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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
第2章

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2-3

 柵のこちら側は人の場所。草原は獣の領域。そして、森は魔物の住処。よく、村で聞かされた話だった。冒険者になったとき、いつかは踏み入ろうと思っていたが、こんな状態になるとは思ってもいなかった。

 先導と保護者付とは!


「無理に通ると枝が折れる。余計な力が入ると足跡がつく」

「そこの草は、薬草の一種だな。腹下しによく効く。若葉の先端のみを使うので、注意すること。ちなみに、隣のよく似た草は食べると腹を下す。

 あ、あの蔓は乾燥しているとロープとして優秀だ。蔓に生る実は炒ると美味い」

「この足跡は兎。あそこにあるのが狐の糞。あの実は尾長鳥の好物」

「根っこに気を付けるのは当然だが、実は木の葉が厄介だ。湿れば滑るし、乾けば音がする。地面を柔らかく覆い隠し、天然の落とし穴すら作り出す。獣の足跡などを参考にすると最初はわかりやすい」

「ダグ。何が森を知らないだ。狩人のおっちゃんと同じくらいに色々知ってるじゃねぇか」

「戦うこと。喰える野草についてはそれなりに説明できる」


 言われて思い起こせば、確かにダグは野草とかについてしか言ってない。森の歩き方、痕跡の探し方、印からわかることなどをぶっきらぼうだが丁寧に説明してくれるのは村の狩人だ。

 それにしても、自分の村の狩人はここまで丁寧に教えたり、同行なんて許してくれなかった。ここと比べると数倍は大きい森で、危険な魔物もいたって話だからな。だから、森の深くまで入れるのは村では狩人だけ。後は、討伐依頼に来た冒険者くらいだ。

 そう考えると、ここの狩人は森に入るのを軽く了承してくれたし、そもそも村長が簡単に許可してくれた。これは森の大きさが原因だろうか。

 ちょっとした日当たりの良い空間があったので、そこで一休み。慣れない森は神経と体力を思いの外消費する。こまめな休憩が必要らしい。


「そこの剣士は筋が良い。続けていけば、早晩、森を難なく歩ける。

 坊主の方はもう少しかかるだろうが、悪くはない」

「村の出だからな。森は近かったし、話にゃ聞いてた。入ったことはないが」

「そうか。

 ……深い森なのだろう」

「どういう意味だ?」

「この森はさほど広くない。だから、やっかいな獣もおかしな毒草もない。狩るべき獲物は制限され、村人は気軽に森へと入る。深い森は危険だからみだりに入らせない」

「……だからか。歩きやすい森だと思っていたんだが、人の手が入っていたんだな」

「この森を管理してるってことか?できんのかそんなこと」

「間伐と見回り。人が森にできるのはそれだけだ」

「その見回りで見つけたんだな。場所の予想は?」

「縄張りから出ないはずの獣が逃げるように移動した跡が目立った。逆にたどっていったらゴブリンらしい影を見たんで戻って村に伝えた。

 その奥の崖に穴がある。数人が雨宿りできる程度だが、小勢のゴブリンには丁度良いだろう。後2時間ほどだ」

「目星もついてるなら楽だな。では、ディグ。

 実戦練習の時間だぞ」


 イザってなると緊張するな。

 それが、最初の感想だった。ここから2時間となると、次の休憩をする余裕はない。あまりに巣に近すぎる。この先は疲れない程度のペースで進むしかない。

 ……ふぅ。大丈夫。獣は何度か狩った。命を奪うことには少しは慣れた。ただ、命のやり取りには慣れてない。こちらを積極的に襲うような獣や魔物とは相対していないからだ。そのことが今回のこの討伐になっているのは理解している。考え込んでも仕方ない。自分はできる。そう思うしかない。

 呼吸を落ち着けると、こちらを見ていた狩人と目が合う。


「魔物は初めてか?」

「獣は何度か。だけど、魔物とやり合ったことはないよ。

 大物もないな。鳥とか兎が精々」

「……これは狩りだ」

「……まあ、ゴブリン狩りだよな」

「違う。狩人にとって狩りとは、お互いが知力を尽くして戦うことだ。無力に見える兎ですら、時に危険な獣や魔物の領域にまで狩人を誘い込み殺す。自らを囮にしてでもだ。

 死にたくなければ殺すことに躊躇しないことだ。魔物はためらわない。角兎ですら、人を見れば襲い掛かってくる」

「盗賊と同じだな」

「そうだ。ためらいは、己だけでなく、近しい人も殺す」


 辺境の村は、大抵獣や魔物に襲撃されたことがある。だから、堀やら柵やらで身を守り、時には森狩りなんかをして、安全を確保している。

 そして、襲ってくるのはそれだけじゃない。自分たちと同じ人間の場合もある。悪名高き、盗賊たちだ。

 襲ってくる彼らに対し、ためらわないこと。それは幼いころから教えられる。奴らを村人と同じ人間だと思わないこと。魔物と同じく、村に侵入してくれば暴虐の限りを尽くし、時には姦計を用いて村を滅ぼす。一見話が通じるところがまたやっかいだ。捕まえても口先だけで惑わせようとする。

 だから、田舎では盗賊は運が良くて縛り首だ。

 都会なら犯罪奴隷として売ることもできるだろうが、そこまで運ぶ手がない。大き目の商隊が来るならそれに売れば良いが、大抵はそんな手間はかけない。盗賊に恨みを持つ者が村に居れば、嬲り殺される。親戚が、友人が、知人が殺された者など掃いて捨てるほどいるのだから。魔物が出る森が近ければ、囮餌だ。生きたまま魔物に喰われている間に討伐するのだ。

 幸いなことに俺の村や近隣では見たことないが、そこかしこにいるのは知っているし、盗賊に対して躊躇うって気持ちを持ったこたぁない。ゴブリンは見たことないが、それと同じと考えりゃ……いや、そこは大丈夫なんだって。

 殺し合いの覚悟はできてる。冒険者になろうって時どころか、村にいたころから盗賊や魔物について教わってるからな。ただ慣れてないから緊張するんだって。死にたくないって思いの表れだって言われれば言われるほど、余計に手足に力が入る。


「大丈夫だディグ。まずは一匹ずつ戦わせる。お前なら問題なく倒せるさ。最初は、他の奴は倒して、イザって時のフォローができるようにもする。

 複数相手はもっと慣れてからだ」

「……そこは信頼してる」

「任せろ!」

「……そろそろ出発しよう。帰るのが遅くなると困るだろう」

「……よしっ。やるぜ!」


 村にいた時と同じだ。ここでゴブリンと会ったら、こちらがなんて思おうとも向こうは殺しに来る。死にたくなければ倒すしかない。

 やるかやられるか。その二択なら、選ぶ必要なんてない。最初から決まっている。

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