2-16
「この辺りで良いか。よっと。
……げっ。かってぇなぁ、ここ」
宿泊場所の裏庭を足で蹴り掘ってみれば、硬く締まっていて逆に足先が痛くなった。硬いなんてもんじゃない。こりゃ、草も生えんわ。逆に考えていたことが試せるからありがたいが……痛みが引くまでちょっと待っててほしい。……ふぅ。
さて。
『穴掘り』について、改めて考える。俺の認識では、あれは、土系の物をその場所からどかす魔術だ。それは、幾度となく掘ってきた体感で、間違っていないことはわかっている。堀の掃除にも使えるんだから間違いない。
でも、たぶん、決してそれだけじゃない。
なにせ、この旅で新しくわかったことも、それで出てきた疑問もいくつかある。その辺りは後でまとめるとして、順に紐解いていこう。
まず、柔らかい地面、硬い地面、砂利道、石畳、岩が削れた道。どれも土系の素材でできた道だけど、掘りやすい順番がこれ。つまり、素材の……たぶん、硬さによって掘りやすさが違う。だから、今回の沼はとても掘りやすかったんだ。
ちなみに、掘りやすさってのは、体積、穴と自分との距離、土を飛ばす距離などの変えやすさかな。まあ、硬いと難しくなるってのは、思った通りに掘れないって感じかな?そもそも、硬いとほとんど掘れなくなるし。土を周りに押すように掘るときは、周りの地面の硬さも重要だね。
何も考えないと、基本、同じ場所に掘るなら同じ穴になる……はずなんだけど、正確にはちょっと違う。微妙な差、ちょっと幅や深さに微妙な差がとか、土の飛んできた位置が少しだけズレるとかある。まったく同じ条件の場所を掘ることなんてできないからそれが理由かとも思ったりするけど、それ以外にもさっきの地面内の素材の差――どれだけ大きな石が含まれていたか、とか――や、消費魔力や魔術の精度のほんの微妙な差が関係していると言われているね。
ちょっと考えただけでもこれだけの要素があるんだけど、それ以外にも、地面内の素材の差――土系素材以外――ってのがかなり重要だって俺は考えている。地面内の素材って、砂?石?泥?土?いや、それだけじゃない。ミミズや昆虫の類。地表の草だけじゃなくてその根っこ。純粋なる土属性以外の物も地中にはたくさんある。それらを、特に選別せずにすべて除ける。だから、地面の下がどうなっているかも、結構重要だ。その辺りの差が、消費魔力や掘りやすさにつながっているんだろう。
水路の泥を取っていた時、ほんの少しだけ消費魔力が多かったから、水や火などがある場所で穴を掘るならそこも注意しなければならない。多分、土の中で掘る――土管を作るイメージ――のも魔力を結構使うはずだ。まあ、つまり、基本となる穴掘りから少し外れると、そこで余計に魔力を消費するってことだ。
その辺りを考えつつ、掘るってことから離れない範囲でできることを考え、試してみる。ま、これはできると思っているんだけど。
「普通に掘ったらあれだけど、えっと『穴掘り』……うーん、成、功、かな?
でも、もう少し深く、もっと混ぜないとダメか。でも、生えてた草は中に鋤き込めたか。この調子でやってみよう」
『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』
おっと、最後のは深く掘りすぎだ。狭すぎて効率が悪い。
今練習しているのは、『穴掘り』を活用した畑作りだ。畑仕事で大変なのは、草取りや水やり、収穫や種まき。そして土起こし。俺の『穴掘り』
を活用して、土起こしを試している。作物が実りやすいように土を柔らかくするんだが、これがまた重労働。冬に硬くなった土を種まきの前に堀っ返すのはなかなかに力がいる。今やったのは簡単に言えば、掘った土を掘った穴の上に戻す『穴掘り』。その際に、土を混ぜることを意識した『穴掘り』――成功すれば、『畑』って呪文化したいな――で、普通は大変な土起こしをしようと思っている。
うーん。何度か使ってみると、わざわざ呪文化するほどのことじゃないな。単純に普通の『穴掘り』を使う時にまんべんなく土を混ぜる感じで掘るだけだ。これなら、水路の掃除に使っている『穴掘り』の方が、泥が水の中を通る分、よっぽど魔力を消費するし、難しいので呪文化に適している。まあ、そっちも実質は普通の『穴掘り』だから呪文化する意味は全くないけれど。
このままなら、水路掃除と同じで呪文化しない方向かな?何かヒントがないかと考えながら、耕した部分を歩いてみる。……深く掘った方が柔らかいというか足が深くまで埋まるな。ちょっとだけ他よりも盛り上がっているのは、土がふんわりしているからだろう。これなら、肥料の混ぜ込みも簡単にできそうだ。
肥料の作り方は知らないけれど、開拓村に行く人間でちゃんとその辺りの知識持っている人がいるんだろうか。ジーナに任せておけば問題ないだろうけれど、心配だから後で聞いてみようか。
「いてっ……なんだ?石?
ああ、石が混ざってたのか。当たり前だよな……って、これ使えるかも」
土の中に混ざっていた石を踏んでしまった。思いのほか痛い。それで思いついたんだけど、穴を掘ったときに土を除く要領で、ある程度の大きさ以上の石だけ横に出し、土は混ぜることができたら、まさに『畑』って呪文化する意味も必要性もでるんじゃないかな。異物の取り分け自体は、かなり応用も効きそうだし。試してみるだけの価値はある。
まずは、石だけ取り出してみるか。『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』……十回もすると思ったように石だけを出すことができた。今までよりも『穴掘り』の技術が上がったかな。次は、土を混ぜながらだけど、石を選り分けることができるならこっちは簡単。大きい石だけを選り分ける意識で『穴掘り』をしつつ、掘った土は混ぜる意識で、よしっ一発成功!
石以外のは後で挑戦するとして、この呪文化を……いや、今やる必要はないか。どうせ明日には見渡す限りの荒野を畑に変えるんだ。今やるべきは、煉瓦作成と精密化。そうすれば、もっとできることが増えるってジーナが言ってたし。
そのためにも、今は煉瓦を作ろう。
暗くなるまで煉瓦を作ってみた物の、呪文化どころか問題なく使えるレベルの煉瓦にはならず。ただ、作った煉瓦に『穴掘り』をすることで、元の土に戻せるようになった。煉瓦にする土がなくなって試してみたら簡単にできたんだよ。他にどんな活用方法があるかは思いつかないけれど、少なくとも少量の土があれば繰り返し煉瓦作成の練習できるようになったことだけは確か。こいつが今日一番の収穫かも。
明日は畑の土起こし。それが終われば煉瓦をもう一度作ってちょっと道を整備すれば滞在も終わり。北へ旅立つことになる。……次にみんなに会えるのはいつになるやら。




