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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
第1章

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閑話

 華美。その数歩手前で上品に纏まった室内。

 部屋の隅に置かれた棚。置かれた花瓶。飾られた絵の額縁。

 過度の装飾がなく、しかし、精緻な職人の技が光る家具の数々は、当主の美意識を浮き彫りにする。まさに、貴族が、同じ貴族を迎え入れるための客間。

 奇麗に磨かれた木製のテーブルを挟み、にこやかに二人は談笑していた。大柄で歴戦の戦士たる雰囲気を醸す男性と、まだ年若き女性。これが、優雅に整えられた庭であればお見合いかと思われる組み合わせだ。

 おもむろに、麗人が部屋の隅に控えるメイドを見る。その手には、派手に装飾された木箱が。


「こちらは、お近づきの印に」

「おお。ありがたい。

 私としても、そなたの祖母たる辺境伯には世話になった。何かあれば気軽に言うと良い。協力できることはしよう。

 なに、辺境仲間だ」

「それでは、厚かましくもお願いがあります。

 これから向かう村々との、交易をお許しください。こちらはお金よりも小麦や野菜の種がいただきたい。運ぶ品は、子爵からの依頼と称して、必需品を、相場よりもいくぶん安く、売って回りましょう」

「ふむ……阿漕な商売をされるのでなければ、村々は喜ぶでしょう。交易品について、内容もこちらを立てていただくお気遣いもありがたいことです。こちらでの入手については地元の商会へ連絡しておきましょう。私の紹介であれば、相場よりも安く手に入るでしょう。なに、運んでいただけるだけでこちらとしては利益となりますからな。

 しかし、北に向かうにつれ、正直、裕福とは言えない村が多いため、売れる物も、買える物も少ない。そのため、実入りは少ないかと思いますが」

「いえ。こちらとしては、西部とのつながりを作ることが主。今回はそこまで利益を見込んではおりません。

 ただ、こちらで護衛を雇い、その者を我が地まで連れて行こうと思っておりまして」

「……それは、冒険者ですかな?」

「ええ。個人的に知り合いまして。護衛をお願いすることになりました。

 ただ、この付近出身らしいので、交易の際にはそこの村にも寄る予定です」

「おお、それは喜ばれるでしょう。北に直接向かうのですかな?それでしたら道としては細くとも、比較的整備されてますから行きやすいでしょう」

「いえ。その村は少し西に行った村らしいので、そちらを回り……そうですね、十は村を通る予定です」

「……ふむ。少し荒れた道かと思いますが、よろしいですか?」

「はい。北と西。少しでも交易がしやすくする下準備のためですから。それに、私とて未熟とは言え魔術師の端くれ。

 交易がてら、街道と村の整備の手伝いくらいはさせていただきますよ」

「それはそれは……はははっ。高くつきそうですな」

「今後も長いお付き合いをいただけるのであれば、自分の労力など安いものです」


 ひとしきり交渉を兼ねた挨拶を取り交わした二人は、小一時間で話を切り上げた。方や子爵であり、この街を含め周辺を治める人間だ。来客の予定も多い。いくら辺境伯の孫娘とは言え、正式な来訪でなければそうそう長い時間相手をしていられない。

 相手もこの後西部の各村々を回りつつ北へと帰る旅に出るのだから、準備やら何やらで忙しくはある。だからこの会談は、お互いの立場と内容に比べると、かなり簡素に終わった。




「はぁ。やってられんよ」

「旦那様」

「愚痴くらいは言わせてくれ。まったく、北の魔女は祟るな。

 係累ですらあの始末だ」

「挨拶の品を持ち、付近の村を騒がせる断りを入れ、北との交易を願う。極々、正当な働きでしたな」

「見た目は、な。これが挨拶の品だ」

「こっこれは」


 夜。家族との団欒を終え、残った業務を処理している当主が、昼間に貰った飾り箱を開く。それを覗いた初老の執事が思わず声を出した。

 北からの挨拶の品と言えば、武器防具や細工類。そして山より産出する宝石類が基本。しかし、箱の中にあったのは、落ち着いた細工がされた小箱。宝石類ならばこのようにはせず絹にでも包まれているだろう。箱自体は、よく見れば細工物としてはそれなりの価値がありそうだ。

 しかし、あくまで、それなりの価値でしかない。新たに交易を望むにしては、いささか安物と言える。

 つまりは、子爵家に対する彼らの評価が著しく低いとしか思えない物。

 だが、当主は怒っていない。どちらかと言えば呆れていることは、長年の付き合いでわかる。つまりは、この細工物はただの木箱ではない。そこまで一瞬で理解したうえでの驚愕の声だ。


「ああ。冷風の魔道具。それも、最新の品だな。オークションにでも出せば、かなりの値が付く。いくら北部では作りやすくとも、気軽に渡す品ではあるまい」

「最新式の魔道具とは……」

「ふんっ。

 氷の魔石を入れれば冷風が、火の魔石を入れれば温風がでるそうだ。

 こんな物を挨拶の品にするとは」

「そこまでの者には見えませんでしたが」

「魔女の孫娘だからな。本体は魔女だ。

 ここ数年、魔道具作りに力を入れているのは知っていたが……」

「確かに、冷風や氷の魔道具の流通が増えていますが……すべて北の魔女の仕業でしょうか?」

「あちらで得られる素材の半数以上が氷。残りは風、土、木とどこにでもある物ばかりで彼らが求める火の素材などほんの一握り。だからこそ、あそこは困難はびこる地であったのだがな。

 見習いレベルの商品など高値で売れるものではないが、氷系の魔道具は例え数回しか使えなくても欲しがるものはいる。通常なら素材戻しの練習材料にしかならない物を、領主が素材の値段より高く買い上げる。素材戻しなど、未熟なら半分も使い物にならん。だから、見習いのうちは訓練の機会が少なく、成長が遅い。

 しかし、北の地では見習いはさらに練習する費用が手に入り、領主は売る物が手に入り、素材が売れることで経済も上向く。

 他の地では真似できん。弱みを強みに変えよった」

「……そうですな。こちらでは水、木、土、風が素材としては多いですが……低レベルの魔道具は、欲しがる者はいても高くは売れないでしょう。北の地ならでは……南でもできるのでは?」

「南部も南部、コーチッカであれば可能だろうが、他ではそれほど素材に偏りはないらしい。それに、あちらはもっと運びたい物が多いだろう」

「そう考えると、北の地ならではの策ですな。北の魔女と謳われるのもわかる気がします」

「それなのに、王都の馬鹿どもが!平民の出の女だからと軽く見おってからに!我らが生まれるよりも前から辺境伯家当主をしている女傑ぞ。貴族として生きた長さは、あ奴らと比べる余地もなし。

 今回の件も、単純に見えて二手三手の目的があるはず。それを見極め、我が領の利益とせねば」

「ははっ。回るルートや扱う商品だけでなく、その言動に至るまで調査いたしましょう」

「頼んだぞ……同行する冒険者についても、抜かるな」

「承知しました」


 懸念があるとはいえ、一つのことにかかりっきりになれるほど子爵家当主は暇ではない。大きく息を吐いた後に書類へと向かった当主に一礼し、そっと執事は扉を閉めた。

ここで一章が終わりとなります。いかがでしたでしょうか。


4月半ばくらいまでで、「自重が自重しません」https://ncode.syosetu.com/n5171gv/ とどちらを優先して更新するか決めたいと思います。


よろしくお願いします。


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