2-14
「ほらほら。どんどん積み込め」
「もう荷車がいっぱいだよぉ」
「じゃあ、馬車まで運んで積み替えろ」
「へいへい」
「ジャルが解体したビッグフロッグも忘れるなよ」
「毒持ちはどうすんだ。そっちの袋に入ってるだろ?」
「混ざると困るからこちらは後で良い。ほら、早くしねぇと煉瓦が山になるぞ」
「……おーいティー坊。嬢ちゃん。少しは加減しろや」
「馬鹿言ってないで行くぞ」
道の周りが少し湿り始めてから10分。沼地の中に入ったのかビッグフロッグに襲われた。まあ、一瞬でダグが切り捨てたんだが。ちょうど良いからって、そこで遠くから土を掘り寄せ小山にする作業に入った。それ自体は難しくないからどんどんできるんだが、同じ魔力消費でできるだけ多く、できるだけ遠くからって感じの訓練だと考えて、色々と試してみた。工夫によって自分の成長が理解できるから、こういう時間はちょっと楽しい。
俺の横では、ジーナが小山に魔術をかけていく。人の背丈ほどの小山が、みるみるうちに膝丈に積まれた四角い煉瓦へと早変わり。それを手伝いに来た村長以下4名が荷車と馬車に積み込んでいく。
ダグと狩人のおっちゃんはビッグフロッグの処理。飛びついての圧し掛かりと舌伸ばしくらいしか攻撃方法がないから、どちらも苦戦なんてしちゃいない。ときどき現れるポイズンフロッグは、下手に射抜いて毒液が撒き散らされるのも困るので、丁寧にダグが斬り分けていた。見た目ほとんど変わらないのに、あの状況でよくわかるなって感心する。
「ディグ。いくつか道を作って奥の方まで掘り上げるつもりだから、地面を一部残しておいてほしいな」
「必要な時に、底の土で道を作るから大丈夫だよ。計画では大きな池にするんだろ。
それよりも、ジーナの魔力は問題ないのかい?『穴掘り』だけ使っている俺と違って、消費魔力が多いだろ?」
「問題ない。君と違って、練魔に怠りはないからね。自分の魔力量も把握している」
「それなら良いや。この先も結構ジーナ頼りなんだからやりすぎないようにな」
「私が計画したことだからね。それにしてもダグはすごいね。剣閃も鮮やかだし余裕がある。実戦だからかな、訓練の時とは大きく違うね」
「非常識な能力だよな。解体の手間もかなり少なくなりそうな斬り方してる」
「旅の間にちょこちょこ見たが、実戦をじっくり見るのは初めてかも。さすがの強さだな」
「攻撃を全部避けきったお前が何言ってんだ」
「たった一カ月前だけど、あの時とは実力が大きく違う。今までも森に討伐に入っていたようだけど、旅の間に著しい成長をしている。
今までは一人で森に入り戦いをしていたのが、君を守ったり、狩人に学んだ成果だろう」
「そんな短期間で強くなるなんてなぁ」
俺は結構訓練漬けの日々を送ってきたと思うんだが、それでも半年でやっとゴブリンと問題なく戦えるようになった程度。半年の旅と実戦を経験したけれど、実力の向上は、まあお察し。ダグとの差は、それまでの基礎か才能か……考えても仕方ないな。よくよく考えたら俺、剣士じゃないし。
魔術剣士としての腕前?聞くなよ。歩きながらがやっとなのに、戦いながら『穴掘り』なんてできないよ。他の魔術ならまだしも、足元を崩す俺の魔術じゃ動きながら使えないとあまり意味がない。剣の実力もさることながら、魔術の実力でも、魔術剣士としては初心者にもなってない。
「おーい。そろそろ荷車も馬車も一杯じゃぞ。どうするね?」
「そうですね……この後も予定は詰まってますから……ディグ、ここに土の山を作れる?数は、10」
「さっきまで作っていたサイズで良いのか?置く場所もばらけさせるなら、問題なくできる」
「もう少し大きめで。具体的には、1回で荷車がいっぱいになるくらいね」
「まあ、『穴掘り』1回余分にするだけだから問題ないよ。10で良いのかい?」
「私の魔力残量からするとそれくらいかな。何があるかわからないから余裕を持たせたいし」
「了解」
ジーナが目論んでいるのは、俺とジーナが村内で作業している時に、ダグを警備につけて追加の煉瓦を運ぶ計画だ。そのためにも、できるかぎり遠い場所から土を集める。それにしても、ここの沼地は広いな。この先は川になっていて、沼地から湧き出した水がそのまま流れてると言う。
そこの土をこちらで使わせてもらいつつ、大きな湖を作る計画なわけだ。沼地も少しは残すが、基本は湖にする。村長の話だと、沼からは特に有用な素材が採取できないため、なくても特に困らないってことなので、できる限り活用するのだ。
泥は煉瓦として、村の強化に使う。今いるフロッグ系は素材や食料として活用。跡地は湖として、魚と獣の憩いの場にして狩場にする。得られる結果は、辺境だってことを除いても村と言うには強大すぎる、村だ。
ジーナが言うには、ここにはそれが必要だとのこと。特に、魔物との境界である辺境には。
「まったく。中央だけでなく西も緩み切っている。こんなことでは迷宮崩壊でもあれば国が亡びるぞ」
「北の地が一度滅びたのが迷宮崩壊のせいだったっけ」
「山や森に迷宮が数多く存在していた北の地は、昔、毎年のように迷宮暴走が起こる地だった。そこを開拓したのが四百年以上前。それからは度重なる迷宮暴走を何度も潜り抜けてきた」
「……それが、たった1回の迷宮崩壊で壊滅したんだよな」
「悪夢のような事態だったと言われている。百年近くたち、魔物はびこる地となった北を開放したのがお祖母様。その功績から、北の地を領地として治めるようになったのだが……まあ、そこのところは後にしよう。重要なのは、魔物の脅威は忘れてはならないということだ。このような無防備に近い村など北ではありえん。
特に、迷宮がある山や深い森に接する辺境は、だ。そこの防備をまともにしないとは……」
「おーい。俺を北に誘ってるの忘れてます?」
「……だいじょうぶだもんだいない。
んっごほん。北の地は、最も辺境、開発地の端こそ防備を充実させる。だから、この村の無防備さが気になる」
「こちらでも開拓は大変なんだが、北の開拓は一味違うな」
「ええ。だからこそ、貴方の力が必要になる。
砦に備える大きな堀や水路、移動のための道、内部の村々にも堀は作りたいし、貯水のための湖や、迷宮攻略のために森の中を切り拓いて道を敷いても良い。君の魔術はとても応用が利くんだ。まだまだ可能になることはたくさんあるぞ」
「……魔術師のお前の方ができることが多いだろうに」
「確かに、火も出せれば、嵐も起こせるし、怪我を治すのも、結界を張ることもできる。だが、細かい応用はなかなかできないんだ。そこまで使い勝手の良い物ではないよ」
「合成魔術や応用魔術ができるだけでものすごいと思うけどな」
「『煉瓦生成』……ふぅ。このくらいか」
「すごいもんだな。一発で土山を煉瓦に変えた。今までも結構魔術使ってたのに、こんなことができるくらい余力があるなんて」
「君の魔力残量はどうだい?」
「今日は結構使ったから、半分程度だな。土山の十や二十は簡単に作れるぞ」
「なら、道作りの応用で、レンガもできないかい?全方向から圧縮する形で」
「試しに一個やってみるか『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』『穴掘り』」




