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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
第2章

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32/97

閑話

 練魔をしているうちにディグは寝てしまった。規則正しい寝息が聞こえてくる。これからが旅の本番。まだ彼の故郷にすらたどり着いていないが、いつもと状況が違っても問題なく寝られることは、冒険者としては正しい姿だ。

 一人前として扱われる年齢にはなっているとはいえ、まだまだ幼さが見え隠れ。そこがまた可愛く感じる。


「思ったよりも疲れたようだね。顔色が悪い。寝顔は可愛いが、心配だな」

「森の中での動きは良かった。最後には、筋が良いとここの狩人にも褒められていたな。剣の振りにも迷いがない。今は緊張でわかっていないが、一息ついたら疲れが表に出るだろう。が、問題はないな。

 村長には狩人から報告してある。俺達はただゴブリンを倒しただけだからな。初めて入る森だ。どこが異常かなんてわからない。が、彼が問題ないと言っていたのだから大丈夫なのだろう。

 次の関門は、盗賊だな」

「山の手前。時々この辺りにも出るらしい。実力はないが、数が問題だね。

 弓矢対策で風の守りが欠かせなくなる。魔術での索敵範囲が落ちるから気を付けてほしい」

「承知した。だが、旅の途中でも狩れるなら魔物を狩らせたいな。盗賊の前に数をこなさないと意味がないだろう。

 野営などの知識はどうだ?旅の間に色々と教えていただろう?」

「まだまだね。当面は一人旅をさせたいとはおもわないね。ただ、飲み込みは悪くない。自分に必要な知識だって自覚してるからだろうね。熱心に学んでいるよ。

 彼が疲れているのもあるけど、明日はこの村内の整備作業をする予定さ。君は、どうする?」

「見回りしても大して意味はない。ゴブリンすらいない森だ。ディグを鍛える方がよっぽど意味がある」

「止めてくれ。明日は整備だと言っただろう。魔術を使わせるんだ」

「ならば、魔術の休憩中に訓練をしよう。ほどよい疲労感でも動けないと、いざというときが乗り越えられない」

「……ほどほどにしておいてくれ」

「ジーナもほどほどにな。あんたが俺達のリーダーなんだから」

「ここが、無理のしどきさ。西の村を回っている間に、どこまでディグを成長させられるかで未来が決まる。私達の幸せな未来のために!」

「……あいつの気持ちも大切にしてもらいたいな。あれでも大切な相棒なんでな」

「もちろんさ。当然じゃないか」


 ダグが、本気で疑問の眼差しを向けてくる。が、そんなもの、毛の先ほども効かない。もっと鋭いまなざしも、プレッシャーもたくさん受けてきた。まだまだ彼も色々と足りていないな。それに、本当にディグのためを思っているのだから。

 それにしても、本当にディグのことを案じているのは不思議だ。彼の血から言って、強くなること以外はかなり割り切ることができる性格のはずなのに。彼の父親も、情に厚いが、必要であれば身内ですら切り捨てる人物――物理的にも、精神的にも――である。剣狂いのジャスター家。その当主筋の同年代で、才なしと放逐された少年。情報が正しければ、それが目の前にいる人物のはず。

 しかし、冷徹に、剣のことしか考えないジャスター家には珍しく、比較的まともな性格だし、剣の腕も同年代では一歩か二歩抜け出ている。ディグはなかなかに、人との出会いの才に恵まれたようだ。これは、領主になると重要な才でもある。土魔術の適性があったにもかかわらず、基本的な生活魔術以外には『穴掘り』しかできなかった彼だが、巡り合わせは良いみたい。ますます欲しくなった。


「……北は何を考えているんだか」

「簡単さ。迷宮を攻略し、北の地を栄えさせる。それが、初代、いや、はるか昔からの北方人の願いなんだ。なんど潰されようと、必ず達成させる」

「今ですら過剰なほどの戦力があるがな。ドリアーナ家を抜いても、名の通った冒険者や騎士があふれんばかり」

「それだけ戦い続けなければいけない過酷な地だということさ。だから、少しでも皆を楽にするために交易も、開拓も推進している。私のこれも、その一環だ」

「北部は今でも国を亡ぼせるだけの力を持っているんだ。余計な疑惑を掻き立てるようなことはしない方が良い」

「はっ。笑止!

 一度は滅んだ北部をよみがえらせ、竜の谷と協定を結び、数々の迷宮を制覇した祖母は言うに及ばず、北部の上位層は龍と戦えるものが複数いる。国内の魔術師をまとめようとも龍どころか中位竜ですら討伐に死者が出る今の状況では、心配するだけ損だぞ。北部がその気になれば一月と経たずに国は亡びる。なぜそれをしないかと問われれば、北部の悲願は北を安息の地にすることだからだ。バカげた難癖など知ったことか。

 宮廷雀達も余計なことに気を回している暇があるなら、もっとするべきことがあるだろうに」

「それを公言するから目の敵にされるんだろうが」

「それを言うなら、そちらはどうなんだ?“東の第一剣”ジャスターの跡継ぎよ。

 戦場がなければ国を相手に戦うとすら公言している剣狂いの一族も、貴族界隈では肩身が狭かろうに」

「……それこそ、知ったことかっ。放り出された俺にはどうでも良い話だ」


 まあ、それぞれに事情がある。これ以上深くは聞くまい。

 それにしても、今のこの国は、あまりに戦力が足りていない。未踏破の迷宮は多く、深き森の中で人知れず暴走や崩壊を繰り返している迷宮だってたくさんあるはずだ。無駄に国内で人間同士が争っている場合ではないのに。


「竜の谷と相互不可侵の約定を結んだお祖母様は、元気ではあるけれどいつまでもいるわけじゃない。いつまでもこの平穏が無条件で続くなんて夢みたいなことを本気で考えている馬鹿が多すぎる」

「人は、目の前に危機が迫らないと実感できないからな。気付けずに戦場に散った血族はたくさんいる。

 ……で、平穏への対策が、このディグか」

「ふっ。見る目がないわね。純粋な恋心よ」

「彼の魔術を活用すれば人の領域を増やすことは容易いかもしれんが、強大な魔物相手は難しかろう」

「無視か!

 まあ、良いわ。ディグはね、お祖母様によく似ているの。魔術の適性はあっても、使える魔術はほぼなく、それでも腐らず、若くして無詠唱に達し、さまざまな事象を単一の魔術で行う。まだまだ未熟ではあるものの、将来性は限りないわ」

「かなりの評価だな。『北の星』『賢者の後継者』、『飽くなき魔術の探求者』ジーナ・ドリアーナがそこまで言うとは」

「もちろん、お祖母様の域まで達するとは限らない、いえ、無理かもしれないわ。あの方は『乾燥』だけで火を熾し、水を生み、風を起こし、ドラゴンのブレスを遮り、首をはねる」

「なんだ最後のは。非常識にもほどがある」

「それなのに、呪文化すらせず、ただの『乾燥』のみを駆使する。単一の魔術に最も長けた人物。

 理解不能。故に『北の魔女』」

「……はぁ。それに連なる一族にこいつをねぇ。ディグは良い人間だが、良い支配者に成れるとは思えないがな」

「ふふっ。まあ、新しく広く開拓するのだもの、村長ならまだしも、領主には血族を置くわよ。もちろん、万事私が賢妻として万全のサポートをするわ」

「お前の、その思いが、真実であることを、心から、くそったれな神に、祈るぞ」

「はっ。神頼みなど這い這いと共に卒業したよ」


 来たるべき輝かしい未来。そのためにも、今回の交易は成功させなくては。西への交易路は新たな領地の売りになりうるし、いざという時の生命線でもある。今回切り拓く山道にも、将来的には砦が必要だ。やるべきことはいくらでもある。

 やりぬいて見せる。穏やかな寝顔の彼との幸せな将来のために。

これで2章が終了となります。

3章開始までしばらくお待ちください。

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