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残っていた泥から煉瓦を作ってみたんだが、なかなか難しい。なんか歪んでる……って、もしかしたら道も歪んでたりするのか?はぁ。それはあとでジーナに相談するか。
足元の煉瓦を拾ってジーナに手渡すと、呆れたように質問された。
「呪文化……は知らないか、当り前ね。ディグ、覚えましょ」
「自分だけで納得せずに教えてくれ」
「応用魔術の一つ、呪文化。読んで字のごとく、複数の魔術を組み合わせて、一つの魔術にすることよ。魔術単体は、基本的に威力や範囲が決まっているでしょ?それを組み合わせることでオリジナリティを出すのが魔術師の魔術。
だから、複雑な魔術なら結構融通を利かせられる魔術師は多いんだけど、単純な魔術になればなるほど均一化しているわけ。簡単な効果を得るために複数の魔術を行使すると、効果に対する消費魔力が馬鹿にならないの。慣れないと、それぞれ使った時よりも消費魔力量が三割程度増えるから。もちろん、習熟による効果範囲の変更なら話は別だけれど、それでも限度はある。
そして、それが貴方の『穴掘り』をすごいと評価する理由でもある。そもそも習熟による範囲変更が基本だから、威力や範囲を変えてもほとんど消費魔力が変わらない。さらに、基礎的魔術だから組み合わせたって、消費魔力はたかが知れている。君の魔術には無限の可能性がある」
「これがねぇ……」
いくつもある基礎的な魔術を全部俺レベルで使えるように練習するとなると……まあ、3年じゃどうやっても時間が足りない。一つの呪文に1年はかかるからな。いくら才能あふれる魔術師の皆さんでも半年は必要だろう。それなら、応用魔術を習った方が良いわけだ。しかも、そっちも習熟するためにはある程度、時間も魔力も必要になる。どっちが魔術師としてすごくなるかと言えば、まあ、応用魔術だろうな。
考えていたよりも、魔術師って大変なんだな。んで、組み合わせで魔術を作れるなら、そりゃ百でも千でも問題ないわな。
でもまあ、練魔しかり、呪文化しかり、応用魔術は複数属性を問題なく使えなくても大丈夫ってのは驚きだ。それなら先に教えてくれよって思うが、学院の設立目的の一つは、魔術が使える人間を増やすこと。迷宮の攻略や魔物対策だけではなく、生活魔術など、魔術の恩恵は至る所に及ぶ。これを広め、生活を豊かにすることが学院設立者の願いなのだ。
そんなことを考えている俺の前で、ジーナは手渡された煉瓦を叩いたり、横から眺めたりと非常に熱心に観察している。ある程度見て満足したのか、なかなかな笑顔で俺にダメ出しをしてきた。
「歪だね。硬さは良いんだが、もう少し練習しないとダメだな。この調子だと、道も少し歪んでいるかもね。まあ、ここまでくる間に大きな歪みなどは感じなかったから、近くで観察しない限り問題ないとは思うけどね。
呪文化できたらもう少し奇麗な形になるかもね」
「そうか?」
「一度に全方向から圧縮すれば良いのさ。そうすれば、歪みにくくなるだろう。
そうそう、呪文化の方法だったね。これは簡単。自分なりの呪文を考えて、最初はそれを心の中で唱えながら魔術を使う。何度か繰り返したら、今度はその呪文を唱えながら魔術を使う。成功したら、それが呪文化さ!」
「……魔術の複数同時発動と無詠唱の組み合わせじゃないか、それ?」
「詠唱省略は既にできているだろ?なら、後は心の中で呪文を唱えながら発動させる練習と、同時に発動させる練習だけさ!」
「そんなん、すぐできるか!できるなら魔術師になってる!……はぁ、戻ったら裏庭の土を使って練習するよ」
「そ、そうか。……うむ。が、頑張ってくれ」
内容の困難さに落ち込んだ俺を見て慌てたのか、ジーナが挙動不審になった。まったく。できる人間は、できない人間に対する理解ってのが足りない。呪文化に必要な複数同時発動について詳しく聞けば、複合魔術が一番の練習になるんだとか。複数の属性をかけ合わせる感覚を突き詰めていくと同時発動によく似ているとのこと。
ただ、最近の学説では、各属性の魔術も大半は基礎的な魔術の組み合わせで構成されており、そこを突き詰めて同時発動に成功する者もいるんだとか。ま、基礎的魔術の『穴掘り』しかできない俺には関係ないと思うが。
閑話休題。
ジーナの魔力も余裕がなくなったし、積めるだけの煉瓦も積んだ。一度戻ろう。そうして、ダグは護衛として煉瓦運びの往復、ジーナは魔力を回復させつつ商売、俺は訓練だな。煉瓦作りもそうだけど、ちょっと考えていることがあるんだ。
その辺りを相談しつつ、短い馬車旅。せっかくなので、御者の練習もさせてもらう。年齢がそんなに違わないのに、ジーナの万能ぶりを見ていると、もっとなんかやらないといけない気になるのだ。できるに越したことはない。
行きで安全が確認されていたからこそできることだ。ジーナの護衛のはずが、周りを見る余裕は一切ナッシング。動物って難しいのな。
四苦八苦しながら御者をし――結局は半分以上ジーナが操ったが――なんとか村に帰ってきた。馬がいるこちらは、あらかじめ打ち合わせしてあった設置場所のうち、一番遠い所に煉瓦を下ろした。今回運んだ分どころか、今回作った煉瓦を全部使ったって、例え一段だとしても村を囲むことは無理だ。全然足りない。だから、森と道を重点的に守るための壁を建設することにしたのだ。とりあえず、重要なところから防御力を上げていく作戦だ。
今日はすでに午後なので、村人相手に大々的に商売するのじゃなくて、専門的な道具類を村長に売る。具体的には、防衛のための剣や盾、廉価品の弓矢、木材を大きく加工する際に使う斧などの大型鉄器。まあ、個人じゃ買いにくい村の共有物だな。大き目な村の専門家なら個人所有の道具もあるんだろうが、こんな辺境じゃあるわけない。
必要性も、買う金もだ。
個人どころか、村単位でもうちでは難しい所なんだが、今回の開拓の恩プラス、これらの大幅割引を持って、今後増える農作物の優先購入権が対価になっている。まあ、先を見た商売ってことだ。
これで、村のみんなに売る必需品を除くと、この村から馬車で運ぶ物のほとんどは穀物類と、多種多様な種や苗だけとなる。北へのお土産だ。




