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穴掘り少年と乾燥少女  作者: ネルシュ
第1章

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1-1

新規小説です。

同時連載の「自重が自重しません」https://ncode.syosetu.com/n5171gv/ と比較し、好評の方を優先的に更新する予定です。

 俺はディグ。『穴掘り』ディグって呼ばれてる。今日も今日とて、堀と水路をきれいにしている。簡単な割に良い金になるんだ、これが。なにせ、俺は穴掘りの魔術が使えっからな。つーか、それしかまともに使えねぇ落ちこぼれだが。


「あちぃ~どうにかならんかね」

「おやっさん。暑いっていくら言ったって涼しくはなんねぇよ。

 それにしてもさっきから文句ばっかじゃねぇか。少しは黙っててくれよ。これでも街の外なんだぜ。調子が狂っちまう」

「おう、そりゃ悪かった。朝から暑いは臭いわで嫌んなったんだ。ま、いつもよりゃましだが。

 俺ぁこれでもDクラス。周りの警戒は怠ってねぇぞ」

「そりゃ助かる。

 ま、安かないが人気がないのがこの仕事だからな。楽じゃねぇわな」

「……いや、普通は安くて人気がねぇやつだぞ、どぶさらいは。懲罰依頼になるときだってあるくれぇだ。

 よくもまあ、魔術が使えるおめぇさんが受けたな」

「おやっさん、さては知らないのかい?俺は落第ドロップアウト組さ。たっかい依頼なんて完了できねぇよ。こんなのが良いとこさ」

「……見りゃわかるさ。卒業したには若すぎる。それにしたって……」

「そもそもクラスはFだぜ?受けられる依頼も限られてんだよ。人間、できることをするしかねぇのさ。高望みは命を縮めるぜ?」

「……おめぇ、年ごまかしてんな?」

「言うに事を欠いて馬鹿言うな。まだ14だ。これでも苦労してるんだぜ?」


 くだらない話をしながら、穴掘りの魔術を使って澱んだ堀の泥を、脇へと積み上げる。こいつは俺の自慢だ。穴掘りの魔術が下手だとこうはいかない。堀のサイズに合わせて上手い具合に調整しないと、こんな使い方はできねぇんだ。一年以上の俺の努力の成果さ!

 おやっさんが言うように、堀掃除は、本来なら新人冒険者やら軽犯罪奴隷やらが人足としてやる単純作業。量も、一人二人じゃ箸にも棒にも掛からねぇ。何せ、街をぐるっと回ってやがるし、水が少なきゃ堀に入って浚わにゃならんし、水が多けりゃ上から長い棒でやる、きっつい作業だ。依頼だって、一年中だ。

 でも、俺なら魔力の続く限り問題なく作業できるし、練達した俺の魔術なら、一回で両手じゃ抱えきれないほどの泥が掘り出せるんだ。馬車で固く踏みしめられた道でだって足首が入るほどの穴が開けられるのは、俺の密かな自慢だ。あ、もちろんそんなことはしねぇぞ。下手したら縛り首だからな、んなこと。

 そんな俺だからこそ、苦労せずに十人分以上の作業ができる。だから、求められている成果は十人じゃ厳しいくらいの量だ。今日の報酬は、人足十人前の一日二千デール。成果に対しては安いが、俺の苦労に対しては高い報酬だ。使うのは魔力と時間と歩く足だけ。朝からやりゃあ、昼には終わる。へへっ、ありがてぇありがてぇ。

 依頼主(街)は掃除を安くできるし、空いた軽犯罪奴隷には別の仕事を割り振れるし、新人はつらい仕事をしなくて良いし、ギルドは不人気な仕事が消化できるし、俺は儲かるし良いことづくめだ。

 元々の業務監視官役に周囲の警戒をお任せすればもっと作業できるって言ってからは、こんな感じで一人付けてくれるようになった。一人でやってた頃は十人前やるのはゴブリンが怖くてなぁ。今はその分仕事の量が増えたけど、警戒しなくて良いし、いざって時に守ってもらえる。おかげで集中できて効率もアップ。街の傍でもここは塀の外。作業に夢中であっちの森から魔物が来たら、下手したら死んじまうんでな。




「……よし。これだけやりゃ十分だろ。これ以上やったら追加報酬を払わにゃいかん。

 はい、お疲れさん」

「ふぅ。だぁいぶ疲れたぜ。昼飯何喰うかな」

「なぁにが疲れただよ。まだ昼前じゃねぇか。

 ほれ、完了証。ギルド行って金もらうの忘れんなよ」

「ったりめぇよ。じゃねぇと飯食えねぇし」

「こんだけ稼いでるのにか?少しは金の使い方も考えろ」

「考えてるさ。じゃあな、おっちゃん。また会おうや」

「死ぬんじゃねぇぞ」


 街の大通りでおっちゃんと別れる。縁起でもないことを別れ際に言うなよな。つーか、これでも魔術学院できちんと勉強してたんだぜ?田舎育ちでもそこまで馬鹿じゃねぇって。まあ、居られたのは一年だけだけどな。

 宿屋には一週間分は先払いしてあるし、ギルドの預けには、自分の装備が全部駄目になっても問題ないだけの金は貯めてある。依頼料の半分を自動で貯めてもらってるから、俺がこんなに持っていることを知ってるのは冒険者ギルドだけ。残った金で、十分な飯と、訓練だけに没頭する時間を日々過ごしてる俺は、変な意味で目立ったのか、若くして『呼び名』がつけられた。それが『穴掘り』だ。それしかできねぇ俺には丁度良い。

 有名な冒険者にゃ、名前とは別に特徴をつかんだ『呼び名』が付く。ほら、『勇者』『灼熱』『白金』なんかはガキでも知ってるだろ?中には俺みたいに、からかい半分でつけられるのもあるんだよな。『逃げ足』や『石拾い』なんかがそうだな。俺の『穴掘り』も、そんな感じだ。誉め言葉じゃねぇわな。

 それにしても腹が減った。魔術を使うと見た目は疲れてないように見えんだけど、実際はすごく腹が減るし、なんか疲れる。体力と同じように魔力ってのがあって、それが減るからなんだが、あんまり知られてないんだよなぁ。使いすぎると死ぬって話は結構知られてんのに。


「おっいたいた。おーい、ダグー!飯行こうぜ!」

「ハッ!フンッ!

 ……ふぅ。ああ、もうそんな時間か。ディグ、午後はどうする?また訓練か?」

「おう、よろしく頼まぁ。報酬は昼と夜。いつもん通りで」

「かまわんよ」


 昼近くなので空いていたギルドのカウンターで仕事の報酬を貰ってから、訓練場に顔を出して目当ての男を探した。まあ、訓練している冒険者は多くても、あれだけすげぇ剣を振り回しているのは一人だけだからすぐわかるんだが。

 年の頃は俺と大して変わんねぇ。一つ上だっけか?年齢的にゃまだ駆け出しなんだが、いっぱしの剣士っぽい風格がある。

 俺の声に反応したダグは、振り下ろしから一転して踏みこみながらの渾身の突きを繰り出し、こちらを振り返った。また今日も朝からやってたのか、遠くからも見てわかるくらい汗だくだ。整った良い顔をしてるのに、いっつもあんな厳しい表情だから女にモテねぇんだよなぁ、あいつ。え?俺?モテたことなんかねぇよ。顔はまあ普通だとは思うが、田舎ん坊の冒険者に、街の人間みてぇな着飾りを求めんなや。

 服についた埃を軽く払いながら近寄ってきたダグと肩を並べていつもの飯屋に向かう。うーん。最初会った時には俺より小さかったのに、いつの間にやら俺よりでかくなりやがって。ガリガリだった身体も、俺より一回り太い筋肉質になってやがる。うらやましいもんだ。俺なんか、一向に背が伸びねぇ。


「無駄にでかくなりやがって。朝から晩まで剣を振りすぎなんだよ」

「……時には休んでるさ」

「おめぇのは休んでるとは言わねぇ。討伐依頼受けてんだろ?実戦じゃねぇか」

「使ってこその剣だからな。それに、無駄とは何だ無駄とは。大きくなければできないこともあるんだ」

「上段からの打ち下ろしだろ?『剣狂い』のダグさんよ」

「そうだな。それもある。

 そもそも、別に自らの意思で大きくなった訳ではない」

「……飯食うようになったからじゃね?つーか、前の生活じゃ大きくなりようがねぇだろ」

「ふむ……お前のおかげだな」


 訓練をつけてもらう代わりに飯をおごる。依頼を受けるのも生活費も必要最低限でただ訓練場で剣を振るっていたダグと、そう契約してからもう一年ほど。ヒョロヒョロだから強くはないけど剣が上手かったダグが、もうギルドでも期待の新人だからな。デカいのは強いってのは間違っちゃいねぇな。この間なんか、一人でオークを倒して来やがった。近くにいた新人冒険者パーティーがわずかな賃金で運んでくれたから良いもんの、後先考えろってんだ。

 昼飯は、いつも屋台のはしごだ。俺はさっき買った肉はさみパンを二つ食や十分なんだが、それだとダグは野菜と肉が足らんと文句を言う。だから、パンは一つにして、肉野菜炒めと野菜スープを大盛りで食うようにしている。食休みしたら、薄暗くなるまで訓練だ。俺の腕前じゃ、まだまだゴブリン1匹と良い勝負だからな。命がかかってんだ。もっと強くならにゃ森の中なんて怖くて行けやしない。

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