しパカラパカラと荷馬車に揺られる仕事。鳥すらまともに飛んでおらず、荒れ地に生えるわずかな灌木と昆虫類が時々目の端に映ることで、やっと移動していることが実感できるほど変化がない。

 元気いっぱいなのに眠気との壮絶な戦いを繰り広げながら馬を歩かせること半日。体力が有り余っていたダグが途中で大量の荷物を背負って歩き始めたり、ジーナが考える『穴掘り』の活用法などを聞きながら道を整備したりと、思ったよりも疲れる行程だった。

 目印も何もないが、ほんのちょっとだけ周りより高くなっていて、万が一雨が降っても寝床が浸水しない場所を広場と決め、野営の準備をした。獲物がいないため魔物の気配どころか虫すら少ないが、夜番は交代で行う。一番の敵は、ここでも眠気。翌日、山のふもとに到着するまで付き合う強敵だった。


「なんと言うか、疲れた。きつくはなかったけど、疲れた」

「こっから山だな。でも、この方向なら一番低い山だろ?道さえあれば荷馬車でも大丈夫そうだ」

「雪解け水が流れる小川もあるし、ここを越えれば開拓予定地よ」

「……これまで以上に、ひたすら道を作るイメージしかわかないんだが」

「もちろんよ。これだけの山だものまっすぐ道を作ったら急すぎるわ。山をくり抜くわけにもいかないから、あっちにいって、こっちに向かって道を作るの。ところどころに休憩できる場所を作ってね。

 大丈夫。山を越えるまでは魔物もでないから」

「……承知しました」


 風景が変わらない荒野の旅もきつかったが、この山を登る道を作るのはそれ以上に大変だった。道だけじゃなく、山肌が崩れないように土を押し込んだりもするはめになったからね。目指すのが最も低い谷部分――まあ、それでも十分高い峠なんだが――だったのが唯一の救い。

 そこを超えたら、今度は魔物や獣と戦いながらの移動。こっちはだいぶ緩やかで歩きやすかったんだけど、その分、北の地は高い場所にあるってことで、山を越えたら一気に寒くなった。もう秋の終わり、冬目前である。

 開拓予定地はこの山に囲まれた盆地。峠のてっぺんから見ると、こんもりした大森林が広がっていたが、そのすべてが領地であり、予定では真ん中ほどに砦を建て、東側を開拓予定だ。そこそこ広めの川が南北に走っており、そこを防波堤に領都側を人の住処とするのだ。

 俺は北西に向けて道を作り、ダグは嬉々として襲い来る魔物を倒し、ジーナはゆったりと練魔を行う。そして、森に入れば、ジーナが木々をなぎ倒し、ダグは魔物を切り倒し、俺は道を作り倒す。まあ、相変わらずの旅路だ。砦や村の予定地では広場にしたり、切り株をどけたり、畑に見立てて耕してみたり。言うなれば……俺にとってはただひたすらに『穴掘り』と『道造り』の日々。

 同じ作業をここまで連続してやったのは、学院で色々吹っ切ろうとしていた時以来。正直、最後は頭がおかしくなりそうだった。それに、耕した畑なんかは冬の間に硬くなるし、来年じゃまだ入植はしないからあんまり意味がないんだぜ?ひどくない?それ聞いたときに俺ぶっ倒れたもん。

 まあ、そんなこんなで、結構苦労して北の領都リアンナにたどり着くころには、ちらほらと冬の便りが空を舞うようになっていた。

 ああ、もちろん、旅の途中では勉強がてら魔物の解体や珍しい野草や薬草類の採取も忘れちゃいけない。本当は戦いももっと経験したかったんだが、俺が魔物と戦うのは全体的に余裕があるときだけ。ジーナって結構過保護でした。まる。

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