4話
視点 ラルク
更新予定時間 本日16時30分頃
「申し訳ございません。只今、大変混み合っておりますので、1人部屋1部屋しか空いておりません」
「え?」
俺は、宿の受付が言った言葉にそう反応する。
「あの、2人部屋、もしくは1人部屋2部屋空いたりしませんかね」
「申し訳ございませんが、これでも最善を尽くしているんです」
この宿は、外見は決して大きくない。
となると、1人部屋の大きさも、かなり狭い。
そんな所で、14歳のリリアと、外見的には20歳程の俺が一緒に一夜を越すなんて、出来るわけがないだろ。
「そこをなんとか」
「申し訳ございません」
無理そうだな。
仕方がないか。
「リリア、1人部屋を2人で使う事、出来るか?」
「はい」
即答。
まあ、リリアが大丈夫なら、俺も腹を括るか。
「……それじゃあ、それでお願いします」
「かしこまりました」
その後、俺達はその1人部屋へと向かった。
「あー結構な狭さだな」
扉を開いて中を覗いた時、俺はそう呟いた。
「それじゃあ、私は、オーデリアのギルドに話してきます」
「ああ分かった……って、どうやって?」
オーデリアのギルドに、どうやってこの遠距離で話すっていうんだ。
「この宿には、共同ですけど、備え付けの【通話魔石】があるんですよ。その魔石に自分の魔力を注ぎ込む事で、それと同じ石を持っている人と通話できるんです」
「……便利だな……」
「まあそういう事なので、とりあえず、ラルクさんは、休んでいてください」
そうリリアは言うと、部屋を出ていった。
……やる事がないな。
疲れてはいるけど、別に眠くはないし、腹も減ってない。
する事が何もないな。
俺は、この空いた時間をボーッとして過ごした。
20分後……
「連絡してきました」
リリアが帰ってきた。
「どうだった?」
「すぐに兵を送り込んでくれるらしいです」
「おーそれは良かったな」
これで、アイツらのやった事がギルドに伝わったから、一件落着だ。
「それじゃあ、今日はもう夕飯にするか?」
少し早いが、太陽は既に沈み、月が上り始めている。
「そうですね。ここら辺は食べ物の値段も安いですし、外で食べますか?」
「お、いいな。そうしよう」
俺とリリアは、その後、外で夕飯を済ませる為に、宿を後にする。
外の人の人数は意外にも多く、中には満席で入れない店もあった。
「中々空いている店が見当たらないな」
まあ確かに、宿の部屋も空いていないなら、当然の事か。
「そうですね……あ、あのお店空いていますよ」
リリアはその店を指で刺す。
「確かに席がある。取られる前に取るか」
「そうですね」
俺達は、席の空いている店に向かい、席を取った。
急いだので、値段など見ずに入ってしまったが、メニューを見てみると、そこそこ安価であったのでかなりホッとした。
30分後……
月が夜の空に現れる頃、俺達は夕飯を食べ終わった。
「ふぅ、結構食べたなぁ」
「そうですね。安い割には量が多かったですからね」
この値段でかなりの量だった俺達は、そこそこ満足していた。
それにしても、この値段で2人分の量って、収入大丈夫なのかこの店。
満腹で少し苦しい俺が、椅子でぐったりしていると、
「すいません。少し、トイレに行ってきてもいいですか?」
と、リリアが立ち上がりながら訊いてきた。
「ああいいぞ」
俺が承諾すると、リリアは店を出ていった。
何故出ていったのかというと、この店にはトイレが無いからだ。
なので、近くの共有トイレに行く必要がある。
そこまで遠くはない、いや寧ろ近いので、すぐ帰ってくると思ったのだが、
「……遅いな」
リリアがトイレに行ってから、既に20分が経過した。
何かあったのだろうか?
俺は心配になり、店を出ようとする。
「ご馳走様でした」
店員にそう言い、店を出る。
代金は、既にリリアが払っているので、問題無い。
「まだ来ないのか?」
外に出ても、リリアの姿は無い。
どうしたものか、と悩んでいると、俺はある事に気がついた。
「ん?」
スン、スン。
なんだ? リリアの、あのマントの匂いがする。
変態だからとか、そういう意味ではなく、さっきよりも、空気の匂いが濃く感じる。いや、すごく色々な匂いがする。
しかも、それぞれの匂いを嗅ぎ分けられる。
まるで、動物みたいに。
「それに……」
すごい色々な音が聴こえるし、暗い筈なのに明るく見える。
「……これなら、辿れるか?」
何故このように、匂いなどが強く感じられるようになったのかは分からないが、この、リリアの匂いを辿っていけば、探せるか?
「というか、匂いで辿れるって変態だな」
まあ、そんな事はどうでもいい。
俺は、暗い夜道を、匂いを頼りに歩き出した。
この話は、7,8話で打ち切らせていただきます