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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
第2章

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2-2

「さて。ここで俺は何すれば良いんだ?この前の村みたいに堀の拡張かい?

 それとも、行商中のお前を護衛してれば良いのか?」

「大丈夫、村長には話をしたから私にちょっかいを出してくるような村人はいないさ。何かあっても軽くあしらえる。今のところディグにお願いしたいことはないさ。

 それよりも、ダグ。一つお願いがあるんだが」

「ゴブリンの話か?さっき村人が噂してたな。倒しても良いんだろう?」

「話が早い。こんな小さな森じゃ、ゴブリンが住み着いたら獣なんていなくなってしまう。村にとっては死活問題だが、なかなか、戦える村人は少ない。特に森に攻めていける人間は」

「防衛ならまだしも、森に攻め入るのは狩人でも難しいだろう」

「それらしい影を村の狩人が数日前に見たとのことだから、まだ数が少ないと思う。君なら森で魔物を狩るのも慣れているだろ?やってくれないかな」

「……ふむ。条件がある」


 ダグはそう言って、顔をこちらに向けた。何かあるのかと後ろを振り返ると、宿屋の壁。……おっと、あそこに毛羽立ちが、あっちは汚れか?ちょっと客があまり来ない村の宿屋とは言え、少しばかり汚くないか?まあ、村の堀を広げたり水路のヘドロを取ったりするだけでタダになるんだから文句はないが。

 二人からの熱い視線が後頭部を焼くので、仕方なしに前を向く。


「何か用かい?俺の仕事は穴掘りだと思うんだが」

「ゴブリンの経験は?」

「ゴブリンどころか、魔物は角兎すら未経験だ。獣も小さいのを狩ったことがあるくらいで、獲物はギルド持ち込み、解体は村では見てただけだな。

 ……そう考えると、冒険者としてはあれだな」

「まあ、まだFランク。街中の依頼をしているレベルだ。普通だろう」

「こうやって護衛依頼を受けているのがおかしいんだがな。そろそろ薬草摘みでもって思っちゃいたんだ。訓練が一区切りついたらって考えてたんだが……」

「丁度良い機会だね。ディグをゴブリン狩りに連れて行ってほしいんだ。森での歩き方も、索敵や罠なんかも教えてあげてほしい」

「……俺にもできないことはあるぞ」

「えっ?

 でも、ほら、一人でオークを狩っていたんだろ?ゴブリンの群れもお手の物だと聞いてるんだが」


 確かに、ダグは強い。オークぐらいは軽く狩るし、十匹程度ならゴブリンに囲まれたって無傷で切り抜ける。自己評価では、オーガも単体なら問題ないって言ってるほどだ。

 でも、それと、森の中で活動できるかってのは別問題だぜ、お嬢さん。敵を倒す能力と敵を見つける能力、自分を有利にする技能は別もんだ。こいつは、魔力があれば自分で何でもできる魔術師と一般人の常識の違いなのかもしれんな。

 あいつらは、オークやゴブリンの群れを狩れるだけの魔術を覚えてれば、他の魔術もきちんと使えるって考えるからな。誰でも、たくさんの魔術を使えるわけじゃないってのを知ってはいても、頭では理解していないからな。


「己の気配を殺すのはできるが、森を音もなく歩いたり、気付かせずに近寄ったりはしたことがないな。痕跡を探るのも苦手だ。周りの気配を探ることはできるが、森のことならこの村の狩人に教えを乞うた方が良いだろう。

 ゴブリンを見かけた付近まで案内してもらう都合もある。明日はディグを借りていくぞ」

「良いよ。この村は半年ほど前に堀を深くしてある。補強は私でも十分にできるだろう」

「おい!本人を無視して決めんな!」

「行かんのか?」

「……行く」


 ダグと飽きるほど訓練した。練習が大事と学院で叩き込まれたから……だけじゃない。正直に言えば、怖かったから。命懸けの戦いが。

 ちょっと前までただの農民だぞ?森の怖さは骨の髄まで叩っ込まれてる。怖くなんかないと嘯いて探索に出た悪ガキ。薪や薬草を取りに行って戻ってこなかった村人。森に慣れている狩人や、時には魔物を退治に来た冒険者が森に飲まれて居なくなったこともある。

 いくら訓練して剣が上手に操れるようになろうが、魔術が一つ器用に使えようが、森での魔物狩りには二の足を踏んじまう。だから、草原で狩りでもして、はぐれゴブリンでも倒して、慣れてからって思ってたんだが……ダグが護衛?について、狩人の案内があるなら別だ。そこまで恵まれた条件なんざそうそうない。

 解体も、まともにできねぇからきちんと教えてもらえると助かるな。


「暗くなる前に帰ってくること。それと、規模が大きそうなら一度戻ってきてほしい。集団戦は万全で行いたい。私だって戦力になるからね」

「死にたくないからそうする。ダグもそれで良いだろ?」

「……少々ぬるい訓練になりそうだが」

「お前の基準で言うな。下級とは言え、ゴブリンも魔物。油断して良いわけじゃない」

「かかってんのは俺の命だから慎重にいきたい。冒険者だから危険は仕方ないが、率先して命の危険を感じたいわけじゃねぇ」

「冒険心がないな。ぎりぎりの限界を超えてこそ、強くなれるのだぞ」

「死んだらおしめぇだろうが。実戦に勝る訓練はねぇってのはわかってっけど、それと無理をするのは違う」

「……口調」

「ダグ。最強の剣士を目指すんだろう?それなら、負けたらお終いなんじゃない。死んだらお終いなんだと理解するべきだ。生きていればこそ、腕が磨ける。

 これから向かう北の地は、腕に覚えがある者が多数いるはずだ」

「……ならば丁度良い。此度のゴブリン退治は、ディグがメインだ。俺はサポートに回る。狩人から共に技術を学び、戦いにおいては万が一がないように見守ろう。

 今回の旅路はディグを鍛えることを第一にしても良いかもな」

「げっ」


 心底いやそうな俺の顔が面白かったのか、ダグが年相応の笑顔を見せた。いつも老成した雰囲気があるけど、まあ、俺と変わらない年だもんな。良い感じにダグの肩の力が抜けたので、この先の旅はもう少し厳しいものになるだろう。主に、俺にとって。

 ジーナに面白いヒントを貰ったから『穴掘り』の練習もしたいんだけどな。そう思っていたら、彼女から追加があった。


「それと、この裏手に小さな空き地があるだろ?あそこを訓練用に借りたんだ、ディグ。

 あとで戻しておくなら好きに使って良いとのことだ」

「じゃあ、底を斜めにした穴とかやってみるか。それができるようなら他にも試したいことがあるんだ」

「ほう?どんなことかな」

「いや、ほら。村内の整備の話をしてたろ?それで、こんなことができないかなって……」

「……ほほう……できるようになれば便利だな。私も挑戦してみよう」

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