まで。から #311novels
僕はずっと覚えている
あの日、あのとき、起こったことを
手のひらの上、転がすかのように揺れる足元
混乱の中、唯一のラジオが拾い続けたノイズ混じりの「壊滅」の二言
ざあざあと、耳に迫って消えない波音と号哭
肌を刺す闇夜に舞い、肩に降りかかる雪の儚さ
もたらされた再会の喜びと、見て触れ伝えられた多くの別れ
それだけじゃない
そこから重ねた、たくさんの、たくさんの毎日
あの日は常にその中に、はっきりとした輪郭を伴って在った
そうしてやっと「取り戻した」
取り戻せたのだと、多くは言う
それは、紛れもない事実であるのだろう
けれど、それなのに
僕はどうにも思い出せないんだ
あの日の朝、ニュースで確かめたはずの空模様
歩く道沿いに連なる畑で、いつも作業をしていた人の姿
あの日の昼、学校の机に広げて食べた弁当の味
今年はいつになるかなと、窓から覗いた桜並木の枝の先
あの日の午後、「また明日な」と別れた時の友の顔
商店街に流れていた、流行りの曲と早春の潮風
それはあまりにいつもどおりで
それはあまりにもあたりまえすぎて
数えきれないほどの日々の中にあったものだから
だから、きっと
おそらく僕は、もうわからないのだろう
あの日から始まった「いつも」が
あの日までの「いつも」と同じかなどということは
そして、おそらくはわかってもいるんだ
取り戻したというそれが
思い出せないそれには重ならない
新たに生まれるあしたなのだということも




