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大分遅くなりました。こちらの小説の方が人気がありましたので、こちらを優先して更新していきます。
さて、第2章の始まりです。
ガタゴトと、見晴らしの良い野原を一台の馬車がのんびりと進んでいた。よく見れば、御者台に小柄な二人と、武装して並走している少年がいる。まともな護衛すら付けられない貧乏行商人にしては、馬車には丈夫そうな幌が付き、車体も頑丈な造りになっている。
少々ちぐはぐな旅人たちだが、特にすれ違うものもおらず、魔物や盗賊が隠れるような森も遠いため、穏やかな雰囲気だ。
「あーそういう考えはなかったなぁ。そんなことやったこたぁねえけど、できねぇわけじゃないと思う」
「ディ~グ~。口調!」
「んっ。えっと……そのようなことは考えたことがなかった。挑戦してみたい」
「よし。
せっかく身に着けた言葉遣いだけど、日頃使わないととっさに出てこないだろう?英雄を目指すのであれば、今から丁寧な話し方に慣れておくべきさ。私としては貴族的な会話方法も覚えてほしいけどね」
「それは困難ですね。艱難辛苦の果てに、徒労の楼閣を建てるのが精いっぱいでしょう」
「……やっぱり、無理しなくて良いわ」
「そうしてくれ。
で、話を戻そう。俺は斜めに穴を掘ったことは結構あるけど、底だけ斜めにしたことはない。ただ……できなくはないと思う」
「そうかい?私は、自分で言っててなんだけど、かなり無理なことをお願いしたと思ったんだが。
ちなみに、斜めに掘ったのを見せてもらっても?」
「じゃあ、休憩の時に見せるよ。たしか、底は平だった気がする。でも、ほら。借金返済でいくつも村を回っただろ?そこの一つで依頼されて変な穴も掘ったな。
片側はまっすぐ下に行くんだけど、反対側の壁が斜めになる穴。数日練習したら何となくできるようになったんだよなぁ」
「なんだ。やっぱりいろいろ工夫しているんじゃないか。正確に作ることしかできないなんて謙遜が過ぎるぞ」
「きっちりしたサイズの穴を掘るのはかなり練習したからな。圧縮型でも土除け型でも同じサイズで掘れるのは自慢だ!」
「正直、『穴掘り』の魔術にそこまで努力している人間を私は知らない。でも、まだまだ工夫するべきことがあると思える」
「……そう言われちゃ任せとけとしか言えねぇわな」
土魔術への適性があるのに、生活魔法以外は『穴掘り』しか使えない。それに納得できるまでにはかなり色々とやらかしたし、不承不承納得した後は、ただひたすらに『穴掘り』を極めようと訓練を繰り返した。
きっちり10センチ角の穴。数日かけて成功したら、いつでも可能なように繰り返す。その次は、深さ。足首程度までの浅い物から肩までは入れる深さまで。
延々と。延々と。毎日繰り返した。掘っては埋め。掘っては埋め。そのうち、土を除けるのじゃなく周りに押し付けて圧縮し、壁面を強固にすることもできるようになった。寝ても覚めても訓練の日々。『穴掘り』の魔術が使えるようになってまだ一年ちょっとだが、今までの誰よりも使っていると自負してる。
もちろん、朝晩の他魔術訓練も欠かさない。……あ、やべっ。思い出したら目から汗が。
「過去の誰よりも、その魔術に練達する。使える物が少ないからこその創意工夫。私はそういった人間を何よりも尊敬している。
我が祖母がその一人で、君もその一人だと思っているよ」
「けっ。見る目がねぇな」
「言い方!」
「ははっ。節穴ですな!」
「……」
「「……ぷっ。ははははは」」
「……楽しそうだな」
横を走るダグから苦情が入る。訓練として走りながら草原の気配を探るのに、俺らの会話が邪魔だったらしい。つーか、完全装備で荷物背負って馬車と同じ速度で長時間走ってるお前が変なんだぞ!
しかも、休憩のはずの時間は、馬を休めている横でジーナと模擬戦してるし。
今まで寄った村でも、俺が堀を広く深くしたり水路を作ったりして、ジーナは村で市を開き、情報を集め、時に魔術で村の整備に協力する。その見返りは、農作物や宿泊地、今後の交易への協力だ。ダグ?あいつは近場の森や草原で魔物や魔獣などの危険な生物を駆除していた。
修行の旅でもあるから当然かもしれないけど、少しは休めや!
あーもちろん、こんなことができるのは、この辺りには大きな森がなく、強力な魔物もいないためだ。そんな場所は逆に盗賊がはびこることが多いんだが、どちらかと言えば貧しい地域である西部辺境にはあまり盗賊はいない。居ても利益がないし、森やら山やらの隠れる場所がない。簡単に討伐されちまう。だから、俺らはのんびり会話を楽しめるし、ダグは訓練できてる。ま、完全に気を抜くわけにゃいかんけどな。
「今日は野営か?まだ次の村は見えねぇけど」
「馬車で二日の場所とのことだからな。ダグが走ってくれるおかげでだいぶ時間の短縮はできているけれど、さすがに倍の距離は無理だろう。馬がつぶれてしまう。
村は森が近くにあると聞いてるから、あの森の先だろうな」
「じゃあ、その手前で野営か。あの森で狩りできるかな?時間がないから猪とはいかなくても、兎くらいは仕留められるだろ?」
「そうだな。干し肉はあまり美味しくないからな。新鮮な香草や野草も手に入ると良いんだが……」
「ジーナは本当に食べるのが好きだな」
「美味しい食事は明日への活力になる。自然が厳しい北の地では特にな。だから、領主一族は、南方への公務の際には必ず食料を買い集めることになってるんだ」
「ただの趣味じゃなかったんだな。行商も仕事なんだな」
「趣味であることは否定しないよ。自分用の香辛料なども買ってきているし。
ただ、見栄を張らないといけない当主と違って、目こぼしされる立場を領地のために最大限に活用しているのさ。北は食料がいくらあっても足りないほどだからね。
領主になるのだから、こういったやり方も将来的には覚えてほしい」
「……さあって、そろそろ野営の準備かい?」
「ああ。その先の広場にしよう。森に近すぎても危ない。
……そうそう。もう少し話の逸らし方は勉強すべきだね。学ぶことがたくさんあるね」
「魔術教えてくれよ、魔術。最新の魔術論が知りてぇ」
「もちろん教えるさ。ただし、穴掘りの工夫、話し方、領地経営についても勉強するならね」
「……騙された」
「何を言っているんだ。騙してなんかいないさ。それらも知っておいて損はないだろ?
もちろん、いくらでも魔術論や魔術訓練について語り合おう。幸い、時間はかなりある」
「まあ、しゃあねぇか」




