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我は海の子 ※300字程度
私の故郷は海辺であった。
春には若布を採り、夏には友と釣りをする。
秋には短い陽を眺め、冬は寒風に煽られる。
それが当たり前であり、そんな一年を繰り返すのが関の山でもあった。
私はここで一生を送り、嫁を貰い、子に漁を教え暮らすのだ。
そう達観して疑わなかった。
しかしあの日、それが変わった。
たった一枚の紙が。
私を現人神の御許に召し上げ、村の誉れと成し、大海原の英彦に変えたのだ。
決して凡庸ではない、華々しい活躍。
満足だった。
はずなのに。
私は今、静かにたゆたう。
目の前を満たす、重く青く揺る厚い壁。
その向こう側には、愛しい者達を置いたままだというのに。
嗚呼。
最後残った命も去り。
私は伊耶那美の懐へと還っていった。