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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
3章

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3-2

「ただいま帰りました、お祖母様」

「元気そうだね、ジーナ。収穫は……あったようだね」

「はい。こちらがディグ。新しい砦や村の開拓に協力してくれます。あちらがダグ。護衛と魔物討伐をしてくれます」

「「よろしくお願いします。辺境伯」」

「そうかしこまらなくても良い。開拓の手伝いとなれば、数年の付き合いとなろう。

 それに、今は祖母として、孫娘に会っているのだから」


 それまでの孫を慈しむ祖母の表情から一転、貴族の顔で『北の魔女』ことドリアーナ辺境伯、『乾燥』マティーは寛大な態度で声をかけてきた。

 見た目は品の良い初老の女性。動きから何から極々自然体。なのに、思わず平伏しそうなほどの圧。これが、一代で平民から辺境伯まで上り詰めた、伝説の偉人。とても戦えるようには見えないが、北部を荒らすドラゴンを退治し、いくつもの迷宮を単独で攻略した化け物。

 その強さからか、それとも憧れか、あのダグが滅茶苦茶に緊張していて、部屋に入るときには右手と右足が一緒に出ていた。思わず二度見してしまったほどだ。俺だって緊張してはいるが、それは相手が貴族家の当主だから。根っからの平民の俺には、下級だろうが上級だろうが貴族は貴族。怖いし、緊張する。

 権力者との相対なんてやりたくないし、ガラでもないが、ジーナの護衛を受けた冒険者として依頼達成に必要だからここにいる。そういえば、ジーナも貴族なんだよな。直系の孫だし。長らく旅をしたし、そもそもそんな雰囲気がないから気にしなかったんだが、本物の貴族に会ってみると、冒険者ギルドのマスターや魔術学院の院長先生の何倍も威厳?がある。気がする。

 威厳を具体的に表現できないからそれが正しいのかわからないけれど、ぶっちゃけるならなんだかすげぇって感じる。これが、伝説になった辺境伯か。

 目の前のマティー老の表情は柔らかく、目線も鋭くはないが、全てを見透かされている気がする。


「ジーナ。正式な帰還の報告は明日、10時から大広間で。

 今は、私に旅の話をしてちょうだいな。どんな楽しい旅だったの?半年以上会わなかったのだから、たくさんのお話をしましょう」

「はい。お祖母様。

 まずは、雪が解けてこの都から出発したところから……」




 ジーナの行商は、俺の知っている行商に比べれば、かなり優遇されていた。まあ、現役で貴族家の一員だから当然だろうけれど、各関所や街の出入りなど、本来なら時間がかかる部分は素通り。仕入れだって、大店と直接のやり取りができたり、街を統治する貴族家に便宜を図ってもらったり。その分、外交的なやり取りや余分なお土産代なんかがかかっているんだろうけれど、つながりを作ると考えれば必要経費に過ぎない。そもそも、交易のために持って行った荷物は辺境伯領で産出される物であり、自前のため購入費用は通常と比べ物にならない。

 王都までの安全確保もばっちりだ。王都の辺境伯邸に常駐する騎士団員の入れ替えもあり、彼らと着かず離れずのお気楽旅。勇気を出して襲い掛かる盗賊も、血迷って現れる魔物もいない旅程だったそうだ。馬車はさすがに行商人っぽい仕様だったので、一番のネックは路面の悪さだとさんざん言っていたので、本当に楽な行程だったのだろう。

 王都では、予定通り貧民街で村人を募集し、希望した全員を辺境伯邸などで“常識”の教育。まあ、まだまだ開拓のかの字も始まっていない状態で北の地へ来てもらっても困るし、あちらでトラブルを起こされても困る。村人が覚えていると助かる技能――農作業や簡単な木工作、北の地の常識など――もあるから、どこかで教えた方が開拓の成功率は高くなる。経費としてみれば、上位貴族からしたら百人に満たない平民を短期間抱え込むことくらい訳ないのだろう。が、ちょっともやっとする。

 ちなみに、“常識”の教育方法も貴族らしい……というか、普通じゃ無理な方法だった。最初は普通の食事と風呂や治療を与え、きちんと従う者には恩恵があることを示す。教師は手が空いている使用人や兵士。武器の扱い方や罠の作り方、獲物の解体も実地で教える。普通、入植者にはここまで手厚くはしないが、領主の一族であるジーナが関係している開拓地だし、ある程度の開拓準備ができるまで時間もあるからだろう。

 自ら入植を希望したものばかりだから、貧民とは言えむやみに反抗的だったり、非常識なことはしなかったようだった。そもそも、屋敷に併設されている訓練場で日頃から騎士が厳しい訓練を繰り広げている。それを見たうえで反抗するような奴は、そもそも入植を希望しないらしい。もちろん、対処に困るような人物は処分すると伝えてあることも原因だろうけど。こちらもちなみに、入植後に色々やらかした場合は、村追放である。冬に。一晩も持たないとのこと。

 なんと言うか、俺の知っている開拓とはかなり違う。最初はテント暮らしをしつつ木を切り倒し、土を起こして畑にする。いくつかの家ができたら柵が設置されて村になる。そんな開拓は、北では無理らしい。どんなに厚くしてもテントでここの冬は越せない。だから、別に定住地を持ったうえで、数年かけてある程度の施設を作り、一度に入植する。その為にも、堀や水路、畑や道が作れるようになった俺がいることは重要とのこと。見込み違いだったら数年は計画が変わったと言われると、魔術師にはなれなかった俺だけど少々誇らしい。

 今回の開拓地は防衛設備――魔術師ジーナ――が充実していることもあり、成功が約束されているレベルの開拓とされている。プレッシャーがなくもないが、故郷の発展にもつながるしな。


 閑話休題


 西部に訪れた際の話は、俺も当事者だからわかっていると思ったけれど、裏で領地を治める貴族達と色々と交渉したりしてたんだと驚いた。つーか、俺とダグに聞かせて良いの?ってレベルの話だと思うんだが。

 交易は、北部の高品質の武器などを王都で売り、植物の苗や種を北へ帰る騎士団に託す。残金で農具や行商に相応しい物を買いあさった。それが全て西部の大地を富ませるために使われた。交易での利益などほぼなく、移動にかかる経費分赤字だったようだ。しかし、それ以上の成果を彼女は得ている。西部の生産力が上がれば、その分多くの食料が北の地へと運ばれる契約だからだ。

 西部に足を踏み入れてからは半分以上知っている話だったが、知らなかったことも多くて、勉強にもなった。

 ……北の地へと向かう旅?あまり思い出したくもないな。

 延々と道を作る旅だったなぁ。

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